並盛町 夜9時

すっかり人気がなくなった路地から、誰かの苦しそうな声が聞こえる。

直後、派手に倒れ込むリーゼントの男。

そして目の前には、学生服に身を包んだ2人の男が彼を見下ろしていた…


「よえーよえー。風紀委員、恐るるに足らーず!」


ツンツンした髪にピンをとめている男は、そう言って舌を出した。

リーゼントの男が倒れたまま名前を問えば、ふざけた調子で返事をする。


「貴様ら…何者だ…」

「んあー?遠征試合にやってきた、となり町ボーイズ?」

「それつまんないよ。早く済ましてよ、犬。」


ニットキャップと眼鏡を身に付けたもう1人の男は、そう言ってポケットに手を突っ込んだ。

一方"けん"と呼ばれたツンツン少年は、どこからか取り出したペンチをいじりながら、リーゼントの男の頭をガシッと掴んでいる。

そして次の瞬間…


バキャ


辺りに痛々しい音を響かせながら、リーゼントの彼から歯を奪い取っていったのだった。



-----闇は、もうすぐそこまで迫っている。





標的26 襲撃





「並中、大丈夫なの?」


着替えを済ませたツナが下に降りてくるなり、ママンはそう言って不安そうな顔を見せた。

私もツナのご飯をよそいながら話に耳を傾ける。


「また襲われたらしいじゃない。」

「何それ?」

「この土日で並盛中の風紀委員8人が重傷で発見されたんだぞ。やられた奴はなぜか歯を抜かれるんだ。全部抜かれた奴もいたらしいな。」

「え〜!?マジでー!?な…なんでそんなことするんだ?」

「さーな。」


ツナは驚き、少しの恐怖を見せながらイスへと座る。

そしてご飯とみそ汁を渡す私に"ありがと"とお礼を言うと、ママンやリボーンと話し始めたんだ。


でも3人の会話は私には聞こえてこなかった。

今の一連の会話は知ってる。元いた世界で読んだことがあるから。

この後了平がやられて、恭弥が敵地に乗り込んで、骸さんとツナが戦って…

それはつまり、恐れていた黒曜編が始まったってこと。


これから起こるツラい出来事を思い、自然と俯いてしまっていた顔に気づきハッとする。

これじゃダメだ。昨日リボーンと約束したじゃん!


"笑顔を忘れるな"


ツラいのは私じゃない。

友達が目の前で傷つき、自分自身も戦いに巻き込まれていくツナ達の方だ。

そんな皆の前で、私がこんなにヘコんでどうする!!

私は皆と一緒に落ち込むためにいるんじゃない。

皆と一緒に頑張るために…皆を励まして、支えるためにいるんだ。

そこまで考えがまとまって、ようやく私は少し気持ちが楽になった。


「…スズ?」

「! ど、どしたツナ?」

「いや、どうしたはこっちの台詞だよ。さっきからボーっとしてるけど大丈夫?」

「あ、うん!大丈夫!まだちょっと眠気が…ね。」


そう言いながら軽く欠伸をすれば、ツナは"オレも"と言って笑顔を見せてくれた。

よし、もう大丈夫。いつもの私だ。

その時ふと視線を感じてそちらに目をやると、リボーンがこっちを見てニヤリと笑ってた。


"それでいい"


きっと今リボーンはそう言ってくれてる。

そんな彼に向かって強く1回頷いて、私はママンの手伝いを再開したんだ。


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それから朝食を食べ終えたツナやリボーンと一緒に私は家を出た。

