海常高校に到着した誠凛メンバーは、その敷地や運動場の広さに驚きの声を上げていた。

キョロキョロと周りの景色を眺めながら、一行はとりあえず直進を続ける。

自分の学校との違いを楽しみながら、スズも列の1番後ろを歩いていた。

と、不意に前を歩く黒子がこちらを振り返り、彼女の名前を呼んだ。


「スズ。」

「ん?何、テツ?」

「火神君のこと見て下さい。」

「え?…うわっ!どうしたの、その目。」

「目?」

「いつにも増して悪いです、目つき…」

「ふふっ。真っ赤だよ?」

「るせー。ちょっとテンション上がりすぎて寝れなかっただけだ。」

「…遠足前の小学生ですか。」

「あははっ!バスケバカだね〜本当!」


自分の肩をバンバンと叩きながら笑うスズに、火神はすっかりお馴染みになった"頭掴みの刑"を執行した。

"痛い"と叫ぶスズに、勝ち誇ったような表情の火神、そしてその2人を微笑ましく見つめる黒子。

そんな彼らのもとに、あの男が姿を現す…!


「どもっス。今日は皆さんよろしくっス。」

「黄瀬…!」

「広いんでお迎えにあがりました。」


そう言ってにこやかに手を振る黄瀬は、黒子を見るなり表情を変え、今度は泣きながら近づいてくる。

スズが彼のことを苦手だと知っている2人は、彼女を隠すように立ち、黄瀬と向かい合う。


「黒子っち〜あんなアッサリ フるから…毎晩枕を濡らしてんスよ、も〜…女の子にもフラれたことないんスよ〜?」

「(…何故いつも女の子絡みのプチ情報をぶっ込んでくるんだ?別に知りたくないんだけど!)」

「フッ…スズ、顔険しくなってんぞ。」

「嘘っ…!」

「…サラッとイヤミ言うのやめてもらえますか。スズがイライラするんで。」

「ちょ、テツ…!」


黒子の言葉に、チラッとスズの方を見る黄瀬だったが、すぐに視線を彼女の隣にいる火神に移す。

そして彼を挑発するような顔で、再び話し始めるのだった…


「だから黒子っちにあそこまで言わせるキミには…ちょっと興味あるんス。

 "キセキの世代"なんて呼び名に別にこだわりとかはないスけど…あんだけハッキリ ケンカ売られちゃあね…

 オレもそこまで人間できてないんで…悪いけど本気でツブすっスよ。」

「ったりめーだ!」


なんて会話をしながら歩いていると、いつの間にか目の前には体育館が。

空いている扉から中に入る黄瀬に続いて体育館内に入ると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「…って、え?……片面…でやるの?もう片面は練習中…?」

