恭弥から借りた腕章を左腕につけ、私は応接室を後にした。

並盛中の時間割によると、今は5時間目の真っ最中。

廊下はシンと静まり、聞こえるのは自分の足音と教室から小さく漏れる先生達の声だけだった。

そんな静けさに包まれた廊下を歩くのは、何か無性にワクワクして…!

ニヤける顔を抑えきれないまま、私はツナ達が授業を受けてる2−Aへ向かうことにしたんです。





標的16 校内見学





一度1階まで降りて構内図を確認してから、私は目的の教室へ歩き出した。

地図によると2年生のクラスは2階にあって、ツナ達のAクラスはその一番端らしい。

足音に気をつけながら階段を上ると、目の前に早速"2−A"クラスが…!


「(ツナ達ちゃんとやってるかな〜)」


ちょっと体勢を低くしながら教室の後方にあるドアへ向かい、私はそこにある小窓から中を覗いてみた。

まず一番最初に目についたのは、教卓の真ん前でダルそうに座っている獄寺くんだった。

漫画の中でも少し描いてあったけど、あの子本当に授業態度悪いな〜

先生の目の前に座ってるのにノートはおろか、教科書さえ開いてないなんて…

まぁあれで成績抜群だから、先生たちも文句言えないんだろうけどさ。

あの先生も、なるべく獄寺くんと目合わせないようにしてるし。


しかし一方で、同じクラスの女性陣は彼に熱い視線を向けていて…!

授業そっちのけで、獄寺くんの仕草1つ1つに見惚れてるみたい。

確かに彼の動作はどれも色気がある。

髪をかき上げたり、足組んだり、伸びをしたり…

何気なくやってるんだろうけど、それがまた女子にとっては胸キュンなんだよね〜!


「(あとで諸々注意しとかないとな!)」


そんなことを思いながら視線をズラすと、今度は相当眠そうなツナの姿が…

教室のほぼ真ん中辺りの席に座ってる彼は、さっきから頭がグラグラしてて危なっかしい。

眠いんだけど、寝たら当てられたとき困るし、でもお腹いっぱいで眠気もいっぱい。

そんなツナの葛藤が、後ろ姿からだけでも十分伝わってくる。

私も元の世界ではあんな感じだったから、ツナの大変さがよく分かるんだ!


でも何とか寝ないようにシャーペンで手の甲を刺したり、自分の足をつねったりしてるツナはもう最高に可愛くて!!

あれで何でクラスでダメツナとか言われてるんだろう…

あんな可愛い中学生いないと思うんだけどな〜…皆分かってない!


「(あとでベタ褒めしとこっ!)」


そう決意してまたまた視線をズラすと、一番後ろの席で爆睡してるやまもっちゃんを発見した。

一応教科書を立てて隠してるつもりらしいけど、それじゃ隠れきれてないから!

あの状態で注意されてないのが不思議だわ。

堂々と寝過ぎてて、逆に気づかれてないとか?

本当にあの子は得な性格してるわ〜


それにしても寝顔が可愛すぎるんですが…!

何、あの無邪気な顔!何でちょっと笑ってるの!

腕を枕にして、廊下側に顔を向けて寝てるから、きっと隣の女子とか堪らんと思うのよね。

まったく罪な男ね、やまもっちゃんたら!


「(あとで冷やかしてやろっ!)」


そんな具合に1人で楽しんでいたせいで、私はちょっと油断したんだろう。

ドアの小窓に近づきすぎていることに気づかず、そのままガタっと音を立ててぶつかってしまったんです…


「やべっ…!」


思わず漏れた自分の声にまた驚きながらも、私は咄嗟にその場にしゃがんで姿を隠した。

教室の中が静かになるのと反比例して、途端にうるさくなっていく心臓。

バレても風紀の腕章を見せれば何とかなるかもしれないけど、できればゴタゴタは起こしたくない…!

しかし私の心配を他所に教室内の静寂はほんの数秒で破れ、また先生が授業の続きを話す声が聞こえてきた。


「危なかった…」


そう呟きながら、危険だと思いつつももう一度教室の中を覗いたとき…!