きっと家にいても落ち着かないし、先のこといろいろ考え過ぎちゃうだろうから。


「そういえば…リボーンはともかく、スズまで一緒に学校行くなんて珍しいね。」


そう言って、ツナは私に笑顔を向けた。

その両手には、家を出るときにママンから貰った格闘技教室関係のチラシを大量に抱えている。


「ツナが授業中寝てないか、定期的に監視しなくちゃいけないからね!」

「オレ寝てないって!…あれ?てか、この前来たばっかりじゃん!」

「いいんです〜だって並中楽しいんだもん!」

「そうかな〜」


こんな感じで楽しく会話をしながら歩くこと数十分…

私達の目の前にようやく並中の校門が見えてきた。

例の事件の影響か校門付近には風紀委員がウロウロしていて、ツナはそれだけで既にビビリまくっている。


「風紀委員だ!あそこにも…!」

「そりゃあ、あんな事件が多発してるんだ。ピリピリもするぞ。」

「確かに皆厳しい顔してる…」

「やっぱ不良同士のケンカなのかな…」

「ちがうよ。」


不意に聞こえた静かで落ち着いた声。

声がする方を向けば、そこには並盛を治める委員長様がいた。


「ヒバリさん!!」「恭弥!」「ちゃおっス。」

「おはよう、スズ。」

「おはよう!」

「いや…ボクは通学してるだけでして…」

「ツナ、そんなにビクビクしなくても大丈夫。捕って食ったりしないから。」


私の言葉に恭弥は何か言いたそうだったんだけど、サラッと流して私は視線を外した。

そんな私の様子に1つため息をつくと、恭弥はまた静かに話し始める。


「…身に覚えのないイタズラだよ。もちろん、ふりかかる火の粉は元から断つけどね。」

「! スズ…やっぱヒバリさん怖いよ!」

「うん…今のは確かに怖かった。ありゃ相当お怒りだわ…」


と、その時。

恭弥の携帯の着信音である並中校歌が流れてきて…

その場を1秒でも早く立ち去りたいツナに向かって、恭弥は冷静な顔を保ったままこう告げた。


「笹川了平……やられたよ。」


ついに来た。

分かってたことなのに、実際にその事実を聞いた瞬間、心臓がキュッと締め付けられるように苦しくなる。

恭弥に入院してる病院を教えてもらい、私達はすぐに了平の元へ行くことにしたんだ。

でも、その前に…

もう1つ私にはやらなきゃいけないことがある。

事実を教えることはできないけど、せめて注意を促すぐらいはやってもいいよね…!


「ツナ!私ちょっと恭弥に話があるから先に行ってて!すぐ追いつくから!」

「うん、分かった!」

「気をつけて来るんだぞ。」

「らじゃ!」


そうしてツナとリボーンを見送った私は、不思議そうにこちらを見つめる委員長の方を振り返った。

この後、恭弥は敵地に1人で乗り込む。

そこで初めて骸さんに会って、酷いケガを負わされることになるんだ…

だから少しでもケガが少なくて済むように何かアドバイスをしたいんだけど、事実を言っちゃいけないっていう制約のせいで上手く伝えられない。


「スズ、話って何?」

「あ、あの…えーと、その…」

「ふっ…焦らなくていいから、ゆっくり話してごらん?」


私がモゴモゴと言葉を濁していると、恭弥は私の頭を撫でながら穏やかな声でそう言ってくれた。

チラッと視線を上げれば、そこにはキレイな顔で微笑む彼がいて…!

その顔が数時間後には痣だらけになってると思うと…すごく怖い。


「…あのね、恭弥!」

「うん。」

「これから恭弥、敵がいるところに乗り込むんだよね?」

「そうだよ。」

「その時に…あの、何ていうか…体調が悪くなったら、絶対に無理しないで?」

「体調?今、別にどこも悪くないけど。」

「いや、今はね!でもほら、恭弥…ある特定の花見ると、具合悪くなるでしょ?」

「あぁ…あれか。」

「そう!だから…油断しないで!あと、無理もしないで…!」


私のそんなムチャクチャなお願いに恭弥は一瞬目を丸くしたけど、すぐに表情を和らげて"分かった"って言ってくれたんだ。

こんなんで、アドバイスになったんだろうか…


「じゃあスズ、僕そろそろ行ってくるから。」

「あ、うん!」

「病院まで気をつけて行くんだよ?」

「ありがとう!恭弥も、気をつけて…!」


頷く代わりに、彼は私の頭をもう1度撫でてから歩き出した。

"治療しに、私もすぐ行くから。"

恭弥に聞こえないように小さな声で呟く。

角を曲がって、恭弥の姿が見えなくなるのを見届けてから、私は病院までの道のりを走った。



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