モヤモヤする気持ちを打ち消すようにフーッと大きく息を吐いたスズ。
前を見据えた表情は、いつもの明るく穏やかなものに変わっていた。
「(今はとにかく目の前の修行をしっかり見届けないと…!)」
そう決意して走り出した彼女の元に、またしても例の手段で連絡が届く。
相手はゴールで待機中の保険医だった。
『スズ〜聞こえる〜?』
「はい、聞こえてます!」
『へぇ〜こんなにハッキリ聞こえるんだ。長い距離もいけそうだし、いい感じだね!』
「ありがとうございます!良かった〜」
『ふふっ。…あ、そうだ。1つ伝えたいことがあって連絡したの。ダノッチから四季君たちのことって聞いてる?』
「はい、雪崩に巻き込まれたって…」
『その2人が今さっき無事にゴールしたよ』
「本当ですか!?良かった…!」
『四季君は雪崩をモロに食らって高熱出してるけど、鬼神の子だからね。俺もいるし、すぐに復活すると思う』
「帆稀は?どこかケガしたりとか…」
『足の骨折だけで、あとは元気そのものだよ。最後は彼女の血蝕解放で四季君を連れて来てくれた』
「すごい!帆稀、ちゃんと血を扱えるようになったんですね!」
『うん。すっごくいい表情してるから、あとで見てごらん?』
花魁坂からの嬉しい連絡に、スズの顔は笑顔でいっぱいになる。
守り守られる立場が思い描いていたのとは逆だったが、一ノ瀬の想いが屏風ヶ浦に届き、それを受けて彼女は同期のために頑張った。
その結果、あれだけ苦しんでいた自身の能力を見事に扱えるようになったのだ。
きっと彼女はこれからもっともっと強くなる。
だが屏風ヶ浦の成長に喜ぶ反面、スズの心はまたしても彼の方へ向いていた。
「(やっぱり1人じゃ無理だよ…碇君…)」
『…スズ?どうしたの、大丈夫?』
「あ、だ、大丈夫です!2人にお疲れ様って伝えてください!」
『オッケー!スズも気をつけてね。ゴールで待ってる』
「はい!ありがとうございます!」
それからまたしばらく2人を追っていたスズだったが、皇后崎への心配度がいよいよ限界に達しそうだった。
一歩ごとに足が埋まるような雪道を、気絶している人間に肩を貸しながら歩くのがどれほど大変か。
スタート直後からリーダーシップを取って指示を出し、常に自分が一番大変な役回りを引き受けてきた。
目まぐるしく変わる状況に対応するため、気力もかなり消耗しているだろう。
自分が行ったところで戦力にはならないが、せめて彼と2人で矢颪を運ぶことはできる。
すぐに無陀野へ連絡を入れ、スズは皇后崎を手伝いたい旨を伝えた。
「ダメでしょうか…?」
『皇后崎に手を貸せば、お前も波久礼たちの攻撃対象になる。それを理解した上で言ってるんだな?』
「はい。私も…皆と一緒に頑張りたいです」
『…分かった。許可する』
「ありがとうございます!ワガママ言ってごめんなさい」
『いや、スズならどこかでそう言ってくるだろうと思っていた』
「!」
『あいつらに対抗できるぐらいには鍛えてきたつもりだ。やるからには本気で行けよ』
「押忍!行ってきます!」
------
----
--
もう30分以上、矢颪を連れて歩いている皇后崎。
気力も体力もかなりギリギリな状態であることを、ここに来て嫌でも実感する。
前に出す足が重い。次の足はもっと重い。さっきからそれの繰り返しだった。
と、不意に自分の右半分…矢颪を抱えている側の重さが急に軽くなるのを感じた。
驚いてそちらに顔を向けた皇后崎は、矢颪を挟んだ反対側に愛しい彼女の姿を捉えた。
「スズ…何でいんだよ!お前、見守る側だろ…?」
「最初からずっと頑張りっぱなしの迅がこんな状況になってて、ほっとけるわけないじゃん」
「!」
「大丈夫、ちゃんと先生には許可もらってるから。ここからは一緒に頑張らせて?」
「(あーヤバイ…めちゃくちゃ嬉しい…けど顔に出すな、耐えろ!)…おぅ。ありがとな」
「うん!ねぇ、休まなくて平気?」
「大丈夫。暗くなってきてるし、今は先を急いだ方がいい。それに…」
「ん?」
「スズの顔見たら元気出たから、まだいける」
「そ、そっか…!でも援護部隊として、危ないと思ったら意地でも休ませるからね!」
「ふっ、了解」
ほんのり赤くなった想い人の顔を見て、皇后崎の表情も思わず緩む。
隙ができると思い、感情を出さないように努めていたのに、それがいとも簡単に崩れてしまった。
自分のスズに対する想いの強さに苦笑しながら、皇后崎はまた一歩足を前に出す。
その足は、笑いそうになるほど軽かった。
to be continued...
- 106 -
*前次#
ページ:
第1章 目次へ
第2章 目次へ
第3章 目次へ
第4章 目次へ
第5章 目次へ
第6章 目次へ
短編 目次へ
章選択画面へ
home