いつの間に起きたのか、やまもっちゃんとバッチリ目が合ってしまった。

たぶんさっきの物音で目覚めて、何の気なしにこっちを見てたんだろう…

彼は私と目が合った瞬間、ガタっと席を立ち叫んでしまった。


「あっ!!」

「こら、山本!うるさいぞ!」

「あ、すんません!…先生〜オレちょっとトイレ行ってきていいっすか?」

「もうすぐ授業終わるから我慢しろ。」

「いや、ちょっと腹痛くて…お願いします!」


片目を瞑りながら、顔の前で手を合わせてるその姿はとても素敵なんだけど…

少年、何やってるんだ!

そんなことしたら私の存在がバレちゃうかもしれないでしょ!!


「はぁ〜分かったよ。さっさと行ってこい。」

「あざっす!」


おいーっ!先生まで何許可してるんだ!

いくらやまもっちゃんがカッコイイからってー!!

そんな私の焦りっぷりとは裏腹に、何とも可愛らしい笑顔でドアに向かい、教室の外に出てきた少年。

そして、後ろ手にドアを閉めると…


「スズ!」

「! しーっ!大きい声出したらバレちゃうから!」

「お、悪ぃ悪ぃ!…で?何してんだ?こんなとこで。」

「ちょっと恭弥に呼ばれてさ!遊びに来たの。」

「ヒバリに?」

「うん!でもあの子忙しそうだから、暇になるまで校内見学させてもらってるんだ。」

「なるほどな〜」

「それより!やまもっちゃん、何で授業抜け出しちゃったの!お腹痛いとか、あれ嘘でしょ!直前まで寝てたじゃん。」


そう言いながら彼の肩をポンと叩くと、やまもっちゃんはニカッと笑って…

"だってせっかくスズがいるの見つけたのに、そのまま授業受けるとかもったいねーじゃん。"

とか言ってくれちゃうんです!

こんなイケメンに面と向かってそんなこと言われたら、こちらは何も言えなくなっちゃって…


「…」

「スズ、もしかして怒ってる…?」

「いや、怒ってない!ただ…照れくさくて。」

「! そっか…!」


私の照れくささが移ったのか、やまもっちゃんも何かほんのり顔が赤くなっている。

それがまた絵になるんだ…!


それから私達は、廊下の端の方でヤンキー座りをしながら小声で話をした。

いつもより小さい相手の声を聞き洩らさないように必然的に距離が近くなって、もうさっきからドキドキなのよね…!

でも話してる内容は、相変わらず他愛のないことで。

授業のこと、さっき私が教室を覗いてたときのこと、他のクラスのことなどなど。

そして…


「あ。そういえば私、まだ笹川兄妹に会ってないんだよね。」

「そういえばそうだな。じゃあ後で紹介するよ!笹川も、先輩も。」

「本当!?ありがとー!」

「おぅ!」


やまもっちゃんが笑顔でそう請け合ってくれたのと同時に、どこの学校でもお馴染みのチャイムが鳴り響いた。

気づけば、結局この子は授業に戻らなかったわけだけど良かったのかしら?


「やまもっちゃん、授業戻らなかったけど平気?何かごめんね。私が邪魔しちゃったから…」

「平気平気!少しぐらい何てことねーって。それより!何でスズが謝んだ?

 スズに会いたくてオレが勝手に抜け出してきたんだから、スズは何も悪くねーの!」


私の頭をガシガシと撫でながら笑顔でそう言うやまもっちゃんは、次の瞬間弾かれたように立ち上がると私の手を取って教室へと走る。

そしてガラッとドアを開けると…?


「ツナー!獄寺ー!」


全開笑顔でマブダチを呼び、隣にいた私の頭を後ろから掴んで教室内にいる2人に見えるように動かした。

つまり今ツナ&獄寺くん側からこっちを見ると、私とやまもっちゃんの顔がドアからひょこっと出ている状態なのです。

2人は私の顔を見た瞬間、笑っちゃうぐらい驚いた表情をしてからそのままドアの方に小走りで来てくれたんだ。


「スズ、どうしたの!?」

「お前何でいんだよ!」

「ヒバリに呼ばれたんだってさ。なっ?」

「うん!ビックリした?」


そう言う私に対して、ツナはニッコリ微笑んで頷いてくれた…のに!

一方の獄寺くんはといえば、"うるせっ"とか言いながら私の鼻をつねったんですよ!?


