相変わらず影の薄い黒子によるパスは、相手チームにとって完全に死角になっていた。

その結果、何が何だか分からないうちにゴールが決まっていたのだから…驚くのも無理はない。

慌てる新協チームが、戸惑いながらも攻撃を始めようとするのを見つめながら、黒子の頭には誠凛女性陣からの言葉が浮かんでいた。


"切り札出すからには、第1Qで10点差つけるのよ!"

"やるからには、相手にトラウマ植え付けるぐらい圧倒的に勝つこと!"


自分に向けられた勝気な言葉に少し笑みを漏らした黒子は、相手のパスをまたも見事にシャットアウトする。

彼の力強いカットによって高くバウンドしたボールは、そのままゴール付近まで飛んでいき…

次の瞬間!

火神の2本目のダンクが豪快に決まった。





第15Q「断然強ーわ!!」





「マジかよ!?スティールしたボールをそのままダンク!?」

「ってかいきなりダンク2連発って…!予選1回戦だぞ、オイ!!」


そんな観衆と同じぐらい、日向も後輩達の様子に驚きを隠せずにいた。

そして黙々とプレイする黒子の後ろを走りながら、彼は火神に声をかける。


「すげーな、マジ…特に黒子ってこんなだっけ…?子供扱いされたの、そんなに怒っちゃった?」

「そっスね…」


"ガッカリダよ、弱くて…キセキノセダイってミんな子供?"


「やってもないのにオマエがーな…ってカンジじゃん?っスよ。」

「くそっ…!」

「誠凛ってこんなに強かったか!?」

「ふんっ!強かったっつーの!!」


スズが誇らしげな顔でそう言った直後、第1Q終了のブザーが鳴り響いた。

得点は、23−8で誠凛の15点リード。

無事にカントク&スズとの約束を守れた黒子達なのであった。



ベンチに戻ってきた選手達にドリンクやタオルを配りながら、スズは労いの言葉をかける。

マネの元気ボイスに笑顔を向ける黒子や火神達だったが、カントクは既に頭を切り替えていた。


「マジすげっス!」

「てか圧勝!?」

「何言ってんの!むしろここからが大変なのよ!」

「! そっか…そろそろってことですね?カントク。」

「ええ。…黒子君!交代よ。」

「しっかり体休めてね、テツ。」


カントクの指示とスズの言葉に、コクと素直に頷く黒子。

そしてそのままリコは今後の試合に向けての対策を話し始める。


「ここからしばらく黒子君は温存しなきゃならないわ。攻撃力が落ちる中盤の間、いかに点差を縮めさせないか。

 実は客観的に見れば、お父さんパパ以外の4人に脅威になるような選手はいないわ。

 この試合はとどのつまり…これから黒子君が戻るまでの間、火神君がお父さんパパ相手にどこまでふんばれるか。それに尽きるわ!

 あの高さに対抗できる可能性があるのはキミだけなのよ!」

「まかせろ!っスよ!」

「頼むぞ、大我!」

「おう!ちゃんと見とけよスズ!」


ベンチに座っていた自分の頭をポンと叩きながら明るく笑うスズに、火神も自信満々の笑顔を向ける。

何やら監督に怒られている新協チームとは対照的に、誠凛ベンチはとても穏やかな、それでいてやる気に溢れた雰囲気であった。



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