ここは男子バスケ部の部室兼更衣室。

部屋の中では、黒子をはじめとする部員達が着替えている最中だ。

と、日向が1冊の"月刊バスケットボール"を発見する。

中を開けば、そこにはキセキの世代の特集が組まれていた。


「おー1人1人特集組まれてるよ、"キセキの世代"。」

「黒子は…記事ねーな。」

「6人目なのに…取材来なかったの?」

「来たけど忘れられました。」

「「「(切ねー!!)」」」

「それに、そもそもボクなんかと5人は全然違います。あの5人は、本物の天才ですから。」


黒子の発言と時刻をほぼ同じくして、誠凛高校に足を踏み入れる1人の男子高校生がいた。

キラキラ光る金髪と端正な顔立ち、190はあるかという身長にスラリと伸びた手足。

そんな女性なら誰もが振り返る容姿をもった青年は、スタスタと歩みを進める。


「おーここか誠凛。さすが新設校、キレーっスねー。」


スズの"キセキの世代"とのファーストコンタクトは、もうすぐそこ…!





第3Q「本気です」





そうとは知らず、スズは今日も忙しくマネージャー業をこなしていた。

今選手達は、5対5のミニゲーム中。

これが終われば、一気にドリンクだタオルだと要望が来るので、それに備えて準備に追われているというわけ。


そんな中でふと視線をコート内に移せば、黒子からボールを受けた火神が、フルスピードからの切り返しで先輩を抜いてダンクをぶちかましたところだった。

その早さとキレに、部員の誰もが賞賛の声を上げる。


「すげーな!フルスピードからあの切り返し!?キレが同じ人間とは思えねー。」

「もしかしたら"キセキの世代"とかにも勝ってる…!?」

「あるかも!つかマジでいけんじゃね?」

「あんな動きそうそうできねーって!」

「むしろもう超えてる!?」


そして以前火神に対して、"今の完成度では足元にも及ばない"と言い放った黒子さえも、もしかしたら…という希望を抱いているようだった。

そんなことを考えていた彼は、少し放心していたのだろう。

スズが声をかければ、ビックリしたように振り向いた。


「テツ!」

「! スズ。」

「どーしたの?ボーっとして。集合かかってるよ?」

「あ、すみません。」


集合をかけたカントクの元に部員が集まると、リコは自分が取り付けて来た試合について報告した。

さて、今回のお相手は…?


