「(…ヤバっ、何か普通に寝てた…)」

「あ、羽李さん起きました?」

「スズ…俺、どんだけ寝てた?」

「15分ぐらいですかね」

「そんなもんか…1時間ぐらい寝たかと思った」

「内臓の損傷が治ってきてるので、深く寝れたのかもです」

「確かに痛くねぇ…すごいな。ありがと」

「いえいえ!あとは外傷だけですね」

「あ、待って。治療の前にちょっと移動したい」

「移動、ですか?」


スズの言葉に頷いた鳥飼は、ポケットから1つのUSBを取り出す。

ここに来る前にいた研究室で見つけたものだが、まだ中身を確認できていない。

だからもう一度そこへ戻って調べたいとのことだった。


「なるほど。羽李さんが動けそうなら、移動するのは構わないですよ」

「スズのお陰でもう痛みはほぼねぇし、全然動けっから大丈夫」


スズの手を借りてゆっくり立ち上がった鳥飼は、先程までのボロボロっぷりが嘘のように回復していた。

もちろんまだ痛みが残る箇所はある。外傷が治っていないのだから当然だ。

だがそれを差し引いても、驚くぐらい体は楽になっていた。

傷の治療だけでなく、睡眠によって体力も合わせて回復できたのが大きかったのだろう。

それもこれも全部、目の前にいるこの少女のお陰なのだ。


「(こりゃ桃に狙われんのも納得だわ…しっかり守ってやんねーとな)」

「羽李さん?どうかしました?」

「いや、何でもねぇ。じゃあ移動すっか。俺から離れんなよ?」

「はい!」


言われたことを忠実に守り、自分にピタッとくっついて歩くスズの姿に、鳥飼は思わず吹き出してしまう。

いつ桃太郎が現れるか分からないこの状況で笑っている鳥飼に、スズは驚きの目を向けた。


「羽李さん、急にどうしたんですか…?」

「ごめんごめん。スズが俺の言ったことド直球で守ってくれるからさ」

「えっ…あ、もしかして邪魔でしたか!?すみません、くっつき過ぎですね…!」

「んなことねぇよ。ただ可愛いなって思っただけ。だからもっと近くにいていいよ」

「あ、ありがとうございます…!」


思いがけずほんわかした空気になってしまい、2人は慌てて気を引き締める。

そこまで距離がなかったのも幸いして、桃太郎とは出くわさずスズと鳥飼は研究室へと辿り着いた。

ここもここで爆撃でもされたのかと思う程の酷い状態で…


「この有様でよく無事でしたね…」

「蛭沼さんがいたからね。さて…生きてるPCあるかな…」

「私が探してきます!まだ体痛むでしょうから、羽李さんはそこに座ってて下さい!」


鳥飼が返事をする間もなく、スズは瓦礫の中を軽やかに進んで行く。

昨晩の作戦会議の時からそうだが、彼女の行動は常に誰かを思いやってのもの。

だから1つ1つの言動に癒されるし、守ってあげたいと強く想うのだ。

そんなことを考えながら座っていると、5分もかからずにスズが戻って来る。


「羽李さん、ありました!これでいけますかね?」

「…うん、大丈夫。ありがと、助かった」

「いえ!…隣に座ってもいいですか?」

「いいよ、おいで。…このUSBの中に何か情報があれば…あっ」

「うわ、何これ…全然読めないです」

「外部流出防止で暗号化されてる…このマークは鬼だよな…?」

「確かに!角みたいなのありますもんね」

「じゃあこっちはなんだ…?」

「う〜ん…でも何だか分かんないこれが、100個必要だってことは分かります」

「100個…てことは、数えられるもの?ダメだ…解読できねぇ…」

「他の階の研究室にヒントがあるかも」

「だな。そもそもここはもう使われてねぇ研究室だから、どっちにしても上に行かないと情報は得られそうにねぇ」


ノートパソコンを覗き込みながら、USBの中身についてあれこれと意見を交わすスズと鳥飼。

だが収穫は少なく、結局桃太郎側の計画は分からずじまいだった。

フーっと息を吐いた鳥飼は、不意に自身の体の痛みを思い出す。


「す、すみません!ケガの治療すっかり忘れてた…!」

「いや、俺も忘れてたぐらいだから。つーか、それだけ痛みが引いてるってのがすげーよ」

「当然のことです。それが私の仕事ですから!すぐ治療始めますね」

「ありがと。……スズさ、さっき俺が寝てる時…頭撫でてくれた?」

「! 起きて、らしたんですか…?」

「もうすぐで落ちるな〜ってとこだった。だからすげー気持ち良かったのよ」

「なら良かったです…!寝顔が可愛らしかったので、つい…失礼しました」

「俺が?そんなん初めて言われた。…頭撫でられたのも初めてだし、何か俺の"初めて"が全部スズになってく」

「なんと…!申し訳ございません…」

「何で謝んだよ。俺はスズで良かったって思ってんのに」

「えっ…!」

「…待って。俺、今すげー恥ずかしいこと言ってる?」

「いえ、そんなことは…!」

「わりぃ、今までの全部忘れて」

「は、はい」


ほんのり赤い顔をお互いに隠しながら、スズは鳥飼の治療を再開する。

乙原から通信が来るまで、あと5分。



to be continued...



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