今私は、授業中にも関わらず湧き上がってくる笑いを必死に堪えている。

なぜなら、斜め前に座るうちのエースが先生の頭を鷲掴みにしているから。


でもそれは別にケンカをしてるわけでも、からかって遊んでいるわけでもない。

大我は見た目と違って、なかなかの平和主義者だし。

じゃあ何でそんなことになってるのかと言えば…

間違いなく寝ぼけているのだろう。


昨日の海常との練習試合を全力で戦ったテツと大我は、まだ疲れが残ってるのか朝からずーっと寝っぱなし。

私を含め周りの席の生徒はみんな起きてるし、唯一寝てるテツは相変わらずカゲが薄くて気づかれない。

その結果…

抜群の目立ちっぷりを発揮した大我は先生の怒りを買い、即職員室行きが決定した。


「ぷぷっ。大我ドンマイ。」


先生がその場から去った後に小声でそう話しかければ、気づかれずに未だ眠りの中にいるテツと、笑いを抑えきれない私を大我はキッと睨んだ。





第12Q「買ってきて!」





それからしばらくして、ようやく私の笑いが収まってきた頃、不意にカバンの中に入れてあったスマホが震えた。

そして私の隣と、更に斜め前からも同じようにバイブ音が聞こえてくる。

3人で同時に携帯を開けば、そこには我らがカントクからのメールが届いていた。


「(昼休みに2年校舎集合?しかも1年全員って…何すんのかな。)」


また突拍子もないことを考えているのかと不安になりながら周りを見れば、テツと大我も訳が分からないという表情でこちらを見ていた。

この文末のハートマークが何とも言えず恐ろしいのよね…

でもまぁ"断る"という選択肢は私達にはないわけで。

「了解です」メールを各々送信すると、また授業へと頭を切り替えたのだった。


------
----
--


昼休み。

2年校舎に到着した私達1年生を迎えてくれたリコ先輩からの第一声は…


「ちょっとパン買ってきて!」

「は?パン?」


戸惑う1年生チームに対し、日向先輩がこの学校に売られている伝説のパンについて教えてくれた。

何でも誠凛高校には、毎月27日に数量限定で販売され、それを食べると何事にも必勝を約束される…

という噂の幻のパンがあるらしいのだ。

その名も…


「イベリコ豚カツサンドパン三大珍味(キャビア・フォアグラ・トリュフ)のせ!!2800円!!」

「高っけぇ!!…し、やりすぎて逆に品がねえ!!」

「海常にも勝ったし、練習も好調。ついでに幻のパンもゲットして弾みをつけるぞ!ってワケだ!」

「そういうのいいですねー!テンション上がるっ!」

「スズはこういうの好きそうよね〜でもね、狙ってるのは私達だけじゃないの。いつもよりちょっとだけ混むのよ。」

「パン買ってくるだけだろ?チョロいじゃんですよ。」


強気にそう言う大我だったが、先輩達の顔を見てるとどうも雲行きが怪しい。

そんなに簡単なことを、わざわざ私達を呼んでやらせるだろうか。

お金も先輩達が出してくれるって言うし…こんなパシリある?

まぁ後輩だから、パシリやること自体は不思議なことじゃないんだけどさ。


「ついでにみんなの昼メシも買ってきて。ただし失敗したら…」

「したら?」

「釣りはいらねーよ。今後、筋トレとフットワークが3倍になるだけだ。」

「(コエー!!)」

「(え!?お昼の買い出し勝負所クラッチタイム!?)」

「ふふっ。大変だね〜みんな。」

「笑ってるけど、スズもこいつらがやってんのサポートするんだぞ?」

「え?それってつまり…みんなが終わるまで帰れないとか…そういう感じっすか?」

「そういう感じだな!何なら一緒にやってもいいぞ?」

「……みんな何としても買ってこよう!!」


体力有り余ってる男子高校生と一緒に走るとか、考えただけで動悸・息切れがするわ。

これは絶対に手に入れないと…!

そうして私達は、伊月先輩のダジャレを軽く受け流した後、売店へと向かった。


「…」

「いつも心配しすぎだよ、水戸部ーオカンか!」

「あははっ!スズって本当分かりやすくて面白いわ〜」

「…ったく、何がちょっとだよ。」

「えー?これから毎年1年生の恒例行事にするわよ!」

「マジか…」



- 40 -

*前次#


ページ:

第1章 目次へ
第2章 目次へ

章選択画面へ

home