試合の数週間前…

リコから別メニューを言い渡された火神は、早速その練習に取りかかった。

その内容とは…?


「DFもいぶし銀、水戸部先生よ!」

「!?」「おぉ!カッコイイ…!」

「これから毎日水戸部君と練習して、自分より大きい相手を封じる方法を体で覚えるのよ!」

「なるほど。水戸部先輩が、対お父さんのときに大我がやるべき動きを実践してくれるんですね!」

「そういうこと!いい?シュートを防ぐのはブロックだけじゃない。落とさせるのよ!」


その日以降、毎日水戸部と1on1をする火神だったが、インサイド限定だと全くシュートが入らない。

日に日にイライラを募らせる彼にとって、スズの存在はとても大きくて…!

カーっと熱くなる感情を、何度も冷ましてもらっていた。


「だーっ!くそっ!!」

「ほら、イライラしなーい!深呼吸して落ち着きなさい。」

「うー…だって全然シュート入んねんだもん!!」

「大我…この練習の意味、ちゃんと分かってる?」

「ん?」

「この練習は、水戸部先輩に勝つことが目的じゃない。

 先輩の動きを見て、感じて、それを盗む!で、試合当日に同じ動きを自分ができるようになるための練習なの!」

「…」

「そんな興奮した状態じゃ、いつまで経っても先輩の動きは盗めないよ。もっと客観的に、先輩の動きを見てごらん?」

「……分かった。」

「ん。素直でよろしい!…大丈夫。大我ならできるよ。」

「!」


厳しかった表情から一転して、ふわっと優しい笑顔を見せるスズ。

その顔を見ていると、さっきまでのイライラした気持ちがスーッとなくなり、代わりに純粋なやる気が溢れてくる。

火神の表情は、いつの間にか穏やかなものへと変わっていた。


「あのさ…」

「ん?」

「その…サンキュな。あと、八つ当たりっぽくなってわりー。」

「! …ふふっ。何のために私がいると思ってんのよ。」

「え?」

「言ったでしょ?"選手が心身共に最高の状態で試合に臨めるように支える"って。

 そのためなら、八つ当たりだろうが何だろうが、私はいくらでも受け止める。だから大我は、思いっきりバスケをやりなさい!ガムシャラにね!」

「スズ…」

「さっ、練習続けるよ!…水戸部せんぱーい!もう1試合お願いしまーす!」


火神の背中を後ろから押しながら、スズは笑顔でそう言った。

そして同じように笑顔で頷く水戸部の元へ向かっている途中、火神が不意に後ろを振り返る。

突然の行動に驚いたスズが、そんな彼を見上げながら声をかけた。


「急に止まって、どした?」

「……スズ…オレ…!」

「火神ー!水戸部が、準備出来たから早く来いってー!」

「! あ、分かった…です。…い、行こうぜ、スズ!」

「うん。でも何か言いかけてなかった?」

「いや、別に…な、何でもねーんだ。」

「そう?ならいいけど!」

「(オレ今…スズに何て言おうとしたんだ…?それに、この手は何なんだよ…)」


小走りで水戸部&小金井ペアの元へ向かうスズの後ろ姿を見つめながら、火神は心の中で自問自答を繰り返す。

自分のことを見上げながら声をかけるスズに、一体何を伝えようとしたのか…

無意識のうちに伸ばしていた右手が、目の前の少女に対して何をしようとしていたのか…

あのとき小金井の声がなかったら、自分がどんな行動を取っていたのか…

この問いかけにしっかりと自分なりの答えを出すには、まだまだ時間がかかるだろう。


しかし一方で、水戸部との練習の方には徐々に光が見えてきた様子…!

優秀なマネージャーの言葉により冷静になれた火神は、先輩の姿から何かを掴んだようだった。



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