「海常高校と練習試合!?」

「っそ!相手にとって不足なし!1年生もガンガン使ってくよ!」

「リコ先輩、またすごいとこと組みましたね…!」

「まぁね〜」

「不足どころかすげえ格上じゃねーか…」

「そんなに強いんですか?」

「全国クラスの強豪校だよ。I・Hインハイとか毎年フツーに出とる。」

「「「ええっ!?」」」


しかしそれよりも気になるのは、先程リコが漏らしたあのこと…

ただでさえ強い高校に、今年は更に厄介な1年生が入学したのだ。


「海常は今年"キセキの世代"の1人、黄瀬涼太を獲得したトコよ。」

「(…"キセキの世代"!!)」

「良かったね、大我。早速"キセキの世代"と戦えるじゃん!」

「あぁ!(まさかこんなに早くやれるなんてな…ありがてー!テンション上がるぜ!)」

「しかも黄瀬ってモデルもやってるんじゃなかった?」

「マジ!?」「すげー!」「カッコよくてバスケ上手いとかヒドくね!?」

「モデルだぁ…?」


モデルの一面ももつ黄瀬に対して妬み、卑屈になる男性陣とは打って変わって、スズはその話を聞いた途端、一気に顔が険しくなっていた。

そんな彼女の様子に、リコが怯えながら声をかける。


「ちょ、スズ…ものすごく不機嫌そうな顔してるけど、どうしたの?」

「…私、中学時代からキセキイエローのことは苦手だったん「ちょっと待って!」

「はい?」

「"キセキイエロー"って何よ?」

「あ、黄瀬さんのことです。"キセキの世代"ってあまりに強すぎるから、中学時代に友達と戦隊ヒーローみたいに呼ぶのが流行ってて。」

「あははっ!それ面白いわね、私も使おっ!…で?何で苦手だったのよ。」

「何かチャラチャラしてるから。」

「え、でも会ったことはないんでしょ?てかスズ、顔と名前一致してないって言ってたじゃない。」

「そうなんですけど…

 彼を見かけた人の話聞いてると、試合中なのに女の子に手振ったり、試合後にサイン会したり…何かバスケに対して真摯じゃない感じがして。

 それに加えて、今のモデルのことです!バスケやってるのに、何でモデルもやらなきゃいけないんですか!」


"もっとバスケに情熱を向けるべきです!"と文句を言うスズを、リコは何とも愛おしげに眺めていた。

この子がうちのマネージャーで良かったと、心から思っているようだ。

そして彼女はスズの頭をポンポンと撫でながら、笑顔でこう声をかける。


「じゃあうちの選手達に、キセキイエロー退治してもらわないとね!」

「! はいっ!」


リコの言葉ですっかり笑顔を取り戻したスズは、ふと体育館内の異変に気づく。

いつもよりも何だかザワザワと騒がしいのだ。

しかも聞こえてくる声は、普段聞き慣れてる太く低い声ではなく、どれもキレイな高音ばかり。

それもそのはず…

体育館内に、女の子達の行列がズラっと並んでいるのだから。


「リ、リコ先輩、これは一体…!」

「ん、何が?…って、ちょ…え?何!?なんでこんなギャラリーできてんの!?」

「…はっ!もしかしたらテツや大我を見に来たファンの子かも!」

「いや、それはないでしょ。それだったらもっと早く来てるはずじゃない。」

「あ、そか…」


いろいろと考えを巡らしながら、2人は列の先頭を探す。

順々に追っていくと、そこには体育館にあるステージの端に腰かける1人の男子高校生がいた。


「あーもー…こんなつもりじゃなかったんだけど…」

「……アイツは…!」

「(! "キセキの世代"の…なんでここに…!?)」

「ん?あれ、誰?すんごいカッコイイんだけど…!」

「スズ、あれが黄瀬君です。」

「…え!?あ、あれが…」

「…お久しぶりです。」

「ひさしぶり。」

「「「黄瀬涼太!!」」」

「スイマセン、マジであの…え〜と…てゆーか、5分待ってもらっていいスか?」

「(! こいつが…!)」


これがスズと、キセキイエローこと黄瀬涼太との初対面であった。

そしてそれから5分後…

きっかり時間通りに女の子全員へのサインを書き終え、彼はステージから軽やかに降り立った。

しかし笑顔でこちらへ歩いてくる黄瀬とは対照的に、表情が冴えないスズ。

知らなかったとはいえ、苦手とするキセキイエローのことをカッコイイと思ってしまったことが、思いのほかショックだったようだ。

リコから、スズの黄瀬に対する想いを聞いた日向達が、そんな彼女に続々と慰めの言葉をかけてくる。


「スズ、どんまい。顔知らなかったんだから、しょうがねーって!」

「コガ先輩…でも、やっぱり悔しいです。何か負けた気分。」

「イケメンってのは得てしてそういうもんだよ。…オレみたいにな。」

「日向先輩、こちらの伊月様をどうにかしてください。」

「わり、それはムリだ。」

「うー…」

「(ポンポン)」

「! 水戸部先輩…ありがとうございます…!」

「でもよースズ、物は考えようだぜ?」

「?」

「これで、キセキイエロー退治の理由が増えたじゃねーか!」

「キャ、キャプテン…!」


日向の力強い言葉に、またもスズは笑顔を取り戻す。

その単純さは、先輩陣から見れば微笑ましいもので…!

彼女はすっかりバスケ部のマスコットと化している。



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