一ノ瀬との会話を終えると、スズは駆け足で鬼國隊の2人が乗って来た黒鳥の元へ向かう。
先に乗り込んでいた矢颪が何か言いたそうな顔をしていたが、それには気づかないフリをして、スズは背中に上がるため黒鳥の体に触れた。
「(うわ〜結構大きい…!)」
「大丈夫?上がれそう?」
「あ、はい!大丈夫…じゃ、なさそうです…」
「ふふっ。俺の手掴んで?引き上げてあげる」
「すみません…!お手数おかけします…」
思っていた以上に黒鳥のサイズが大きくまごついていたスズに、鳥飼がすかさず声をかける。
笑顔で差し出された手を握れば、ひょいと軽くスズを持ち上げて、黒鳥の背中に着地させた。
お礼を伝えるスズに"どういたしまして"と返す鳥飼は、とても過激な思想を持っているとは思えないほど穏やかだった。
第48話 納得できねぇ / 新天血
スズに手を貸した後、鳥飼は等々力と何やら話し始める。
その光景をぼんやりと眺めているスズを、矢颪は何とも複雑な表情で見つめていた。
聞きたいことがあり過ぎてウズウズしていた彼は、ついに耐えきれなくなって声をかけた。
「…おい」
「ん?何?」
「"何?"じゃねぇよ…何でお前まで来てんだよ」
「だって私、碇君の教育係だから!見守らないと!」
「は?何だよそれ…んなの聞いてねぇ!」
「そりゃそうだよ。私が勝手に決めたんだから」
「勝手に…って、何言ってんだよ。お前戦えないんだよな?危ねぇとこ行っちゃダメなんだろ?」
「うん、先生に怒られちゃう」
「だったら何で…!」
「……もう碇君を1人にしないって決めたの」
「!」
「教育係は嘘だけどさ、見守りたいっていう気持ちは本当だよ。碇君、危なっかしいんだもん。ほっとけないよ」
そう言って向けられた明るい笑顔に、矢颪は言葉を失う。
言われていることは自分勝手で無茶苦茶なのに、不思議と嫌な感情が湧いてこない。
いつだって笑顔で、今も茶化して言っていた部分はあった。
でも"1人にしない"と言い切った時のスズの顔はいつになく真剣で、自分のことを本気で考えてくれていると本能的に分かった。
それを心のどこかで喜んでいる自分がいることに、矢颪自身が一番驚いていた。
どんな感情でどんな言葉を伝えれば良いのか分からず、矢颪はスズから視線を外した。
と、そのタイミングで黒鳥が羽ばたき始める。
次に矢颪が顔を上げた時、グラウンドに捨て置いたジャージはもう見えなくなっていた。
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「いいのか?あんな別れ方で。仲間だったんじゃねぇの?」
「仲間じゃねぇよ」
「一緒に来てくれたそこの女子も?」
「こいつは…!勝手に…そんなことより、どこ行くんだ?」
「栃木県の華厳の滝跡地。仕入れた情報だと、桃太郎機関の研究所があるらしい」
「研究所、ですか?」
「うん。何かそこで色々やってるみたい…おい!颯!お前絶対吐くなよ!」
スズの問いかけに答えていた鳥飼は、大将がまた口をパンパンにしているのを見つけすぐさま声を張り上げる。
話を聞けば、どうにもこうにも乗り物酔いが酷いらしく、何かに乗る度にこの有り様なのだと…
「…あの、等々力さん!」
「んーんーんん!」
「え、何て?」
「あー呼び方のことだと思う。こいつのことは"颯"でいいよ。"等々力さん"って柄じゃないから」
「分かりました…!じゃあ…颯さん」
「ん?」
「ちょっと手出してもらえますか?」
指示に素直に従った等々力は、サッと右手を差し出す。
スズはその手を取ると、掌に小さな傷をつけそこへ自身の血を送り込んだ。
以前皇后崎が似た状態になった時、新鮮な血を造り出すことで回復したのを思い出しての行動だった。
数分後…
等々力の顔色はみるみる回復し、口の中の諸々もどこかへ消えていた。
スズに手を握っていてもらえば気持ち悪くならないことも判明し、等々力はご機嫌である。
「すごいな!何かに乗ってこんなに快適に過ごしたことはない!礼を言う!」
「どういたしまして。元気になって良かったです!」
「…君の名前聞いてなかったけどさ、もしかして…"木下スズ"だったりする?」
「え、何で私の名前知ってるんですか?」
「何!?スズって、あの桃に狙われてる…」
「そっ。見つけたら保護しようって話してた子。まさかこのタイミングで会えるとはね〜」
「そうか!君が木下スズか!無事で良かった!!」
言うが早いか、等々力は満面の笑みでスズを抱き締めた。
彼の力強いハグに苦しそうな表情を見せながらも、スズは頭に浮かんでくる疑問を聞かずにはいられなかった。
何故自分のことを知っているのか?
何故名乗っていないのに名前が分かったのか?
スズから自身の大将を引き剥がしながら、鳥飼は彼女の問いかけに答えを与える。
「1つ目の答えは簡単だよ。君は意外と有名なんだ。体の部位を造れる能力ってなかなか特殊だからね。
それが理由で桃に狙われてることも知ってるし、だからこそ鬼國隊としては保護しようって方向で話がまとまったわけ」
「そうだったんですか…!」
「生け捕りにするなんて言語道断だ!」
「じゃあ、2つ目は…?」
「目の前でそんな鮮やかな手技見せられたら、誰でも分かるよ」
"だから桃の前で血を使わないように言われてるんでしょ?"
少し口角を上げた鳥飼にそう言われ、自分の状況をすっかり忘れていたスズは恥ずかしそうに小さく首を縦に振った。
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