思いがけず良い雰囲気になり、互いに顔を逸らす2人。

だがこのままでは治療ができないため、スズは気持ちを落ち着けるため何度か深呼吸をする。

そして肋骨の骨折を治すため、座っている彼の真正面に陣取ったスズ。

胸元に手をかざし治療を進める彼女は、恥ずかしさから少し俯いていた。


「(あー…これヤベェかも。つーか、この距離はダメだろ…)」


少し手を動かせば、体に触れることはもちろん、簡単に抱き寄せられてしまう距離だ。

意識しないようにと頑張っても、目の前の女子が自分を意識しているのが分かるから、どうしても目がいってしまう。

気づけば、真剣な表情には似合わない真っ赤な耳に手が伸びていた。





第53話 華厳の滝跡地研究所�B





「ひゃっ!う、羽李さん!?」

「耳、すげー赤い」

「あんまり、見ないで下さい…!」

「……いくら治療のためとはいえさ、昨日今日会ったばっかの男相手に、この間合いは危ないんじゃねぇの?」

「え?」

「こうやって簡単に体触られちまうぞ?」

「!」


驚いた顔で見上げてくるスズに笑みを見せると、鳥飼は耳に触れていた手を後頭部の方へ移動させた。

あとは手前に少し力を加えれば、彼女を抱き締められる。

と、そのタイミングを見計らったかのように乙原から連絡が入った。


『スズ!鳥飼さんの状態はどう!?』

「(なんつータイミングで連絡してくんだよ…)」

『あ、だ、大丈夫です!もう危険な状態は乗り越えました』

『良かった!まさかとは思うけど、手出されたりしてないよね?』

『は、はい!平気です!』

「(あいつ、わざとか…)」

『3階の百目鬼さんが少し危ないんだ。次はそっちに向かってもらえる?』

『あ、でもまだ羽李さんの治療が『分かった。準備できたら声かける』


乙原との会話を遮った鳥飼に、スズは困ったような目を向ける。

まだ骨折はもちろん、他の外傷も治っていないのだ。

そんな中途半端な状態でここを離れたくないと訴えるスズに、鳥飼は落ち着いた声音で話し始める。


「もうほとんど治してもらってるから平気だって。あとは鬼の力で何とかなる」

「でも…」

「それより百目鬼の方行ってやって。俺より酷い状態かもしんねぇだろ?」

「…はい。分かりました」

「心配してくれてありがとな」


そう言いながら優しくスズの頭を撫でた鳥飼は、すぐに乙原へと声をかける。

その傍らでスズも荷物をまとめ、移動のための準備を進めていた。


『乙原、スズの案内頼む』

『了解!鳥飼さんはそのままそこにいて。そっちに蛭沼さんが向かってるから』

『分かった』

『準備できました!お願いします!』


気合い十分で立ち上がったスズは、鳥飼に一旦別れを告げ、3階へと足を速めた。



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