試合開始早々、豪快なダンクを決める火神。

その粗けずりなセンスまかせのプレイは、スズやリコ達の想像を超える破壊力であった。

そんな火神1人で点を量産し、何と11−8というスコアで2年生をおしていた。


大活躍の火神だったが、その心の中は怒りでいっぱい。

原因は、先日意味深な発言をした黒子テツヤである。

いっちょ前な発言をした割に実力が伴っていない彼を、火神はどうしても許せないらしい。

そして怒りをぶつけるように、火神は先輩のシュートを抜群の跳躍力で阻止した。


だがこの男をいつまでも放っておくわけもなく、日向達は彼に3人のマークをつける。

おまけに、ボールを持っていなくてもダブルチームという徹底ぶりだ。

その作戦が功を奏し、先程までおしていたのが嘘のように点数は15−31と逆転していた。


「やっぱり強い…」

「てゆーか勝てるわけなかったし…」

「もういいよ…」


先輩の圧倒的な強さを見せつけられ、すっかり意気消沈している"チーム1年"の選手達。

試合前のスズの応援の効力も、そろそろ限界のようだ。

その姿がまた火神の怒りに油を注ぎ、彼はチームメイトの1人の胸倉を掴んだ。


「…もういいって…なんだそれオイ!!」

「ちょ、何やってんの大我!!」

「落ち着いてください。」

「おぉ!テツ、ナイス!」


慌てるスズや1年メンバーを他所に、この場にそぐわない冷静な声でそう言い、怒れる火の神に対して膝カックンまでする黒子は、やはり只者ではない。

しかしそんな彼らの様子を見ていたリコは、ふと疑問を持つ。


"いつから彼のことを忘れてたんだろう?"


気づけばいた、でもまた気づいたらいなくなっている。

その繰り返し。

リコは違和感を感じずにはいられなかった。

感じた違和感や疑惑を拭いきれないまま、試合はまた始まった。

今度は注意して、黒子の姿を追う。

だが…

気づけばいつの間にかゴール下にいる選手にボールが渡っており、あっという間に2点が追加された。


「入っ…ええ!?今どーやってパス通った!?」

「わかんねぇ、見逃した!!」

「全っ然、追えないんだけども…!」


必死にコート上に目を向けるスズだったが、黒子の姿は全く捕捉できない。

"気づいたらパスが通っている"

分かるのは、その事実だけだ。


そんな彼女とは対照的に、リコは徐々にこのタネが分かってきているようで…

リコの分析によると、黒子は元々の存在感のなさを利用して、パスの中継役になっているらしい。

しかもボールに触っている時間が極端に短いため、他の選手から見ると"いつの間にか…"という状態になってしまうのだ。


【ミスディレクション】

それは手品などに使われる、人の意識を誘導するテクニックである。

ミスディレクションによって、自分ではなくボールや他のプレイヤーなどに相手の意識を誘導する。

つまり…

黒子は試合中"カゲが薄い"と言うより、もっと正確に表現すると、自分以外を見るように仕向けているのだ。


「(これが黒子の…!)」

「(身体能力の低いテツが、強豪校でレギュラーやってた秘密…!)」

「(元帝光中のレギュラーで、パス回しに特化した見えない選手…!

 噂は知ってたけど実在するなんて…!"キセキの世代"、幻の6人目シックスマン!!)」


この黒子のパスと火神の圧倒的なパワーにより、開いていた点差はみるみる縮まり、ついには1点差まで詰めてきた。

そしてまもなく試合終了という頃…

2年生ボールをスティールした黒子は、そのまま独走態勢でゴールに向かう。

だが勝利を確信して放ったレイアップは見事にリングに弾かれ、ガボンと嫌な音を立てた。


「…だから弱ぇ奴はムカツクんだよ。ちゃんと決めろタコ!!」


と、黒子の後ろから走ってきていた火神がふわふわと舞うボールを掴み、ゴールにぶち込む。

その点が決勝点となり、何と1年チームは見事勝利を収めたのだった!



- 8 -

*前次#


ページ:

第1章 目次へ
第2章 目次へ

章選択画面へ

home