少し離れたところからスズと火神が聞いているとは知らず、かつての同級生2人は会話を続ける。

どうやら黄瀬が黒子を呼び出したのは、全中の決勝戦終了後に彼が姿を消した理由を聞くためだったようで…

それを尋ねれば、本人からは"わかりません"という何とも拍子抜けな言葉が返ってきた。


「へ?」

「帝光の方針に疑問を感じたのは、確かに決勝戦が原因です。あの時ボクは、何かが欠落していると思った。」

「スポーツなんて勝ってなんぼじゃないスか!それより大切なことなんてあるんスか!?」

「ボクもこの前までそう思ってました。だから何がいけないかはまだハッキリ分からないです。ただ…」


そう言って俯いた黒子は、静かな声で続ける。

"ボクはあのころバスケが嫌いだった"…と。

ただ好きで始めたバスケなのに、いつの間にか嫌いになっていた。

そんな時、彼は誠凛で2人の人物と運命的な出会いをしたのだ…


「だから火神君に会って、ホントにすごいと思いました。

 心の底からバスケットが好きで、ちょっと怖い時やクサった時もあったみたいだけど、全部人一倍バスケに対して真剣だからだと思います。」

「黒子っち…」

「そしてボクと火神君の前に…スズが現れた。彼女は言ってくれたんです。

 日本一を目指すボク達を全力で支えると。心身ともに最高の状態で試合に送り出すって、笑顔で言ってくれました。

 誰かに支えられて、見守られて、それでバスケをするのは…すごく楽しいんですよ。」


優しい笑顔を自分に向けながらそう言った黒子とは対照的に、黄瀬は複雑な表情をしていた。

かつては自分と笑い合っていた黒子が、新たな場所で素敵な出会いをしていたことに、寂しさや悔しさ、戸惑いや羨望といった様々な感情が渦巻いているようだった。


「スズっちのことは…正直羨ましいっス。海常に来てくれたらな〜って、今すげー思ってる。

 …でも、やっぱ分かんねっスわ。けど1つ言えるのは…

 スズっちはともかく、黒子っちが火神アイツを買う理由がバスケへの姿勢だとしたら…

 黒子っちとスズっちは…火神アイツといつか…決別するっスよ。」

「…!?」「大我とうちらが…決別?」

「オレと他の4人の決定的な違い…それは身体能力なんかじゃなく、誰にも…オレにもマネできない才能センスをそれぞれ持ってることっス。

 今日の試合で分かったんス。火神アイツはまだ発展途上…そして"キセキの世代"と同じ…オンリーワンの才能センスを秘めている。」


更に黄瀬は続ける。

今はまだ強い奴を求めてガムシャラに戦っているだけだが、いずれ火神が成長して"キセキの世代"と同じレベルにまで達した時、彼はチームから浮いた存在になると…


「その時火神アイツは…今と変わらないでいられるんスかね?」

「…」

「…スズ。オマエ、何怖い顔してんだよ。」

「えっ!し、してないし…!」

「してたよ。…怒ってるかと思ったぜ?」

「!」


ニヤリと笑いながら、さっき自分が言われたセリフを投げかけた火神は、目の前にいる少女の顔を覗き込んだ。

しかし、そんな火神の思わぬ反撃に驚いた表情を向けた後、スズはすぐに笑顔と元気を取り戻す。


「…怒ってないし、今聞いた話だって特に心配してません!」

「へーそうかよ?」

「だって大我はもう既に浮いてるじゃん!」

「ふっ……顔、元に戻ったな。」

「! 大我…」

「そっちのがいいよ。……てか、オレ浮いてねーし!」


ふわっと笑った後、そう言ってスズの頭をガシッと掴む火神。

彼は分かっていた。

スズが黄瀬の言葉を本気で不安がっていたことを…

"もし実際にそうなったら…"と、一瞬でも思ってしまった自分を悔やんでいることを…

でもそこは触れない。彼女がそうされることを望んでいないから。

だからあえて茶化して、スズに気持ちを切り替えるキッカケを与えたのだった。


そしてスズもまた、ちゃんと分かっている。

不安に襲われた自分の気持ちに、火神が気づいていることを…

それに気づいていて敢えて、自分をからかって、笑わせてくれていることを…


"そろそろアイツらんとこ行くぞ。"

そう言って肩をポンと叩いてきた火神に笑顔で頷き、スズは彼の後に続く。

途中、前を歩く火神のジャージを引っ張りながらお礼を言えば、ワシャワシャと頭を撫でられ…


「これからも何かあったら、口に出すか、態度で示すか…まぁ何でもいいけど、とにかく訴えてこいよ?」

「! ふふっ。りょーかいです!ありがと!」

「おぅ。」

「…今の言葉、そのまま大我にも返すからね。ちゃんと頼ってよ?私のことも。」

「! …言われなくても、そのつもりだっつーの。」


互いに笑顔を向け合えば、その場の雰囲気は何とも穏やかなものへと変わる。

そして足取りも軽く、2人は"誠凛の迷い犬"を捕まえに行くのだった…



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