黒子と黄瀬がそれぞれ抱える弱点。

そこをどう突くかが、勝負の分かれ目になりそうだ…!





第6Q「勝てねェぐらいがちょうどいい」





黒子がボソッと呟いた、"彼には弱点がある"という言葉に、誠凛メンバーは興味を示す。

それはそうだろう。相手チームのエースを止める手段が何か浮かぶかもしれないのだから。

スズもスタメンが座るベンチの後ろに立ちながら、黒子の話に耳を傾けた。


「なんだよ、そんなのあんなら早く…」

「いや…正直、弱点と言えるほどじゃないんですけど…それよりもすいません。もう1つ問題が…」

「え?」「テツ、どっか痛いの?」

「いえ、その点は大丈夫です。そうではなく…予想外のハイペースで、もう効力を失い始めてるんです。」

「「「…!?」」」


何のことだかサッパリ分からないスズ達は、揃って怪訝な顔をする。

しかし分からないながらも、それが誠凛にとってマズイことなんだろうということは理解できた。

黒子が失い始めている効力とは…?



「彼のミスディレクションは、40分フルには発動できないんス。」


海常ベンチでそう話すのは、かつてのチームメイトである黄瀬だ。

突然の聞き慣れない単語に、笠松は顔をしかめる。


「ミスディ…何!?」

11番黒子っちのカゲの薄さは、別に魔法とか使ってるわけじゃなくて…

 ザックリ言えば、他に気をそらしてるだけ。一瞬ならオレでもできます。オレを見ててください。」


そう言ってから、黄瀬は持っていたボールを軽く真上へ放る。

瞬間、今さっき黄瀬を見ているよう言われたにも関わらず、笠松の目線は放られたボールへ移っていた。

そして落ちてきたボールを受け止めながら、黄瀬は言う。


「ホラ、もう見てない。」

「あ!」

「黒子っちは、並外れた観察眼でこれと同じことを連続で行って、消えたと錯覚するほど自分をウスめてパスの中継役になる。

 まあ、やんなくても元からカゲはウスいんスけど…

 けど、使いすぎれば慣れられて、効果はどんどん薄まっていくんス。」



突然の、そしてあまりに衝撃的な事実を聞かされ、スズや誠凛メンバーは驚きを隠せない。

リコに至っては、驚きを通り越して怒りに変わり…

ついには黒子にヘッドロックをかましている。


「…!そーゆー大事なことは最初に言わんかー!!」

「すいません、聞かれなかったんで…」

「聞かな なんもしゃべらんのか、おのれはー!!」

「スズ…助けてください…」

「カ、カントク落ち着いてー!テツがメキメキいってるー!!」

「はっ!スズ…ありがと。危うく絞め殺すところだったわ。

(でも私もウカツだった…!こんなトンデモ技がノーリスクでやれるって方が甘いわ…!)」

「タイムアウト終了です!!」

「あれ、もう終わり!?」

「あー!黒子君シバいて終わっちゃったー!!」


何やかんやで黒子を責めているうちに、あっという間にタイムアウトは終了した。

作戦らしい作戦は何も決めていないのに…だ。

しかし終了の合図が出たのなら、いつまでもベンチにはいられない。

選手達は次々に立ち上がり、コートへと入っていった。

スズはそんな選手達からタオルを回収し、気持ちは焦りながらも何とか笑顔で送り出す。

と、コートに入る直前、火神がリコへ話しかける。


「このままマーク続けさせてくれ…ださい。もうちょいでなんか掴めそうなんス。」

「あっちょ待っ…火神君!もう!」

「カントク、とりあえず全体への指示だけでも…!」

「そうね!…とにかく、DFマンツーからゾーンに変更チェンジ

 中固めて、黄瀬君来たらヘルプ早めに!黄瀬阻止最優先!!」

「「「おう!」」」

「あと黒子君はちょっとペースダウン。思いきり点差引き離されない程度に…できる?」

「やってみます。」

「頼んだよ、テツ!」

「はい。…今のスズの声で、体はすごくいい感じです。だから頑張ってきます。」

「! うん!」


全開の笑顔で自分を送り出してくれるスズとハイタッチを交わし、黒子はコートへと足を踏み入れた。

一方全員を見送った後のベンチでは、リコがスズに抱きつきながら、タイムアウトを1つ無駄にしてしまったことを嘆いていた。

前半で2つしか取れないうちの1つを使ってしまったことは、なかなか痛い…



- 22 -

*前次#


ページ:

第1章 目次へ
第2章 目次へ

章選択画面へ

home