「GW明けたらすぐ予選かー」
「あと3週間ぐらい?」
「けど先輩達って、去年決勝リーグまで行ったんだろ?しかも今年は火神と黒子もいるし、1〜2回戦はまあ行けんじゃね?」
そう言ってヘラヘラと笑っていた後輩に、後ろからパンチを喰らわす日向。
1年が謝りながら後ろを振り返れば、そこには真剣な表情で自分達を見つめる2つの目があった。
「一度負けたら終わりのトーナメントだぞ。1回戦でも決勝でも、気を抜いていい試合なんてねーよ。」
我らがキャプテンから発せられる言葉と雰囲気は鋭く厳しいもので…
1年達からは先程までの笑顔が消え、思わず生唾を飲んでしまうほどである。
と、少しピリピリしたそんな体育館内に明るいあの声が聞こえてきた…!
「日向先輩ー!予選トーナメント表、コピーしてきましたー!」
「おぅ、サンキュースズ!じゃ、みんなに回して。」
「はーい!」
第13Q「行くぞ!!」
日向の指示を受け、スズは先輩陣から順にコピーした紙を配っていく。
"全国大会都予選"と書かれた紙は4枚にも及び、それぞれに膨大な数の高校が記されていた。
「4ブロックある中で、誠凛はAブロックに入ってます。はい、テツ。大我も。」
「ありがとうございます。」
「サンキュ。"キセキの世代"がいる秀徳ってトコとやるには……決勝か…」
マネージャーから渡された紙に、各自しっかりと目を通す。
しかし印刷枚数が足りず、自分の分がないことに気づいたスズはソワソワと落ち着かない様子。
そんな彼女の異変をいち早く察知した黒子はスッと隣に寄り添う。
「スズ、一緒に見ますか?」
「! うん、ありがとう!…テツすごいね。何で私が今トーナメント表見たいって分かったの?」
「だって急にソワソワし始めたじゃないですか。」
「うわっ、見られてたか…」
「…いつも気にかけてますからね。」
「ん?何か言った?」
「いえ、何も。」
そう言ってふわっと笑った黒子に少しドキドキしながら、スズは彼の持つトーナメント表に目を落とした。
そしてそれを待っていたかのように、日向がインターハイについて話し始める…
「さっきスズが言ったように、IHはA〜Dまで4ブロックある。各ブロックの頂点1校のみが決勝リーグ進出。
さらにその決勝リーグで上位3チームに入って初めて、インターハイ出場。
300校以上の出場校から、選ばれるのはたった3校。
1%の選ばれた高校生しか立てない夢の舞台。それが…インターハイ。」
「…なんとなくは分かったけど、1つ間違ってるっスよ。選ばれるんじゃなくて、勝ちとるんだろ…です。」
「おっ。大我いいこと言うじゃん。優勝もIHへの切符も全部勝ちとって、うちが日本一になるんだもんね!」
「おう!」
ミラクルボイスでそう宣言するスズに、火神はニカッと明るい笑顔を向ける。
黒子も2人のやり取りを見て、満足そうに微笑んでいた。
それからすぐ、不意に体育館のドアが開き、出かけていたリコが帰ってきた。
以前海常との練習試合を組んできたときのようなスキップをしていない彼女に後輩達が声をかければ、"するか!!"と、なかなかの迫力で怒られる始末。
「お帰りなさい、リコ先輩!」
「ただいま〜スズ。」
「…にしても機嫌悪ーな。強いのか相手?」
「…ちょっとやっかいな選手がいるのよ。」
「"厄介な選手"…ですか?」
「そっ。とりあえずビデオはあとで見せるとして、まず写メ見て。」
そう言ってリコは、自分の携帯を手渡した。
周りに部員が集まったのを確認してから日向が携帯を開けば、そこには何とも可愛らしい猫が映っていた。
「うわっ!可愛いですね〜」
「確かにかわいいが…」
「…ゴメン次。」
「次?」
リコに促され、日向が携帯を操作すると、今度はユニフォームを着た黒人が映し出された。
ユニフォームにプリントされている高校名を見れば、それは誠凛の1回戦の相手で…
「名前はパパ・ンバイ・シキ。身長200cm、体重87kg。セネガル人の留学生よ。」
「セネガ…!でかぁ!!200cm!?」
「アリなの!?」
「留学って…!てゆーかゴメン、セネガルってドコ!?」
「? でかいだけじゃん?」
「…」
「いや、でか過ぎるでしょ!大我より大きいんだよ!?」
「10cmだけだろ?…まぁでも、スズからしたら相当でかく感じるかもな!」
リコの携帯を受け取った黒子の周りに集まって、2人はそんな会話をする。
自分の頭を軽く叩きながらニヤニヤと笑う火神にスズが対抗している間に、セネガル人の選手には、黒子によって"お父さん"というあだ名がついていた。
しかしそのあまりにぶっ飛んだあだ名に、彼の話をする度に皆が皆笑いを堪え切れない。
そんな部員達にリコはイライラしながら言葉を続ける。
「だからこのお父さんを……聞けよ!!」
「リ、リコ先輩、落ち着いて…!」
「ふ〜…特徴は背だけじゃなくて、手足も長い。とにかく"高い"の一言に尽きるわ!
戦力アップに、外国人選手を留学生として入れる学校は増えてるわ。次の相手の新協学園も、去年までは中堅校ってカンジだったけど…
たった1人の外国人選手の加入で、完全に別物のチームになってるわ。届かない…ただそれだけで、誰も彼を止められないのよ。」
カントクの厳しい言葉に、辺りは先程までの騒がしさが嘘のように静まり返った。
スズも普段の笑顔をしまい、真剣な表情でリコの話に耳を傾けている。
「…あのね、だからって何もしないワケないでしょ!!ってわけで…火神君と黒子君、2人は明日から別メニューよ。」
「「!」」
「スズは普段の作業の他に、この2人の面倒も見てもらえる?」
「あ、はい!了解です!」
「よし!予選本番は5月16日!!それまで弱音なんてはいてるヒマないわよ!!」
「「「おう!!」」」
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