猫咲に追われながら、3人は何とかゴール地点の崖下まで到着した。

ここからはそれぞれ自分の力で登って行くしかない。

皇后崎がそう伝えれば、"命令すんな!"と相変わらずの反応を見せる矢颪。

そんな様子に小さくため息をつくと、皇后崎は表情を変えて後ろを振り返る。


「スズ、お前先に登れ。俺が下から行く」

「え、でも私登るの遅いかもよ?」

「んなこと気にすんな。…お前に何かあった時すぐに対応したいっていう…俺のワガママ、だから」

「迅…ありがとう!」

「おぅ。焦んなくていいから、上だけ見てろ。必ず守ってやる」

「うん!」


安心したように笑顔を見せるスズの頭をポンと撫でると、皇后崎は満足そうに口元を緩める。

上から一ノ瀬の援護を受けながら、3人は最後の力を振り絞って登り始めた。





第45話 意義





登っている3人に何か仕掛けようにも、少しでも動けばすぐに銃弾が飛んでくる。

そんな状況ではまともな攻撃はできず…

先頭で登っていたスズが、10分もかからず頂上に手をかけた。


「スズ!!」

「四季…!ありがとう!」


今か今かと待ち構えていた一ノ瀬が、スズの手を握り一気に引き上げる。

寒さで赤く染まった頬に笑みを浮かべた彼女を見て、一ノ瀬は思わずその体をギュっと抱き締めた。


「体すっげー冷えてる。平気?」

「ずっと歩いてたからね。でも大丈夫!あんまりくっついてると四季まで冷えちゃうよ?」

「スズがあったまるなら、俺の熱なんて全部奪っていい」

「で、でもほら!風邪引いたらいけないし…!」

「……好きな子が寒がってんのに、ほっとける男なんかいねぇから」

「!」

「(今ので伝わるか?俺の気持ち…お願い、伝わって…!)」


あの墓地での一件以来、自分の想いがどうしたら伝わるかを日々考えている一ノ瀬。

必死に脳内の引き出しを探して、たどり着いたのがさっきの言葉だった。

思えば、女の子を抱き締めたのはこれが初めてかもしれない。

この状況でも、また冗談で言ってると思われたら…

そんな不安を抱きながら、初めての距離にいる想い人の顔を覗き込む。

そこには先程とは違った意味で顔を赤くしているスズの姿があった。

照れ臭そうにお礼を伝えてくる彼女に、一ノ瀬の心拍数も一気に上がる。


「あ、ありがとう…!」

「! い、いや、全然…!」

「…四季って体温高いね」

「そ、そう?」

「うん…何か、安心する」

「(ヤバイ、めちゃくちゃ嬉しい。もう一回ギュッてしたい…!)」


顔を覗き込んだ際に離した体を、今一度抱き寄せようと動こうとした瞬間…

スズの後ろから登っていた皇后崎が頂上に到達した。

着いて早々、彼は一ノ瀬に鋭い視線を向ける。


「いつまでくっついてんだよ、変態」

「だ、誰が変態だ!」

「迅!無事に着いて良かった。ありがとね」

「あぁ」


アワアワする一ノ瀬を軽くスルーして、皇后崎はスズに微笑みかけた。

これで残るは矢颪のみ。

一ノ瀬が崖下から顔を出せば、すぐそこに彼の姿があった。


「矢颪、掴まれ!」

「もう少しだよ、碇君!」


こちらに手を伸ばす一ノ瀬と、その隣で笑顔を見せるスズ。

2人を見つめる矢颪の表情は、一瞬だけ憂いを帯びる。

が、すぐにそれをいつもの厳しい顔に戻すと、同期の手を借りず登り切るのだった。



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