2人が走り始めて少し経った頃、どこかから地鳴りが聞こえてくる。

いち早く気づいた猫咲が後輩の動きを止め、しばし耳を傾けた。


「今の音…雪崩ですかね」

「だろうな。音の感じ的にでかそうだから、誰か巻き込まれたかもな」

「そんな…!」

「こんなとこで修行させてんだ、そのぐらいは想定してるだろ」

「…修行の1つってことですか」

「そういうこと。ほら、行くぞ」

「はい…!」


同期たちの無事を祈りながら、スズは猫咲の背中を追いかけるのだった。





第43話 ふんばり所 〜 いい顔





雪崩発生から30分程が経過した時、不意に猫咲が足を止める。

あまりに急ブレーキだったため、その背中に激突したスズが声をかければ、先輩は口元に笑みを浮かべていた。


「いでっ!ちょっと先輩、急に止まらないで下さいよ〜」

「あー悪ぃ悪ぃ」

「もう〜…って、何で笑ってるんですか?」

「ん?…獲物見っけた」

「へ?」

「スズ、お前はこのまま進め」

「はい…波久礼先輩は行かないんですか?」

「俺はちょっと行くとこがある。あとで合流するから、あいつらのこと見失うなよ」

「分かりました!」

「またいつ雪崩が来るか分かんねぇから、十分気をつけるよーに」

「了解です!波久礼先輩もですよ」


スズの言葉に"誰に言ってんだ"と笑みを見せた猫咲は、ポンと彼女の頭を撫でてから一瞬で姿を消した。

先輩が向かったであろう先に、一筋の煙が立ち昇っているのが見える。

一抹の不安を感じながらも、スズは再び皇后崎たちを追って走り出した。


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辺りはだいぶ暗くなり、吹雪も止むどころかますます激しさを増していく。

視界が悪い中、目を凝らして進むスズの元に、彼女の血を使った手段で連絡が来た。


「無人先生?」

『スズ、雪崩は大丈夫だったか?』

「はい!だいぶ離れたとこにいたので平気です!先生も無事、ですよね?」

『あぁ、俺は問題ないが…四季と屏風ヶ浦が巻き込まれた』

「えっ!?」

『落ち着け。京夜には連絡済みだし、もしもの場合は俺も動くから心配するな。…ここがあいつらのふんばり所だ』

「ふんばり所…なら、きっと大丈夫です。2人とも強くて優しい子だから」

『そうだな。ところでそっちの状況はどうだ?』


無陀野からの問いかけに、スズは簡潔にこれまでの経緯を伝える。

皇后崎が矢颪を迎えに来て、猫咲と一戦を交えたこと。

そして彼を撒いて、今2人でゴールに向かっていること。

途中離脱した猫咲に代わり、自分が皇后崎たちを追っていること。

静かに話を聞いていた無陀野は最後に、任せていた彼のことを尋ねた。


『矢颪は変わらずか?』

「そうですね…来てくれた迅にも反抗的な態度でしたし、そもそもここでやってる修行や訓練に疑問を持ってるみたいです」

『疑問ね』

「こんなことやってても桃太郎には勝てないって…だから1人で強くなるって言ってました…」

『…分かった。引き続き頼む』

「はい」

『だいぶ暗くなってきたから、気を抜かず慎重にな』

「らじゃ!」


無陀野との通話を終えると、スズは今一度矢颪の言葉を思い返した。

1人でやれることには限界がある。絶対に苦しくなる瞬間が来る。

そうなった時、スズとしては何とか助けたいと思っている。

でも彼にとっての仲間は別にいて、自分たちはあくまで入学したのが同じタイミングだっただけの関係。

そんな関係性の自分に、果たして本当の意味で彼を助けることはできるのだろうか…

思えば、矢颪について知っていることはほとんどない。


「(この修行が終わったら、ゆっくりいろんなこと話してみたいな…)」


まずは相手を知ること。そして自分を知ってもらうこと。

より良い関係性を築くには、まずそこからだ。

大丈夫。時間はたっぷりある。

この時のスズは、そう信じて疑わなかった。

まさかあんな別れ方をするなんて、誰が想像できただろうか。



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