「てかコッチ側のゴールは年季入ってんな。」

「ああ来たか、ヨロシク。今日はこっちだけでやってもらえるかな。」


試合のために準備されていた、古いゴールと片面コートに驚く誠凛メンバーにそう声をかけてきたのは、海常高校バスケ部監督・武内源太である。

ずんぐりと太った体を揺らしながら言葉を発する武内に、リコも何とか平静を保ちながら挨拶を交わす。


「…こちらこそよろしくお願いします。…で、あの…これは…?」

「見たままだよ。今日の試合、ウチは軽い調整のつもりだが…出ない部員に見学させるには、学ぶものがなさすぎてね。

 無駄をなくすため、他の部員達には普段通り練習してもらってるよ。

 だが調整と言っても、ウチのレギュラーのだ。トリプルスコアなどにならないように頼むよ。」


誠凛をバカにするような武内の言葉に、部員達は揃って顔をしかめた。

あの黒子でさえ眉間に皺を寄せ、リコと火神においては尋常じゃないほどの青筋が浮かんでいる。

そんな一気にピリピリムードになった部員達の中で、1人穏やかな表情を保つスズ。

もちろん彼女も頭に来てはいるのだが、ここで自分まで怒りを表に出せば、チームの雰囲気は悪化する一方。

ということで、怒りを鎮める側に回った彼女は、相手に聞こえないぐらいの声でリコと火神に声をかける。


「…」

「リコ先輩…!気持ちは分かりますが、青筋引っ込めてください!!」

「(ナメやがって…つまりは"練習の片手間に相手してやる"ってことかよ…)」

「火の神ー!静まりたまえー!」


怒りでビキビキと震えるリコの背中を擦りながら、続いて今にも相手に飛びかかりそうな火神の腰にしがみ付きながら、スズは必死に声をかけた。

彼女のお陰で少し落ち着きを取り戻した2人だったが、お次はキセキイエローが吹っかけてくる。


「…ん?何、ユニフォーム着とるんだ?黄瀬、オマエは出さんぞ!」

「え?」

「各中学のエース級がごろごろいる海常ウチの中でも、オマエは格が違うんだ。」

「ちょっ、カントクやめて、そーゆー言い方!マジやめて!」

「黄瀬抜きのレギュラーの相手も務まらんかもしれんのに…出したら試合にもならなくなってしまうよ。」

「「「なっ…!」」」

「すいません、マジすいません!大丈夫!ベンチにはオレ入ってるから!

 あの人ギャフンと言わせてくれれば、たぶんオレ出してもらえるし!オレがワガママ言ってもいいスけど…

 オレを引きずり出すこともできないようじゃ…"キセキの世代オレら"倒すとか言う資格もないしね。」


そう言って、黄瀬は何とも挑発的な表情を向ける。

あまりの発言に、スズの"マネだけでも穏やかでいよう作戦"さえも崩れそうになった、その時…!

タイミング良く、武内から更衣室への案内を命じられた生徒が誠凛メンバーの元にやってきた。


「ほら、みなさん!案内係の方来て下さったんで、移動しましょ!ねっ。…テツも行くよ?」

「はい。…黄瀬くん、アップはしといて下さい。出番待つとかないんで…」

「あの…スイマセン。調整とかそーゆーのはちょっとムリかと…」

「「そんなヨユーはすぐなくなると思いますよ。」」


黒子は黄瀬に、リコは武内に、それぞれそう言い放つ。

楽しそうに頬を緩める黄瀬と、少しイラつきを表に出す武内。

そんな2人と、我が誠凛メンバーの間に挟まれ、スズは何とも気まずい気持ちでいた。

ほっとけばいつまでも相手を睨んでいそうなリコや黒子、火神の背中を押しながら、スズは更衣室へ向けて歩き出した。

それから数十分後…


「いざ、キセキイエロー退治!!誠凛ー…ファイ!!」

「「「オー!!」」」


スズのミラクルボイスで送り出された選手達は、程良い緊張感と共にコート内へと入っていく。

そして…


「それではこれから、誠凛高校 対 海常高校の練習試合を始めます!!」


審判の声に応えるように、10人の選手達がセンターラインへと集まる。

しかしやはりというか、当然というか、どうしても1人忘れられてしまう子がいて…


「…や、あの…だから始めるんで…誠凛、早く5人整列して下さい。」

「あの…います5人。」

「「「…おおぇ!?」」」

「もう慣れましたね、あのやり取り。」

「そうね〜本当気抜くと全然見えなくなっちゃうからな〜黒子君は。」

「(うっわ。目の前にいて気づかなかったし…)」

「(ショボ…こりゃ10番火神だけだな、要注意は。)」

「(てかバスケできんの!?)」


相変わらず薄い影のせいで気づいてもらえない黒子に、笠松率いる相手チームも呆れ顔だ。

もちろんそれは監督の武内も同じで、溜息と共に文句を口にする。


「話にならんな…大口たたくから、もう少しまともな選手が出てくると思ったが。」

「…どうですかね。まあ確かに…まともじゃないかもしんないスね。」


しかし黄瀬だけは、その顔に笑みを見せていた。

かつてのチームメイトである黒子のプレイが見れることを、心から楽しみにしているような…そんな顔だ。



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