「何?結局、全面使うの?」

「ゴールぶっ壊した奴がいんだってよ!」

「はぁ?…うお!マジだよ!!」


火神のゴール破壊事件により、急遽全面側のコートを準備する海常バスケ部の面々。

その誰もが、見事にぶっ壊れたゴールをチラッと見ながら作業を進めている。


一方の誠凛メンバーも、自分達の荷物と共にベンチを移動中。

スズもドリンクやスコアブックなど、あらゆる物を抱えて後に続く。

と、そんな彼女の目に、火神が持つゴールのリングが飛び込んできた。


「大我!」

「ん?」

「そ、それ…ちょ、ちょっと持たせて!」

「それ…って、リングか?」

「うん!」


スズにとって、リングというのはどうしたって届かない存在。

そのリングが今自分の目の前にあることに、どうにも興奮を抑えられないようだ。

キラキラした瞳でこっちを見つめるスズに呆れたような笑顔を見せながら、火神は持っていたリングを彼女の頭にかぶせた。


「おわっ!ちょ、何すんの!」

「持ちたかったんだろ?リング。」

「そうだけど、何で頭にかぶせんのよ!」

「スズ、すごく似合ってます。」

「えっ、本当に!?嬉しい〜!…って言うわけないでしょ!」

「ハハハッ!何かそうしてっとオマエ、ボールみてーだな。」

「ちょ、それは顔が丸いってことかしら!?」

「火神君、それは失礼です。スズの顔は丸いんじゃなくて、まん丸です。」

「おーい!フォローできてないぞーテツー!」


こんな具合に何とも楽しそうに話している3人の元へ、またもキセキイエローが絡んでくる…





第5Q「伊達じゃないですよ」





「楽しそうっスね。」

「黄瀬!」

「クックッ…確かにありゃギャフンっスわ。監督のあんな顔初めて見たし。」

「人ナメた態度ばっかとってからだつっとけ!」

「ふふっ。」


首からリングをぶら下げた状態でクスクスと笑うスズを、黄瀬は楽しそうに眺める。

自分達の会話より遥かに面白い状態になっているにも関わらず、何事もないように普通に黒子達と会話を続けているその姿が何ともおかしいらしい。

そんな彼女に、黄瀬は得意の爽やかスマイルで話しかける。


「首にかけてるそれ、邪魔じゃないんスか?」

「え、あ〜っと…邪魔…ですね。」

「ふふっ。じゃあ預かるっスね。」


そう言って、緊張気味に話すスズの首からリングを取ると、黄瀬はまたモデルモードの笑顔を彼女に向けた。

ふわっと笑うその顔は、やはり女性を魅了するもので…!

彼のことが苦手なスズでさえ、思わず顔を赤らめ下を向いてしまった。


「スズ、顔真っ赤ですよ。」

「だ、だって…あの笑顔間近で見たらさ…!」

「んだよ、情けねーな。あんな奴にやられやがって。」

「他校のゴールぶっ壊した人に言われたくないわ!」

「るせっ!」

「…それより火神君……ゴールって…いくらするんですかね?」

「え!?あれって弁償!?」

「確か相当高かったような気がするな〜」

「マジかよ!?」


焦る火神を見てスズと黒子は顔を見合わせて笑い、2人並んで荷物の移動を再開した。

そんな彼らのやり取りを何とも言えない表情で見つめていた監督の武内は、イライラした口調で海常バスケ部のエースを呼んだ。

そして何やら指示を出した後、いよいよ試合再開の声が飛ぶ…!


抜けるような高音のホイッスルに続いて、ザワザワと騒ぎ出すギャラリー。

そのザワザワの原因はもちろん…


「キセキイエロー…!」

「やっと出やがったな…」

「スイッチ入るとモデルとは思えねー迫力出すな、キセキイエロー。」

「…伊達じゃないですよ、中身も。」

「(改めて視ると…バケモノだわ…黄瀬涼太…!)」


エース・黄瀬の登場に、誠凛メンバーは一気に色めき立つ。

先程までの柔らかい印象と打って変わって、すっかり選手モードになった彼は、"キセキの世代"の名に相応しい空気をまとっていた。

そのピリピリした雰囲気を感じ、少し黄瀬への印象が変わり始めていたスズだったが…


「「「キャアア!黄瀬クーン!!」」」


突如聞こえてきた大音量の声援…というより、歓声といった方がいいほどの黄色い声。

それに対し爽やかスマイルで手を振り返す黄瀬に、再びスズの彼への印象はガクッと下がってしまった。


「…スズ?」

「…あれですよ、あれ。あれが嫌だって言ってるんです!何で試合前にあんなチャラつけるんですか!?」

「わ、分かった。分かったから落ち着いて…!」

「うおわ!?なんじゃい?」

「あーあれ?アイツが出るといつもっすよ。…てゆーか、テメーもいつまでも手とか振ってんじゃねーよ!!」

「いてっ!スイマッセーンっっ!!」

「シバくぞ!!」

「もうシバいてます…」

「おぉ…!素敵な先輩がいるじゃないですか!」


スズからお褒めの言葉を頂戴したのは、海常バスケ部キャプテンの笠松である。

彼は調子に乗っている自分の後輩に、それは見事な飛び蹴りを食らわせたのだ。

そして更に肩パンをお見舞いしながら、言葉を続ける。


「てゆーか今の状況分かってんのか、黄瀬ー!」

「いてっ!いてっ!」

「あんだけ盛大なアイサツもらったんだぞ、ウチは〜…キッチリお返ししなきゃ失礼だろが!」


そう言って自分の方へ真剣な眼差しを向ける笠松に、黄瀬もキュッと顔を引き締める。

その顔からはもう一切の笑いはなくなっていた…



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