タイムアウト終了後、リコの指示通りDFをゾーンに切り替える誠凛。

しかしゾーンとはいっても、黄瀬のマークは引き続き火神が担当していた。

それはつまり…


「(ほぼボックスワンだな…10番火神をみんなでフォローして、とにかく黄瀬を止めようってカンジか。)フウ…やんなるぜまったく。」


1つ溜息を落とした笠松は、そう呟いた次の瞬間、見事な3Pシュートを放った。


「海常レギュラーナメてんのか?ヌリぃにも程があるぜ。」

「!」

「…ふう…ったく…しんどいね…つくづく。」

「すごいな、笠松先輩…あそこで3Pスリーかぁ。」

「ちょっとスズ、敵褒めてどーすんの!」

「あ、ふいまへん!」

「アンタは迂闊に敵チームを褒めちゃダメ!」

「へ?はんへれふか?」

「朝ここに来るとき言ったでしょ!スズの声は、聞いた人にリラックス効果を与えるって。

 私は、それは相手が例え敵でも同じようになると思ってるの。

 もし聞こえれば、その人もリラックスして動きが良くなっちゃうでしょ?」


思わず敵を褒めてしまったスズを注意しながら、リコは彼女のほっぺを抓った。

声は、出せば誰にでも聞こえてしまう。

聞こえた人全員にリラックス効果を与えるスズの声は、一歩間違えれば敵の攻撃力をも上げてしまうことになるのだ。


「だから味方を応援するときも、ただ"頑張れ"って言うのはナシよ。それだと相手にも効いちゃうから。

 "誠凛、頑張れ!"とか"頑張れ、テツ!"とか、必ず対象を明確にするよーに!」

「りょ、了解しました!」


ベンチでスズがリコから諸々の注意を受けている間に、試合は誠凛にとってマズイ流れになっていた。

火神は黄瀬のマークを外せずに攻め切れず、黒子も心配していた通り、相手に慣れられてスティールされることが多くなっている。

その結果、ジワジワと点差は開いていったのだった…

そして、火神のシュートがまたも黄瀬に止められた時、不意にエース同士が会話を始める。


「…そろそろ諦めたらどっスか?今のキミじゃ、"キセキの世代"に挑むとか10年早えっスわ。」

「なんだと…!?」

「この試合もう、点差が開くことはあっても、縮まることはないっスよ。」

「大我とキセキイエロー、何か喋ってる…」

「本当ね…」


エース同士の会話に、スズとリコもベンチから耳を澄ます。

そうすれば、少しずつ黄瀬の声が聞こえてくる…!


「チームとしての陣型フォーメーションや戦略以前に、まずバスケは"体格サイズのスポーツ"。

 誠凛キミら海常ウチじゃ、5人の基本性能スペックが違いすぎる。

 唯一対抗できる可能性があったのはキミっスけど、だいたい実力はわかったっス。

 潜在能力ポテンシャルは認める。けどオレには及ばない。

 キミがどんな技をやろうと、見ればオレにはすぐ倍返しできる。」

「…!」

「どう足掻いてもオレには勝てねぇスよ。ま…現実は甘くないってことスよ。」

「く…っ!」

「おー…大我くん、コテンパンに言われてる。」

「そうね〜…で、何でスズはそんなに落ち着いてるのよ。最初みたいにイライラしたりしないの?」

「んーあれだけ言われると、何か逆に気持ちいいです。」


しかしこの状態になっているのは、どうやらスズだけではないようで…

言われた当の本人も、何故か急に笑い出していた。

突然の大きな笑い声に、敵味方問わず若干引き気味である。


「クックック…ハッハ…ハハハハハ…!」

「…?」

「ちょっと、スズのクラスメイト笑ってるわよ?」

「あははっ!…言われ過ぎて気持ちよくなっちゃった人、私だけじゃなかったみたいですね。」

「ワリーワリーちょっと嬉しくてさァ…そーゆーこと言ってくれる奴、久しぶりだったから。」

「…!?」

アメリカむこうじゃ、それがフツーだったんだけどな。」

「え!?アメリカいたの!?すげえっっ!」

日本こっち帰ってバスケから離れたのは早トチリだったわ。ハリ出るぜ、マジで。

 やっぱ人生、挑戦チャレンジしてナンボじゃん。強ぇ奴がいねーと、生きがいになんねーだろが。」


そして最後にこう告げる。

"勝てねェぐらいがちょうどいい"…と。

更に火神は、辺りをキョロキョロを見回しながら続ける。


「…おかげでわかったぜ、オマエの弱点。」

「!?」

「自分から言い出しづらかったのも、ちょっとわかるわ。

 見ればできる?見えなかったら?そもそも元からウスいのが前提じゃ、やれって方がムリな話だろ。」


そう言いながら、ようやく見つけた人物のユニフォームをガシッと掴んで黄瀬の前まで引きずっていく。

いくら身体能力の高い黄瀬でも、影を薄めることまではできない。

火神はそこに気がついたようだ。


「…つまり、黒子コイツだろ!オマエの弱点!」

「何すんですか。」

「キセキイエローの弱点が…テツ!?」


彼が見つけた、黄瀬の信じられないような弱点。

これを利用して、誠凛の逆襲が始まる…!



to be continued...



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