さっきまでいた場所に戻り穴の中を覗くと、未だ気絶したままの犬ちゃんの姿が…
それを確認してから、私はその辺に落ちていたロープを木に結び、ゆっくり下へと降りた。
苦労しながらも何とか無事に穴の下に降り立つと、持っていた救急セットで早速治療を始めた。
あとでまた攻撃されるって分かってる。
ここで致命傷を与えれば、ツナ達が楽になるってことも分かる。
でも…だけど…やっぱり放っておけない。
そして治療を始めてしばらく経った頃、消毒液がしみたのか犬ちゃんが目を覚ました。
「…っつ……ん?…うわっ!おまえ、さっきの…!」
「あ、目覚めた?ちょっとじっとしててね、今治療中だから。」
「……どういうつもりびょん。」
「ん?何が?」
「何がって…敵だろ!?何で治療なんかしてんらよ!」
犬ちゃんは険しい顔で声を荒げるが、私はその問いかけを無視した。
そして彼の鋭い眼差しを受けながら、そのまま何も言葉を発さずに作業を続けていると、
フッと威圧的な雰囲気を消すと、諦めたような表情を見せた後、彼もまた無言になった。
それから、時折痛さに顔をしかめる犬ちゃんの傷を順調に手当てしていき…
「…よしっ。これでオッケ!」
「…礼は言わねーからな。」
「いいよ。私が勝手にやったことだし。」
「……さっきの質問には…答えてくんねーのかよ。」
「ん?あー…あれね。」
このまま黙っていても、きっと犬ちゃんは諦めることなく聞いてくるだろう。
だったら話してしまおう。
犬ちゃん達の過去を知っているということを…
「実は私ね、訳あって犬ちゃん達の過去を知ってるの。」
「え?」
「今よりもずっとずっと辛い思いをしてきたこととか、バカみたいな大人に散々な目に遭わされてきたこととか…」
「…」
「確かに犬ちゃん達は私の友達を傷つけた。目的を果たすために、何の関係もない人達にまで手をかけた。それは許せない。」
「…」
「でも過去を振り返れば犬ちゃん達も……被害者だから。」
「!」
「だから私は、犬ちゃん達のことを放っておけない。傷だらけで倒れてたら、助けてあげたいって思う。」
「おまえ…」
「てことで…私と友達になって!」
「…は?」
言ってる意味が分からないという風に、首を傾げる犬ちゃん。
そりゃそうか、さっきまで敵として戦ってたんだもんね。
…でも思うの。
この子達は皆、本当はすごく弱くて、寂しがり屋で…
誰かに寄りかかりたいのに、誰にも寄りかかれない…そんな不器用な子達だって。
だからこっちが心を開けば、きっと向こうも近寄ってきてくれるはず…
そう思って、私は"友達"という言葉を彼に贈ったんだ。
「…おまえそれ、本気で言ってんのか?」
「もちろん!」
「さっきまでオレ、おまえの仲間と戦ってたんだぞ!?分かってんのか?」
「分かってるよ。でもその戦いはもう終わったでしょ?」
「…オレのケガまで治すし……おまえ、何なんだよ。」
「何って…友達がケガしてるんだから、治療するのは当たり前のことじゃん!」
「!」
「…いいんだよ、もっと人に寄りかかって。頼ることは、悪いことじゃないんだから。」
そう言って、私は犬ちゃんの頭をポンポンと撫でた。
ビクッと体を震わせた彼は急に顔を下に向けて、何かを考えるように俯く。
そして…
縛られて動きが取れないながらも、彼は私の肩に頭を乗せてきた。
予想外の行動に驚いたけど、それでも恐怖感は一切ない。
だって犬ちゃんは、本当はすごく優しい子だから。
「…おまえが、"友達になって"って言ってくれたとき……本当はすげー嬉しかった。
そんなこと言われんの初めてだったし、そもそもオレらとそういう風に接してくれる奴なんていなかったから…
……本当に…オレと"友達"になってくれんのか…?」
「とーぜん!」
「……ありがとれす。」
「ふふっ。じゃあ…改めて自己紹介でもしますか!いつまでも"おまえ"じゃ寂しいし…!私、木下スズ。よろしくね、犬ちゃん!」
「…よろしく……スズ。」
自分の行動が正しいかなんて分からない。
でもあのまま犬ちゃんを見捨てていたら、自分が自分じゃなくなっちゃう気がしたから…
私は弱々しく震える犬ちゃんをギュっと抱きしめ、子供をあやすように撫でてあげたんだ。
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