翌日。
結構な強さで降る雨を眺めながら、スズは昨日の黒子の言葉を思い出していた。
"ボクはキミとは違う。ボクは影だ。"
「(黒子君と火神君は違って、黒子君が影ってことは…火神君は光ってこと?)」
「木下さん、先生に名前呼ばれてます。」
「(光と影って、そもそもどういう意味で使ったのかな…)」
「木下さん。」
「(んー分からん!考えんのやめよ…)」
「木下!!」
「は、はい!」
スズが思いを巡らせていたのは、何も自分の部屋などではない。
今は授業の真っ最中である。
隣に座る黒子が再三教えたにも関わらず、スズは見事に注意を受けてしまった。
何とか出された問題には答えたものの、未だ彼女の心臓はバクバクと脈打っている。
「すみません、もう少し早く教えてあげれば良かったですね。」
「ううん!ボーっとしてた私が悪いんだから。むしろ教えてくれてありがとう!」
「いえ。」
そう小さく言葉を交わした2人は、お互いに少し笑みをこぼした。
さぁ、もうすぐ部活の時間だ。
外がいくら強い雨でも、室内でやるバスケ部にとってはそこまで大きな影響はない。
しかし外を走る"ロード"ができないため、練習時間が余ってしまったようだ。
「ロード削った分、練習時間余るな…どーする?カントク。」
「(1年生の実力も見たかったし…)ちょーどいいかもね。
5対5のミニゲームやろう!1年対2年で。スズー!ゼッケンと得点板の準備おねがーい!」
「はーい!」
リコが選手達にミニゲームのことを伝えている間に、スズは慌ただしく準備を進めた。
2色のゼッケンをそれぞれのチームに配り、体育館の倉庫から得点板をゴロゴロと出してくる。
タイマーやドリンクの用意も完了し、あとは試合開始を待つのみ!
と、そこでスズはリコの元に駆け寄り…
「リコ先輩!」
「ん?」
「ちょっと1年チームの方行ってきていいですか?」
「いいけど…何よ、何かするつもり?」
「いやいや!ただ私も、マネとはいえ一応"チーム1年"なので応援に…!」
「ふふっ。そういうことならいいわよ〜!」
笑顔で許可してくれたリコに礼を言い、スズは小走りで1年生達が集まっている場所に向かった。
彼らの方はといえば、突然の上級生との試合にだいぶ戸惑っている様子。
何せ日向達は、去年1年生だけで決勝リーグまで行ったというなかなかの腕前を持っているのだから。
しかし唯一この男だけは、全く物怖じしていないようで…
「ビビるとこじゃねー。相手は弱いより強い方がいいに決まってんだろ!」
「そのとーり!」
「うわっ、木下さん!どうしたの急に!」
「ビックリした〜」
「何だよ、木下。」
「いや、私も"チーム1年"の1人として、ちょっとみんなに提案があって!」
「「「?」」」
スズの発言に誰もが?マークを浮かべる中、彼女は自身の提案を話し始める。
その内容とは…?
「これからさ、何かと1年生でくくられることが多くなると思うわけ。
だからどうせ一緒にいる時間が多くなるなら、仲良くなった方がいいでしょ?そこでだ!」
「そこで?」
「みんなのこと、名前で呼んでいいかな?」
「名前で?」
「うん!その方が仲が深まる感じしない?」
どんな提案かと身構えていた男性陣としては、正直拍子抜けするような内容である。
しかし特に拒む理由もないし、むしろ"大歓迎!"というムードでこの提案は受け入れられた。
あの火神でさえ、"別にいいけど"と許可を出したほどだ。
みんなの好意的な反応に、嬉しそうに笑顔を見せるスズ。
そんな彼女を見つめる1人の男が…
「あの、木下さん。」
「ん?何、黒子君?」
「名前で呼んでくれることはボクも嬉しいし、大歓迎です。」
「良かった!」
「だから…ボクも木下さんのこと、名前で呼んでいいですか?」
「えっ、呼んでくれるの!?そんなのいいに決まってるじゃん!嬉しいよ!」
「じゃあ改めて…これからよろしくお願いします、スズ。」
「! こちらこそよろしくね、テツ!」
この2人のやり取りを羨ましく思った火神以外の他の1年達も、続々と彼女のことを名前で呼び始めていた。
やはり名前で呼び合うことは友情を育むのに効果的なのか、先程よりも少し距離が縮まったような…!
と、そこへカントクが"ピッピッ"と笛を鳴らす。
どうやらそろそろ試合を始めるようだ。
「よし!じゃあ"チーム1年"の初陣ということで円陣組もっ!」
「「「おぅ!」」」
「みんな揃った?じゃあ……先輩に負けんな!!"チーム1年"…ファイ!!」
「「「オー!!」」」
スズのとびきり元気な声で応援された1年達は、この時何とも不思議な状態になっていた。
円陣を組む前よりも心なしか体が軽くなり、モチベーションに至っては数倍に跳ね上がっているのだ。
しかもそれは1年だけでなく、直接応援されていない日向達2年にも少し影響を与えていて…!
「(何だ、この感じ…?)」
「(すげーバスケやりたくなってきたんだけど!)」
「(今ならシュート外す気がしねー!)」
「(これが、スズの声の力?…すごい。私まで体軽くなったような気がする。)」
そんな周りのどよめきや反応に気づかず、スズは1人興奮状態になっており…
結果、試合に出ないくせに誰よりも先にコートへと入っていったのだった。
もちろん、これは止めなくてはならない。その役目を担うのは…
「おい、スズ!何、オレらと一緒んなってコート入ってんだよ!オマエ出ねーだろが!」
「あ。…あはは〜気持ちはすっかり選手だったわ、今!」
「ったく…」
「火神君、今スズのこと名前で呼んでましたね。」
「え!?あ、そういえば!」
「べ、別に呼ばねーとは言ってねーだろ!」
「やった!…しっかり頼むよ、大我!」
「おぅ!行くぞ!!」
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