「いてっ!いきなり何すんの!」

「何かスズに驚かされんの悔しいんだよ!」


あ、もしかしてそれは前の私の年齢ドッキリでトラウマになったからかしら。

そう思うと何か面白い。

つねられた鼻はまだ少し痛いけど、私はニヤニヤが止まらなかった。

そんな私を見た獄寺くんは、"何笑ってんだよ"ってまた鼻をつねる。

あー何かこのやり取り楽しくなってきた…!

と、そのとき私の頭に手を乗せて寄りかかっていたやまもっちゃんが不意に言葉を発する。


「スズ、それより笹川のこといいのか?」

「あっ、そうでした!ツナ、私笹川兄妹に会いたいんだけど…」

「そういえばまだ紹介してなかったね。ごめんごめん。ちょっと待ってて…」


私に軽く謝るとツナはささっと教室の中に入り、噂の美少女・京子ちゃんを呼んできてくれた。

目の前に登場すると、京子ちゃんのあまりの可愛さに目眩がする。

何なんだろうか、この子の輝きは…!

周りにツナ達以外の生徒が大勢いるという規制がなかったら、また例のごとくあの病が出てたわ。


「初めまして!笹川京子です。」

「木下スズです!初めまして…!」

「私、ハルちゃんから面白くて素敵なスズちゃんって子がいるって聞いてから、ずーっと会いたかったんだ!」

「えっ、本当に!?嬉し過ぎる…!」

「ふふっ。あとお兄ちゃんにも少し話したら、お兄ちゃんも会いたいって!」

「えーっ!これまた嬉し過ぎるー!!」


なんて会話をしていると、不意に廊下の向こうから誰かが猛ダッシュで走ってきた。

おいおい、昔から廊下は走っちゃダメって言われてるでしょーに。

とか思いながらそっちに目線を向けると、今話題に上がった笹川兄がいた。

マジか!この素晴らしいタイミングで現れるなんて、やっぱり何かを持ってるわね…!


「京子ー!」

「お兄ちゃん!どうしたの、急に!」

「いや、今何かオレの名前が呼ばれたような気がしてな!走ってきたんだ!」


3年生の教室からここまで結構あるはずなのに、走ってきたお兄さんの息は全く乱れていない。

さすがは、ボクシング部キャプテン!鍛え方が違うわ。

しかも漫画で見るより、実物の方が何十倍も男前だわ…!

背も高いし、引き締まったキレイな体だし、笑った顔とか本当可愛い!!

そんな私の熱すぎる視線に気づいたお兄さんがこちらを振り返り、ついにご対面…!


「ぬっ。お前は誰だ!」

「え、あ、私は、えっと…」

「お兄ちゃん、この前話した子だよ!木下スズちゃん!」

「何!?お前が木下スズか!!」

「は、はい!初めまして!」

「おー!会いたかったぞ!不思議の国から来た、面白くて変な女子!」


これ褒められてるのか…?

ん〜まぁとにかく、会いたいとは思っててくれたのよね!

ポジティブにそう捉えて、私は差し出されていたお兄さんの手を握った。


「そういえばさ、スズ。お兄さんのことは、元の世界で何て呼んでたの?」

「えーっとね…"先輩"だったかな!」

「いや、お前の方が先輩だろ。」

「うるさいよ、獄寺くん!細かいことは気にしないの。」

「だが、スズに先輩と呼ばれるのは極限変な感じがするぞ!」

「だよね…じゃあ何て呼べばいい?」

「呼び捨てでいいぞ!その方がオレもしっくりくるからな!」

「おー!やった!じゃあ改めて…これからよろしくね、了平!」

「あぁ!極限によろしくだ、スズ!」


何かいつの間にか呼び捨てで呼ばれてるけど、あまりに自然だったから気づかなかったわ。

でもやっぱ"スズ"って呼んでもらえると嬉しいな…!


そんなこんなで、無事に笹川兄妹とご対面できました!

2人とも漫画で見るよりもずっと可愛いし、カッコいいし、いい子なんだ〜これが!


その後、6時間目の授業があるツナ達と別れ、私はまた応接室に戻ることに。

あの超絶忙しい委員長、少しは落ち着いたかな…



to be continued...



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