それからの数週間、誠凛メンバーは怒涛の勢いで練習を重ねた。
連日体育館が使えるギリギリの時間まで残り、予選前日も辺りが暗くなるまで調整を行う面々。
そのお陰で、あとは本番を待つばかりというところまで持っていくことができたのだった。
そして迎えた5月16日。
時刻を確認し、パタンと自身の携帯を閉じたリコは、部員達を振り返る。
「全員揃ったわね!」
「行くぞ!!」
キャプテンの力強い声と共に、学校を出発したチーム誠凛。
それぞれ緊張と気合いが入り混じった、なかなか良い表情をしている。
…ただ1人を除いては。
「またですか。」
「うるせっ。」
「大我って意外とデリケートだよね。」
「意外とって何だよ。」
そう、その1人というのはもちろん火神大我である。
相変わらず試合前になると寝れないらしく、また目を真っ赤に充血させていた。
そんな彼を挟んで歩きながら、黒子とスズは声をかける。
「その癖、いい加減に治さないと体キツくなりますよ?」
「…分かってるよ。」
「全く手のかかる子なんだから〜」
「うっ…」
「よし、決めた!これから試合前日は、私が隣で一緒に寝てあげるよ!」
「はっ!?オ、オマっ…!な、何言ってんだバカ!!」
「…あははっ!冗談だよ、冗談!本当に寝るわけないでしょ〜」
「火神君、何かいやらしいこと考えましたよね?」
「! か、考えてねーよ!!」
真っ赤になっている火神の肩をバンバン叩きながら笑うスズと、横から軽蔑の眼差しを向ける黒子。
2人にからかわれた本人はといえば、冗談だと分かってもなお、顔の熱が引かないようで…
照れ隠しに、スズに対して例の頭掴みの刑を執行していた。
約1時間後…
無事に会場へと到着した誠凛メンバーは、10時からの試合に備えコートでアップを始めていた。
マネであるスズも、慌ただしくドリンクやタオルの準備をしている。
そんな中、日向があることに気づいた。
「てか、お父さんいなくね?」
「そういえば。…スズー!」
「はい!何ですか、伊月先輩。」
「この周辺でお父さん見た?」
「あーそういえばまだ見てないですね。」
スズ達が不思議がりながら会話をしていると、不意に聞こえてくるちょっとカタコトの日本語。
声のする方を見れば、お目当ての人物が歩いてくるところだった。
「すみません、遅れましたー!」
「!」
「アィテ!日本低イ、ナんでも…」
登場するなり、いきなり体育館の入口に頭をぶつけるお父さん。
写メやカントクからの話で彼に対するデータは頭に入っているはずの誠凛メンバーだったが、実際に本人を目の前にすると、やはり驚きを隠せないようだ。
スズもそのあまりの大きさに思わず作業の手を止め、ボー然と目を奪われている。
そしてもっと近くで見ようとコートに近づいた彼女の耳に、日向と相手チームのキャプテンの話す声が聞こえてきた。
「あ、そういえば海常に勝ったってマジ?」
「いや…練習試合でっスけど。」
「…なんだー思ったよか大したことないんだ。」
「カイジョー?」
「"キセキの世代"入ったとこ!教えたろ!」
「(あ。あれは日向先輩イライラしてるな〜)」
「キセキノセダイ…負け…?キセキノセダイに勝ツため呼バれタのに。ソんなガッカリダよ、弱くて…」
「(! 何よ、その言い方…!涼太達と実際にやってないくせに!!)」
お父さんの何とも失礼な言い方は、日向だけでなくスズまでもイライラさせてしまうほど。
実際に戦っていないのに勝手にいろいろ言われれば、そりゃ怒りも湧くだろう。
と、歩き出したお父さんにぶつかる1つの影。
その影の薄さと背の低さから、はじめ自分が何にぶつかったのか分かっていないようだったが、
キョロキョロと辺りを見回してから下に目線を向けたとき、視界に我らが黒子テツヤを捉えた。
しかし捉えたかと思えば、次の瞬間には黒子の脇に手を当ててひょいと持ち上げてしまったのだ。
「ダーメですヨ、ボクー。子供がコート入っちゃあ。」
「どっから連れて来……バッ…!そりゃ相手選手だよ!」
「…?センシュ…!?あんな子供いルチームに負け?キセキノセダイて、ミんな子供?」
「ハハッ、かもな!」
突然目の前で起こったプチ事件に、並んで立っていた火神とスズは笑いを堪え切れない。
いや、2人だけではない。部員の誰もが肩を震わせて笑っていた。
この状況に、あの穏やかな黒子もさすがに怒りを感じたようで…
「正直…色々イラッときました。」
「何気に負けず嫌いなトコあるよな、オマエ。」
「確かに!」
「んじゃまあ…子供を怒らせるとけっこー怖いってコト、お父さん達に教えてやるか!」
着ていたTシャツを脱いでバサッとスズの方へ放ると、2人は颯爽とコートの中へと入っていったのだった。
いよいよ、誠凛高校の初戦が始まる!
to be continued...
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