スズが落ち着くのを待って、無陀野はこの後の予定について話し出す。

午後の授業に関する打ち合わせをするから、1時間後に会議室に来て欲しいとのこと。


「四季達に伝えておきましょうか?」

「いや、打ち合わせに出るのはお前だけだ」

「あ、そうなんですか」

「あぁ。今回の授業、スズはオブザーバーだ。お前がいるとあいつらが甘えるし、内容的にも簡単になりそうだからな」

「なるほど。分かりました!」

「あとまだ会わせてない非常勤の奴らも紹介する」

「お願いします!」

「ん。また後でな」


そう言って無陀野が去ってから、朝食を済ませ全ての支度を終えたスズ。

約束の5分前に会議室のドアをノックすれば、そこには既に彼女以外の参加者が顔を揃えていた。

一番下っ端の自分が最後だったことに焦り、スズは部屋に入るなりガバッと頭を下げる。


「す、すみません!遅くなりました…!」

「まだ5分前だから気にするな」

「そうそう!俺らが早かっただけだから。ここおいで?」


大きな机の議長席に座る無陀野に続き、その斜め左に座る花魁坂も声をかけてくる。

彼がポンポンと叩く隣の席にお礼を言いながら腰を下ろすと、スズは机を挟んだ向かいに座る見知らぬ2人の男性に目を向けた。

目元がすっかり隠れているマッシュヘアの男と、先程から咳と共に血を吐いている長髪の男。


「(この人達が、無人先生が言ってた非常勤の先生…)」

「先にこいつらのことを紹介しておく。京夜の前に座ってるのが猫咲、スズの前にいるのが印南だ」

「初めまして!木下スズと申します!」

「初めまして、猫咲波久礼です。よろしくお願いします」

「印南です。君の活躍は噂で聞いてるよ。いつも僕たちのためにありがとう!ゲホッ」

「僕たちの仲間も何人かお世話になったことがあるみたいで、お礼を言ってました」

「とんでもないです…!今のお話の感じだと、お二人とも現役の隊員さんですか?」

「えぇ」「こう見えても戦闘部隊!ゴブッ」


そうして一通り初対面同士の挨拶が終わると、無陀野が午後の授業について話し始める。

最近、少しずつ冷え込みが強くなってきた鬼ヶ島。

羅刹学園の裏手にある山には既に白いものが降り積もっていた。

その雪山を利用して、午後は登山をしながら実践的な修行をするとのこと。

必要最小限の飲み物と食べ物を与え、全員で24時間以内に頂上へ到達するのが目標だ。


「だがただ登るだけでは何の修行にもならない。だからお前たち2人にはその邪魔をしてもらいたい」

「「分かりました」」

「京夜は救護班として山頂に待機しててくれ」

「オッケー!」

「あの、先生…私はどうすれば?」

「お前は俺と一緒に、あいつらを離れた位置から見守る。途中で致命傷を負うようなことがあれば…出番だ」

「らじゃ!頑張ります!」


その後1時間程かけて、細かい部分の取り決めや対応を話し合う5人。

と言ってもほとんど大人組4人で話し合いが進んでおり、スズはひたすら愛用のノートに内容をまとめていた。


「こんなところか。じゃあまた現地で。解散」


無陀野の一言で、スパっと打ち合わせが終わった。

準備のため早々に会議室を後にする無陀野と花魁坂を見送ると、猫咲の様子が途端に変化する。

隠れていた目が現れ、髪の毛が猫耳のように立ち上がり…そして口調が悪くなった。


「やっと行ったか…無陀野の野郎、こっちは忙しいっつうのに、変なことに巻き込みやがって」

「え、猫咲先輩…?どう、されました?」

「お前も大変だな。あいつの秘書やらされんだろ?俺なら半日ももたねぇわ」

「あ、いや、全然そんな…それより、猫咲先輩は…二重人格なんですか?」

「こっちが本当の彼だよ。いつも先輩たちの前では猫かぶってるんだ」

「そう、でしたか…!ほぉ〜(一応メモっとこ)」

「つーか、お前それ何書いてんだ?」

「僕も気になってた。随分熱心に書いてたよね」

「これはこの後の修行の流れとか、先輩達の能力のこととか、自分がどう動けばいいかとか…ちゃんとまとめておかないと、私簡単に死んじゃうので」

「「!」」

「皆さんの邪魔にならないようにするのはもちろんですけど、自分の身を守るためにも、いろいろ書いておかないと不安なんです」


"心配性で…"と苦笑するスズを、先輩2人はさっきまでと違う目で見つめる。

血で戦える自分達とは違い、彼女の力は治癒に全振り…もしもの場合の抵抗する術はない。

それでも現場は常に彼女を必要としている。

そんな状況で過ごしていれば、今スズが取っている行動は、身について当然の習慣だった。

だがどれだけ情報を整理し、心身を鍛えていても、不安や恐怖を完全に取り除くことは不可能だろう。


「…お前、すげーな」

「え?」

「普通ならもうとっくに心折れてんだろ」

「確かにそうだ。本当に素晴らしい!」

「そんな、全然です…!皆さん、すごく大事にして下さるので…いつも感謝しかないです」

「うんうん、その人たちの気持ちが分かる!」

「だな。…気に入った。俺らもお前のこと守ってやるよ」

「えっ!」

「今回の修行に関してじゃないよ?これから先、もしも一緒に現場に出ることになったらの話」

「ギブ&テイクだ。よろしくな、スズ」

「ありがとうございます!よろしくお願いします!」


こうしてまた心強い仲間が増えたスズ。

ノートを書き終えるまで待っててくれた先輩2人と共に、彼女は雪山へと向かうのだった。



to be continued...



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