同期内でも1・2を争うぐらいの身体能力で、スズはあっという間にスタート地点の方まで戻って来た。

少し辺りを捜索すれば、聞き慣れた2人分の声が聞こえてくる。

気づかれないよう木の上から様子を伺っていたスズは、彼らの会話に耳を澄ませた。


「うるせぇよ!大体俺はこんな皆で山登りしに来たんじゃねぇんだよ!強くなりに来たんだ!

 なのに桃と闘って気づいたよ!全然強くなれてねぇ!当たり前だ!こんなことしかしてねぇんだ!皆でゴール!?そんなんで強くなれるわけねぇだろ!」

「(碇君、そんな風に思ってたのか…どうりで荒れてたわけだ)」

「ほーこんな修行じゃ強くなれねぇと」

「そーだよ!」

「ふーん、なるほどね。…消えろ。そんで1人で桃とやり合ってさっさと死ね。周りが見えねぇ奴はいらねぇ。

 強くなりたいのは結構なこった。けど1人で強くなれんのか?」

「強くなってやるよ!」

「なれる訳ねぇだろ、カス。今のままじゃ、お前は一生弱いままだ」

「んなわけねぇ!」

「は!これだもん。お前の仲間も今頃迷惑してんな」

「俺の仲間はあいつらじゃねぇ!」

「あいつらじゃ…?」

「(そっか、私たち仲間じゃないんだ…じゃあ誰なんだろう…碇君の仲間って)」


同期の口から出たショッキングな言葉は、スズの表情に暗い影を落とす。

シュンとしながら考えを巡らせていた彼女は、少しボーッとしていたのだろう。

枝の上で足を滑らせ、ボフッという音と共に雪の中へ落下した。


「いてて…」

「何やってんだ、スズ。大丈夫か?」

「! スズ、何で…」

「あ、はい!大丈夫です…って、気づいてたんですか!?」

「当たり前だろ。もうちょい気配消せるようになれ」

「…今度教えてください」

「授業料用意しとけよ。…で?来た理由は?」

「…碇君が、どうしてるかな…って」

「んなこったろうと思った。俺らの会話聞いてただろ?心配するだけ無駄だ。お前も、仲間じゃない奴に心配されても嬉しくねぇよな?」


そう言いながら、座ったまま押さえつけている後輩に顔を向ける猫咲。

当の本人はと言えば、先程までの威勢はどこへやら…

スズから視線を外すと、気まずそうに下を向いていた。

そんな矢颪の元へ近づこうとしたスズだったが、その体が不意に誰かに抱き寄せられる。


「へっ?は、波久礼先輩!?」

「奇襲か。危うくスズも巻き込むとこだったぞ?」

「んなヘマはしねぇ(早く離れろよ…!)」

「迅!(碇君のこと迎えに来てくれたんだ!)」

「気が高ぶっててわかりやすかったな。もっと内に秘めろ」

「そうかよ。けど、こいつは回収させてもらう」

「んなの頼んでねぇ!引っ込んでろ!」

「あ?」「碇君…!」

「そうそう。そいつにはもっと足を引っ張ってもらわないと。…スズ、木の影に隠れてろ」


皇后崎の奇襲を避けただけでなく、スズのこともしっかりと守った猫咲は、彼女にそう告げて姿を消す。

吹雪で視界が悪い中で目を凝らせば、猫咲が矢颪に変わるのが見えた。

そのまま静かに皇后崎の方へ近づいた猫咲は、矢颪の顔を利用して一気に仕掛ける。

直撃は避けたものの、顔を掠ったナイフによって皇后崎の頬からは血が滴っていた。

さらにやられっぱなしだった矢颪が反撃とばかりに攻撃を仕掛けるが、逆に足へナイフを突き立てられて倒れ込んでしまう。


「しばらくこいつはお荷物確定。当然だが、スズの力は使わせねぇからな。さーこの状況どーする?」


問いかけれらた皇后崎は、反撃すると見せかけて辺りの雪を散らし、逃げるための目くらましにする。

それからすぐさま矢颪に声をかけ逃げようとするが…


「おい立て!」

「うるせぇ!余計なことすんじゃねぇ!」

「(イラつく…スズとの約束破っちまいそうだ)」

「波久礼先輩、ちょっと待って下さい!一旦ケガの状態を見ないと…!」

「(! 今だ!スズがあいつの気を引いてるうちに、矢颪のバカを…!)」


偶然とは言え、素晴らしいタイミングで皇后崎の役に立ったスズ。

彼女がくれた僅かな時間で同期を気絶させると、皇后崎は変身した猫咲に躊躇なく刃を向けた。

それからもう一度攻撃を仕掛けると、彼は気を失っている矢颪に肩を貸して歩き始める。

当然のように後を追おうとする猫咲だったが、先程の攻撃で切られた木々とそこに降り積もった雪がその足を止めさせた。


「ふーん、悪くねぇじゃん。環境の使い方もまぁまぁですね。ここは見逃してあげましょう。…ここはね」

「波久礼先輩、さっきはすみませんでした…!見守る側なのに、つい声をかけてしまって…」

「あー問題ねぇよ。そういうスズの行動も含めて、あいつらの修行だから」

「すみません…あと、ありがとうございました!一番最初の迅の奇襲、全然気づかなかったです」

「どーいたしまして。それよりよぉ…」

「ん?」

「雪まともにかぶってんじゃん。避けらんなかったの?」

「あ、はい…2人の方ばっか見てたら、まともにかぶってしまいました…」

「ふっ。お人好しが過ぎんだろ。ちょっとじっとしてろ。払ってやるから」

「え、いいですよ!先輩の傷の手当ての方が先です!」

「こんなのほっときゃ治る。お前が風邪引いたりケガしたりすると、無陀野がうるせぇの。そっちの方がよっぽど厄介なんだよ」

「あははっ!先輩も怖いものがあるんですね」

「うるせぇ。服ん中に雪入れんぞ」

「やめてくださいよ…!」


数分前までの戦いが嘘のように、和やかな空気感でスズと猫咲は言葉を交わす。

3分後、2人は再び雪の中を走り始めた。



to be continued...



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