マジバを出たのが、つい5分程前。

自分の数m先を歩く2人の男子高校生の内の1人・黒子テツヤを見つめながら、スズは部活中にリコから聞いた彼の身体能力について思い返していた。


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部活中…

"そういえばリコ先輩、黒子君の身体能力はどうだったんですか?"

"どうもこうもないわよ…あの子、能力値が低すぎるわ。"

"え…?"

"全ての能力が平均以下…しかもすでにほぼ限界値よ。とても強豪校でレギュラーをとれる資質じゃない…!"

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リコがそう言っているのだから、彼の能力が低いのは事実なのだろう。

それでも彼は強豪校でレギュラーとして試合に出ていた。


「(何か秘密があるのかな…)」


そう思い、スズはじーっと黒子を見つめてみるが、もちろん何も視えない。

自分の行動に苦笑しながら、彼女は前の2人に追いつくべく少し足を速めるのだった…


数十分後。

3人が到着したのは、大きな広場のような場所だ。

その中にあるバスケコートに入るなり、火神は開口一番こう尋ねた。


「オマエ…一体何を隠してる?」

「…?」

「…オレは中学2年までアメリカにいた。日本コッチ戻ってきてガクゼンとしたよ。レベル低すぎて。

 オレが求めてんのはお遊びのバスケじゃねー。もっと全力で血が沸騰するような勝負がしてーんだ。

 …けどさっき、木下からいいこと聞いたぜ。同学年に"キセキの世代"って強ぇ奴がいるらしーな。

 オマエはそのチームにいたんだろ?オレもある程度は相手の強さはわかる。

 ヤル奴ってのは独特の匂いがすんだよ。…が、オマエはオカシイ。

 弱けりゃ弱いなりの匂いがするはずなのに…オマエは何も匂わねー。強さが無臭なんだ。

 確かめさせてくれよ。オマエが…"キセキの世代"ってのがどんだけのもんか。」


そこまで一方的に喋った火神は、先程までスズに見せていた穏やかな表情ではなく、強い者を求めるまさに野獣のようなギラギラとした目をしていた。

その目を受けて、黒子はボールを持ちながら何かを考えていたようだが、すぐに言葉を返す。


「…奇遇ですね。ボクもキミとやりたいと思ってたんです。1対1ワンオンワン。」


そう言って制服の上着を脱いだ彼に、火神も口角を上げ、同じように上着を脱ぐ。

しかし2人がバサッと地面に上着を脱ぎ捨てるものだから、スズは慌ててそれを回収し、コートの傍にあるベンチに腰を下ろした。



そうして勝負を始めた2人だったが…

スズが得点係を務めるまでもなく、試合は終始火神が優勢…というより圧倒する形で過ぎていった。

体格に恵まれてなくても、得意技を極めて一流になった選手は数多くいる。

しかし黒子の場合シュートを打てば外れ、ドリブルをすれば足でボールを蹴り、DFをしても即座に抜かれる。

つまり彼は…死ぬほど弱い。


「ふざけんなよテメェ!!話聞いてたか!?

 どう自分を過大評価したら、オレに勝てると思ったんだオイ!すげぇいいカンジに挑んできやがって!!」

「まさか。火神君の方が強いに決まってるじゃないですか。やる前からわかってます。」


ふーと息を吐きながら黒子がそう告げた途端、火神の怒りはいよいよ沸点を超えた。

曰く、火神の強さを直に見たかったようで…

そんな黒子に、先程まで怒りで興奮状態だった火神も、今ではすっかり呆れ顔だ。

2人のただならぬ雰囲気を感じ取ったスズが駆け寄れば、火神は軽いお礼と共にひょいとその手から自分の上着を取って帰ろうとする。


「あの…」

「あーもういいよ。弱ぇ奴に興味はねーよ。…最後に1つ忠告してやる。」


何を言うのか不安そうな表情で見つめるスズにお構いなく、彼は告げる。

"バスケをやめた方がいい"…と。

どんなに綺麗事を言っても、世の中には才能というものがある。

黒子にはそれがないと、火神はハッキリと言い放った。


「ちょっと、火神君!何もそこまで…」

「オレは思ってること言っただけだ。」

「黒子…君?」

「…それはいやです。」

「「!?」」


突然の"いやです"発言に、スズと火神は驚いて黒子を見つめる。

あれほどのことを言われたのに彼は顔色1つ変えず、言葉を続ける…


「まずボク、バスケ好きなんで。それから…見解の相違です。ボクは誰が強いとかどうでもいいです。」

「なんだと…!」

「(どういうこと…?)」

「ボクはキミとは違う。ボクは影だ。」

「「?」」



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