スズの新しい能力の訓練と実験を兼ねて、大人組は全員首に彼女の血をつけた。

どのぐらいの距離までやり取りが可能か、複数人につけた時に正常に機能するか、中継役としての振る舞いはどうすれば良いか…

加えて、本来の業務とのバランスも考えなくてはならない。

通信手段に血を使い過ぎて、負傷者の治療が出来ないのでは本末転倒だ。

生まれたばかりの能力だけに、その課題は山積みだった。

しかし大人組から想定以上の良い反応をもらえたことで、スズのやる気はMAXである。


「無人先生、京夜先生!私、頑張ります!」

「お前はいつも頑張ってるだろ。この血の使い方は未知数な部分が多い。無理はするな」

「もし体に異変が出たら、すぐ俺に連絡するって約束して?」

「分かりました。ありがとうございます!」


自分を気にかけてくれる2人の師匠に、スズは明るい笑顔を向ける。

そして実験に協力してくれる非常勤コンビにも、改めてお礼を伝えるのだった。

それから数分後…

花魁坂が今度こそ本当に山頂へ移動し始めたタイミングで、ようやく一ノ瀬達が麓へ到着した。


「スズ!いねぇと思ってたら、もう来てたのか!」

「うん!今日は皆のこと見守る側だから、いろいろ準備があって」

「準備かぁ。そもそもなんでこんな所にいんだ?」

「これから実戦的な修行を行う。お前らにやってもらうことは1つ…山登りだ」

「山登りぃ?」


そうして無陀野は、打ち合わせで話していたルールを生徒たちに伝える。

早速"全員で一緒に"という部分に噛みついた矢颪と、それに反応した皇后崎がプチバトルを始めて…

スズは担任の機嫌が悪くなっていくことと、先行きの不安に苦笑交じりで様子を見守っていた。

そうこうしているうちに、いよいよ今回の修行の肝が登場する。


「お前ら鬼の身体能力なら、登頂自体は簡単なはずだ。だからそれを邪魔してもらう奴らを呼んだ。来い」

「初めまして、非常勤講師の猫咲波久礼と申します!無陀野先輩には昔からご指導頂いてました!今回お役に立てて凄く嬉しいです!」

「ふふっ。波久礼先輩ってすごいですね」

「本当よくやるよね。ゲホッゴホッ!」

「わっ、大丈夫ですか?挨拶前ですから、血拭いて下さい…!」

「ありがと。…初めまして、未来の希望の諸君。ゲホッ。輝く君たちとご一緒できて僕は幸せ…ゴブッ!」

「おい血ぃ吐いてんぞ!」


印南がその見た目に反したポジティブな挨拶をしている間に、一ノ瀬たちと一通り握手を交わした猫咲が戻って来た。

戻るなりスズの隣に並ぶと、誰にもバレないよう肘で小突いてくる。

驚いてチラッと隣に目をやれば、先輩からの鋭い視線が飛んできた。


「お前、さっき笑ってたろ」

「えっ、いや、そんなことは…!」

「見えてんだよ。現役舐めんな」

「すいません!でもさっきと全然違うから…ふふっ」

「うるせぇ。もうしばらくこのまま行くから、あいつらに言うなよ?」

「分かってます!よろしくお願いします、波久礼先輩!」

「えぇ。皆さんの役に立てるよう頑張ってきますね」


口調を変えてそう言った猫咲が、最後に悪そうな笑顔をスズに向けたところで、無陀野が再び話し始める。

今回は2人が現役の隊員であることを踏まえた上で、互いに血の使用が許可された。

そして最後にもう1つ。


「それと全員に渡すものがある。スズ」

「はーい!…ほい、四季」

「おっ、サンキュ!なんだこれ?」

「コップ1杯分のお湯とチョコだ。食料はそれだけだ。この山で狩って食すことは禁ずる。たかが24時間…それで乗り越えろ。

 とにかく24時間以内に全員で山頂へ辿り着け。スズだけじゃなく京夜もいるから、激し目に行く様言ってある。

 死ぬ確率は低いが、舐めてかかると死を招く。お互い全力でやれ。以上だ」


その言葉を合図に、生徒たちはゾロゾロと出発した。

"気をつけてね!"と送り出すスズに笑顔を向ける面々の中で、矢颪だけ表情が冴えない。

当初からこの修行自体に納得していない様子だったし、スタート直後から輪を外れている。

今のスタンスのまま修行が進めば、思わぬトラブルを引き起こしかねない…

そう思い、スズは同期の中でリーダー的な存在である人物の名を呼びながら駆け寄った。


「迅!」

「ん?どうした?」

「あの、碇君のことだけど…」

「あーあいつな…全然やる気ないみたいで、相手すんの疲れる」

「そっか…でも、1人じゃ絶対ゴールできないから…気にかけてあげて欲しい」

「何で俺が…」

「だって迅が一番冷静で、周りがよく見えてると思うから。むしろ迅にしか頼めない」

「! ……分かった。ったく面倒くせぇ…お前の頼みじゃなきゃ断ってるからな」

「うん、ありがとう!」


安心したようにふわっと笑うスズに、皇后崎は目を奪われる。

いつからか目で追っていて、気づけば自分の心の大部分を占めるようになっていたスズという存在。

彼女が笑ってくれるなら、喜んでくれるなら…それが自分のモチベーションになる日が来るなんて思っていなかった。

皇后崎にとって、スズはもうただの同期ではなくなっていた。


「(でも今はまだ言えねぇ。もっと肉体的にも精神的にも強くならねぇと…どんな状況でもスズを守れるぐらい、強く…!)」

「迅?大丈夫?」

「…スズ」

「ん?」

「もう少しだけ待ってろ」

「?」

「ふっ。行ってくる」

「あ、行ってらっしゃい!気をつけてね…!」


皇后崎は、ここから司令塔としてのスキルが着実に上がっていく。

あとから思えば、これはその最初の一歩だった。



to be continued...



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