黄瀬の行く手を遮りマークについたのは、かつてのチームメイトである黒子だった。

"相手になるわけない"と、会場の誰もが驚くこの作戦の結末や如何に…!





第8Q「行ってきます」





「…まさか夢にも思わなかったっスわ。黒子っちとこんな風に向き合うなんて。」

「…ボクもです。」

「一体…どーゆーつもりか知んないスけど……黒子っちにオレを止めるのはムリっスよ!!」


そう言って、黄瀬は力強いドリブルで黒子を置き去りにする。

しかしヘルプに入った火神は、味方が抜かれたにも関わらず笑みを浮かべていた。


「違うね。止めるんじゃなくて…」

「獲るのよ!」

「ボールいただき!」


火神、リコ、スズがそう言った直後!

たった今抜かれて、黄瀬の背後にいた黒子が、彼の手からボールを叩き落とした。

これはいわゆる…


「なっ!?(バックチップ!?火神のヘルプでひるんだ一瞬を…!?)」

「オマエがどんなすげえ技返してこようが関係ねぇ。抜かせるのが目的なんだからな。」


火神はそう告げた後、自分の前に転がっているボールを素早く拾い、得点へと繋げた。

あのカゲの薄さでバックチップを狙われては、いくら黄瀬でも対応が難しい。

笠松も同様のことを考えているらしく、"ダブルチームの方がまだマシだ"と漏らす始末である…


「そんなの抜かなきゃいいだけじゃないスか。誰も言ってないスよ…スリーポイントがないなんて。」


はじめは戸惑っていた黄瀬だったが、すぐに頭を切り替え攻撃パターンを変えてきた。

今度は黒子を抜くことなく、その場でシュート体勢に入ったのだ。

ただでさえ身長差がある黒子に、ジャンプした黄瀬を止める術はない。

しかし、黒子が対応できないのなら、できる人がやればいい…

火神がすかさず黒子の背後から跳び上がり、黄瀬のシュートをブロックする。


「(やられた…!つまり平面は黒子っちが、高さは火神がカバーするってことスか…!)」

「(外からのシュートはモーションかかっからな…やっかいだぜ、やっぱこいつら…!

 そもそもこの流れを作ってんのは11番黒子だ。コートで1番のヘボで、1人じゃなんもできねーはずが…信じらんねー!!)」

「行くぞ!速攻!!」

「っちっ…!」


火神が日向へパスするのを見て悔しそうな表情をする黄瀬だったが、彼らの攻撃を止めるためすぐさま走り出す。

ここで、黒子のカゲの薄さが仇になった…

走り出そうと振った黄瀬の手が、黒子の頭に直撃してしまったのだ…!

ガッという何とも痛そうな音に、皆一様に目を見開く。


「「あっ!?」」

「黒子君!!」

「テツ!?」

「レフェリータイム!!」


審判の声で、一旦試合が止まる。

黒子の元に駆けつけた誠凛メンバーは、彼の左目上部からの流血を見て、途端に焦り始めた。

しかしスズは突然のことに動揺しながらも、テキパキとベンチにいた"チーム1年"の面々に指示を出す。


「光樹!ベンチ片付けて、テツの治療用スペース作って!」

「え、あ、おう!」

「浩ちゃんと寛は大きめのタオル床に敷くのと…あと、風通し良くしといて!」

「「りょ、了解!」」


降旗達に指示を出した後、スズは救急箱片手にコート内へと走っていった。

その後ろ姿を見て、同じ1年ながら、3人は彼女に対して尊敬の念を抱かずにはいられなかった。

そして彼らは、スズの指示を遂行するためバタバタと動き出すのだった…



一方コート内では…

結構な流血具合の黒子に、日向達はもちろん、あの火神でさえ心配そうな顔で声をかけていた。


「大丈夫か、黒子!?」

「…フラフラします。」

「スズ、救急箱持ってきて…って、もう来てくれてるわね!」

「はい、もちろん!」

「おい…大丈夫かよ!?」

「テツ、平気?」


並んで自分を心配そうに見つめる火神とスズに、黒子は少し笑みを浮かべる。

だが口では"大丈夫"と言っていても、体はそうではないようで…

話し終えると同時に、パタンと倒れ込んでしまった。

そんな倒れた黒子に対し、スズはまず血を拭き取る作業から始める。


「傷口触るから痛いかもしれないけど、ちょっと我慢してね?」

「…はい。すみません、スズ…こんなことになって。」

「何言ってんの!こういう時のためにマネージャーがいるんでしょ!」

「…ありがとうございます。」

「いいえ!…疲れちゃうから、目瞑ってて?…大丈夫だから。」


ふわっと笑ってそう言うスズに、黒子は安心しきった顔で返事をしてから、静かに目を閉じた。

そして止血と消毒が済んだ彼を男性メンバーがベンチへと運び、ひとまずは落ち着きを取り戻したのだった…


「不本意な結末だが…終わったな…あの1年コンビが欠けた以上…あとは点差が開くだけだ。」


男性陣に黒子を任せた後、治療に使った道具を救急箱に詰めていたスズの耳に、笠松のそんな言葉が聞こえてくる。

そしてその横には、誠凛ベンチを心配そうに見つめる黄瀬の姿もあった。

わざとじゃないとはいえ、相手をケガさせてしまったことですっかりヘコんでいる彼に、去り際スズは救急箱を持ったまま話しかける。


「(黒子っち…)」

「大丈夫ですよ、黄瀬さん。」

「え…?」

「当たった場所が場所だから血は出ましたけど、ケガ自体は大したことないですから。」

「…はいっス。」

「…接触プレイでケガするなんて、バスケじゃ日常茶飯事です。わざとじゃないんですから、そんな顔しないで下さい。

 それに…そんな情けない顔で試合して勝てるほど、誠凛は弱くないです。」

「!」

「本気で来ないと…負けちゃいますよ?」


そう言って挑発的な笑みを向けた後、軽く頭を下げベンチへと戻るスズ。

自分のことを苦手だと言い、さっきまでロクに目も見てくれなかった女子に不意に話しかけられ、戸惑いと驚きを隠せない黄瀬だったが、彼女の言っていることは理解できた。


慰められてるのに、惨めな気持ちにならない。

挑発されてるのに、嫌な気持ちにならない。

それはきっと、黄瀬が今言って欲しいことをスズが言ってくれたからだろう。


「(オレの心の中が見えてるみたいだったな…何か不思議な子。)」


心の中でそう呟いた黄瀬の表情には、いつの間にか笑顔が戻っていた。



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