黒鳥に乗ること30分、一行はとある森の中に降り立った。
どこでどう桃太郎が監視しているか分からないため、ここから拠点までは徒歩移動である。
等々力を先頭に、スズ・鳥飼・矢颪と続く。
治療の名残で、等々力は引き続きスズと手を繋いで歩いていた。
「あの颯さん…もう黒鳥から降りたし、手離して大丈夫なのでは?」
「離すわけないだろ!途中で襲われたらどうする!」
「え?」
「もう大将は保護モードなのよ」
「保護って、さっきお話して下さった…」
「そう。スズの話を風の噂で聞いた時、大将めちゃくちゃ怒ってさ。生け捕りなんて、捕まえた後何されるか分かったもんじゃない!って。
だから必ず保護して、その後は自分が絶対守るって決めてたんだ。ね、大将?」
「そうだ!スズに近づく桃は全部始末するから、何も心配せず安心して過ごすといい!」
「あ、ありがとう、ございます…!」
「強引でごめんね。スズを思っての行動だから、悪いんだけど付き合ってあげてくれる?」
最後の言葉は等々力に聞こえないよう、小声でスズに伝える鳥飼。
苦笑する表情とは裏腹に、スズはその声に大将への信頼と尊敬が溢れているように思えた。
過激な思想の団体ということで警戒していたスズだったが、移動中のやり取りも含めて、少し警戒レベルを下げてもいいのではと思い始めていた。
「てか華厳の滝周辺て、有毒ガスの発生とかで立ち入り禁止じゃなかったか?」
「あ、確かに…そういう話聞いたことあるかも」
「だよな?」
「表向きはね。けど俺らが入手した情報だと桃の研究所になってるよ。一般人がいると不都合なのか、まぁ桃太郎機関の権力はすごいねぇ。
さぁ着いた。男体山にポツンとあった小さな廃墟。ここがとりあえずの拠点」
5分程歩いて到着した拠点は、廃墟の王道のような場所だった。
割れた窓ガラスに壊れた鉄柵、壁面に無数に絡みつく蔦…
拠点だと言われなければ近づきたくないなと、スズは心の中で呟いた。
予想に違わない屋内には、3人の人物がいた。
「大将〜拠点に女子連れ込むなんてやるね〜」
「彼女は保護対象の木下スズだ!スズ、この中なら安全だからのんびり過ごしていいぞ」
「はい…!あ、ありがとうございます!」
「(あの子が噂の木下スズ…!顔も声も戸惑ってるところも全部ギャンかわ…!)」
「見つかったんですねー。無事で何よりです」
目元が潰れたように黒い男、少し髪の長い若い男性、そして唯一の女性メンバー。
後に等々力の紹介で、それぞれが百目鬼剛・乙原響太郎・海月巳代という名だと判明した。
ひとしきりスズに関する話題で盛り上がると、次はもう1人の新顔へと興味が移った。
ここに来てようやく名を名乗った矢颪は、早速海月とバチバチやり合い、スズを不安にさせる。
「つーか…鬼神の子とか特殊能力持ってるスズならまだしも、そいつ戦力になんのかよ?」
「確かめるか?」
「ちょっと碇君…!いきなり喧嘩腰はダメだって!」
「(焦ってる姿も可愛すぎる…!)だから男はこっち見んな。ちんこと喉ちんこ入れ替えんぞ」
「おいおい…喧嘩すんなよ…」
「でも重要じゃない?役割分担も考慮しなきゃだし」
「矢颪の能力はなんだ!?」
そうして自身の能力を明かした矢颪は、大将から改めて隊への加入に対する感謝を伝えられた。
しかし当の本人はそれを受け入れず、あくまで仲間ではなく同盟なのだと言い張る。
「うひゃー生意気!入りたての海月みてぇだな!」
「男はこっち見んな。目潰すぞ」
「はは!もう潰れてるっつーの!」
「海月さん、すみません。でも悪い子じゃないんです…!」
「(初会話!!)あいつのことはいいよ。それより、あんたは自分のことを心配しな。…まぁ私が絶対守ってやるけどさ」
「ありがとうございます…!」
見守り役というより保護者のような立場で、スズは矢颪の周りをちょこちょこと動き回る。
そうしてスズが鬼國隊メンバーと一通り挨拶を交わしている間に、矢颪は渡された隊服に身を包んでいた。
羅刹学園の制服にはないアイテムばかりで、着替え終わった矢颪は何だか別人になったようだった。
「(さっきまでの碇君と全然違う…何か寂しいな…)」
「何だよ、スズ」
「ん?別に何でもないけど。碇君背高いし、似合うなーって思ってただけ」
「本当か?何か怒ってね?」
「怒ってないよ」
「…ならいいけど」
「スズはどーする?矢颪の付き添いで来た感じだから…帽子だけとかにする?」
「いや、スズもフル装備だ!鬼國隊メンバーと思われた方が、桃に手を出されにくい!」
等々力の鶴の一声で、スズも矢颪と同じように鬼國隊の隊服に着替えることになった。
自分自身に置き換えてみても、やはり慣れ親しんだジャージを脱ぐのは寂しい感じがするスズなのだった。
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