自身を風を司る鬼神の子であると伝えた上で、一ノ瀬の力が必要だと訴える等々力。
無陀野が以前言っていたような平和的解決などもってのほか。
1人でも桃太郎が生きていれば、鬼に本当の自由は訪れない。
だから桃太郎の血を根絶する。
それが鬼國隊の思想の全容であった。
「自由とは不自由と戦い、手を伸ばした人の掌の中にしか存在しない!ともにこの世から桃を根絶しよう!」
「え?やだよ」
「(良かった…四季ならそう言ってくれると思ってた…!)」
「そうか!わかった!失礼した!」
「いいのかよ?せっかくここまで来たのに?」
「押し付けた理想に魂は宿らない!」
そう言って、等々力はさっさと乗って来た鳥の方へ向かう。
思っていたよりもあっさり引き下がってくれたことに、スズはホッと安堵の息を吐いた。
だが安心したのも束の間、後方から思わぬ言葉が聞こえてきた。
「待てよ!俺も連れてけ!」
「えっ!碇君!?」
「矢颪!お前何言ってんだ?」
「こんな所にいても俺は強くなれねぇ!こいつらについてった方が強くなれそうだ!桃殺すのが目的なんだろ?俺もだ!」
「来る者は拒まない…乗れ」
「矢颪マジで言ってんのか?」
「ねぇ、待って!一旦落ち着いて…!」
戸惑いながらも、何とか矢颪を引き留めようとするスズと一ノ瀬。
だが彼はそんな2人を突き放し、険しい顔で振り返る。
「こんな所にいても意味なんかねぇ!俺には合わねぇ考え方だからな!仲間を作る?心を何だって?気持ちワリィんだよ!
俺はテメェらと仲間になる気もねぇし!なりたいとも思わねぇ!テメェらと馴れ合う位なら死んだ方がマシなんだよ…
ここにいた時間全部が無駄だったと思うよ。俺は行く。あばよ」
矢颪の攻撃的な態度に、同期たちは返す言葉が出てこない。
そうこうしているうちに、矢颪は着ていた学園指定の上着を脱ぎ捨て、等々力たちの方へ歩いて行く。
遠くなっていく彼の背中を見つめていたスズは、下を向きギュッと目をつぶった。
脳内に自分の言葉が浮かんでくる。
"もう碇君を1人にしない!まずはたくさん話をしなきゃ!"
そう決めたのは他の誰でもなく自分自身。
今彼を行かせては、その決意をどちらも実現できなくなる。
「(行かなくちゃ…!)」
過激な思想を持つ団体に乗り込むのは、攻撃も防御もできないスズにとっては恐怖でしかない。
少しでも気を緩めれば、手足が震えそうになる。
だがそんな彼女の背中を押したのは、信頼する無陀野の言葉だった。
"お前は俺に出来ないことができるし、俺にはない力を持ってる"
先程とは違い、心を落ち着かせるように大きく長く息を吐く。
そして…
「私も一緒に行きます!」
挙手するように右手をバッと上げたスズは、いつものよく通る声でそう告げた。
続けざまに予想外なことが起こり、同期たちはまた言葉を失くす。
止まった空気をいち早く動かしたのは、彼女を天使と慕う一ノ瀬だった。
「スズまで何言ってんだよ!本気じゃないよな?」
「本気だよ。もう行くって決めたの」
「…やだ。行かせない。こんな形でスズと離れたくな「四季、聞いて?」
「…」
「私は、今四季と同じ気持ちだよ」
「えっ…?」
「碇君をこのまま行かせたらダメだって、そう思ってるでしょ?私も同じ。
無人先生に、碇君を見守らせて欲しいってお願いしたの。だから1人にするわけにはいかない」
「なら俺も…!」
「ふふっ。ありがとう。私も一緒に来て欲しいけど…でも今はダメ」
「何で?」
「今のトゲトゲした状態だと、売り言葉に買い言葉でまたケンカになっちゃう。
碇君、女子にはあんまり強く言わないと思うんだ。だから一旦気持ちが落ち着くまでは、私が傍にいる。
でも最終的に碇君に一番必要なのは、何でも言い合える仲間だと思う。……追いかけて来てくれる?」
「! 当たり前だろ!絶対皆で迎えに行く」
「うん!待ってる」
同期たちから少し離れた場所で、小声で言葉を交わす2人。
最後に向けられたスズの優しい笑顔を、一ノ瀬は頭に刻み込んだ。
鳥に乗り込もうとする想い人に駆け寄らないように…
"行くな"と叫んでしまわないように…
彼の手と口元にはグッと力が入る。
一時の別れだと分かっていても、その表情にはツラさと寂しさが溢れていた。
to be continued...
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