さて、エンドラインからの海常ボールで試合再開。

黄瀬のマークは、もちろん火神だ。

開始早々、海常側は火神にスクリーンをかけ、そうすることでフリーになったエースに、笠松がすかさずパスを出す。

そしてボールを受け取った黄瀬は、ディフェンスに入った日向を圧倒する高さで飛び上がり、そして…


「こっちもアイサツさせてもらうっスよ!」

「(…!コイツ、まさか!?)」

「えっ、嘘でしょ…?」


火神とスズの脳裏に浮かぶのは、先程海常ゴールをぶっ壊した誠凛エースのダンク。

まさかとは思いつつも、拭い切れない不安。

そんな誠凛メンバーを嘲笑うかのように、黄瀬は不安を現実のものにする。

日向の上から、驚異的なパワーでダンクを決めたのだ。

ギャラリーからは盛大な歓声が上がるものの、笠松はどうも納得がいっていないようで。


「バカヤロー!ぶっ壊せっつったろが!!まだくっついてんよ!」

「いって!スイマッセン!」

「「「えええ〜!?」」」


火神のようにゴールを壊せなかった黄瀬に蹴りを入れながら怒鳴る笠松。

だが、未だギシギシと音を立てて揺れるリングを見る限り…


「(威力はオレより…)」

「大我のより、力強いダンク…」

「女の子にはあんまっスけど…バスケでお返し忘れたことはないんスわ。」

「! …大我ーっ!!」

「おぅ!…上等だ!!黒子ォよこせ!!」


またしても試合中にチャラい発言をした黄瀬についにスズもイライラを抑えられず、我らがエースの名を呼ぶ。

それに応えるように返事をした火神は黒子にパスを要求し、自身は黄瀬を振り切って飛び出した。

その一瞬を見逃さず、黒子も笠松のマークをかいくぐりパスを出す。


「こっちも全開でいくぞ!!」


火神のダンクで再びお返しをした誠凛。

試合はまだ、始まったばかり…!



試合開始から3分…

得点板には、16−17という異様な点数が刻まれていた。

3分でこの点数は、ちょっと考えられないようなハイペースだ。


「(こんなの…ノーガードで殴り合ってるようなもんじゃない…!

 DFは当然全力でやってる…ただそれより、お互いの矛が強すぎる…!)」

「(これが…"キセキの世代"同士の衝突…!)」


リコとスズがそれぞれこの状況に戸惑っているように、コート内の選手達もかなり参っている様子。

日向も、相手のDFにいっぱいいっぱいになっていた。


そう、海常は何も黄瀬だけがすごいわけではないのだ。

彼が特別目立っているから忘れられがちだが、他の4人もかなりの実力者なのである。

そんな苦しい場面を打開するのが、スポーツにおけるエースの役割。

エースが乗れば、チームも乗る。

火神もそれが分かっているのか、積極的に攻めていた。


素早いドライブの後、一転キュッと動きを止め、そのままフェイダウェイ。

味方も驚くいいプレイだったが、そのシュートは黄瀬に止められてしまう。

そしてボールを奪った彼は、今自分が目の前で見た火神のプレイをコピーし、キレイなフェイダウェイを決めた。

そんな2人のプレイを見ていた黒子は、攻守交代のためコートを移動していた日向へ声をかけた。


「キャプテン、タイムアウト欲しいです。」

「おわぁ!!そして何故オレに言う!?」

「ちょっと今のハイペースは体に優しくないです。」

「え?ちょ、何、そのしかも軟弱発言!?」

「あと火神君を一度クールダウンしないと…」

「え?」

「火神君がムキになって挑めば挑むほど、黄瀬君はそれ以上の力で返してくる。

 今のままじゃ、追いすがるのが精一杯でジリ貧になります。」

「(いつもより饒舌だな…もしかしてオレが考えてる以上にヤバイ…?)

 …らしーな。カントクも同じこと考えてる。」


リコ&スズ率いるベンチ側でも、同じような会話がなされていた。

やはりこの状態はあまりいいものではない。

チーム全体として完全にオーバーペースだし、何よりエース・火神の疲労度が尋常じゃないからだ。


「…スズ、タイムアウト取るわよ。」

「はい、いつでも準備できてます!」

「よし!」

「誠凛、タイムアウトです!」


審判の声を合図にベンチへ戻ってきた選手達は、皆が皆、相当量の汗をかいていた。

スズはそんな彼らへ流れるようにドリンクを渡し、続いて背後からタオルを頭にかけていく。


「スズードリンクのおかわりあるか?」

「はい、どうぞ!…日向先輩、随分飲んでますけど大丈夫ですか?」

「おー何とかな。サンキュ。」

「(みんなまだ5分とは思えないほど疲れてる…ムリもないわ。攻守が変わるスピードが尋常じゃない!)」


ドリンクやタオルを渡される度にお礼を言う日向達だったが、その声は小さく、今の疲労度を如実に物語っていた。



一方、海常ベンチでは…

散々バカにしていた誠凛に、22−25というそこそこの試合をさせていることに、武内の怒りは爆発していた。


「なんだこのていたらくは、お前ら!!何点取られりゃ気がすむんだ!DF寝てんのか!?オイ!」

「つっても、あの1年コンビはヤベーぞ実際。10番火神はオマエが抑えてるからいいとして…なんなんだ、あの異常にウッスい透明少年は…」

「でしょ?黒子っちは実は…」

「なんで嬉しそうなんだテメー。」

「イテッ!だ、大丈夫っスよ、たぶん。すぐにこの均衡は崩れますよ……なぜなら…」



再び、誠凛ベンチ。

リコが選手の前に座り、作戦を話している。


「とにかくまずは黄瀬君ね。」

「火神でも抑えられないなんて…」

「もう1人つけるか?」

「なっ…ちょっと待ってくれ…ださい!」

「ださい…?」


スズから受け取ったドリンクを慌てて飲み干すと、火神は変な敬語でカントクに訴えた。

自分だけでは頼りないと思われていることに、焦りと動揺が隠せないようだ。

そんな中、黒子がボソッと言葉を発する。


「…いや、活路はあります。」



"彼には弱点がある"

黄瀬は誠凛ベンチを、黒子は海常ベンチを見つめながら、揃ってそう言った。

さぁお互いの弱点とは一体…?



to be continued...



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