一ノ瀬と皇后崎が向かい合う場所から少し離れた位置にある木の枝に腰かけ、スズは2人の様子を見守っていた。

いとも簡単に血を扱う同期の姿に、一ノ瀬は驚きを隠せない。


「!? なんで普通に出せんだよ…!?」

「逆になんでできないんだ?」

「(四季は覚醒したばっかりだもんね…皇后崎君とはレベルが違い過ぎる)」

「ビビったなら逃げてもいいぞ」

「ふざけんな…!このままお前から逃げたら…死んだ親父がくらだねぇことになんだよ!!」

「(! 皇后崎君の表情が変わった…?)」

「父親の仇でここに来たのか…?」

「だったらなんだよ!」

「…そうか。ならお前とは一生わかり合えないな」


さっきまでの表情が穏やかに見える程、今の皇后崎は暗く恐ろしい顔をしていた。

彼の過去に何があったのかは分からないが、どうやら父親絡みなのだろうと、彼らの会話を聞きながらスズは想像する。

父親との関係性が深い2人だが、その内容は天と地ほどの差があった。


「んなつもりハナからねぇよ!俺だってできんだよ!」

「…」

「くそ!なんで出ねぇんだよ!」

「(んー…四季みたいなタイプは、1回感覚が掴めれば早そうなのにな)」

「ふっ」

「笑ってんじゃねぇ!殺すぞ!」

「これ以上は時間の無駄だ…時間の対価は支払えよ」


冷たい目でそう言った皇后崎は、攻撃態勢に入る。

一方の一ノ瀬もまた、何とか食らいつこうと木の棒を持って構えた。

だがそんなもので、血触解放をした鬼に敵うはずもなく…

あっという間に倒された一ノ瀬は、悔しそうに天を仰いだ。

"何かアドバイスを…"と思ったスズだったが、それはきっと無陀野の本意ではないだろうと思い留まる。


その後何とか立ち上がった一ノ瀬に対し、皇后崎はダメ押しの斬撃を放った。

と、その時…

今まで聞こえていなかった女子の声が、その場にいた3人の耳に届く。


「あぁ〜…お二人やっと見つけました〜…」

「(うそ、帆稀!?)」

「(あ…!)」


1組目のメンバーである屏風ヶ浦が、木々の間から不意に姿を見せる。

ちょうど一ノ瀬と皇后崎の間に入るような形で登場した彼女は、背後に迫る皇后崎の攻撃に全く気づいていない。

直撃すれば、もちろん無事ではいられない。

一ノ瀬の見守り担当だったスズも、現場に駆け付けるために木から飛び降り走り出す。

だがそれよりも早く一ノ瀬が屏風ヶ浦の方に駆け寄り、その体を抱えて脇に転がった。

何とか攻撃を避け、押し倒されたような体勢になっている屏風ヶ浦は、突然の出来事にアタフタとしている。


「え…?」

「あっぶねー…」

「えぇえええ…!?あああ…あ…あの…!」

「四季!帆稀!大丈夫!?」

「! スズ!何でいんの!?」

「先生に言われて、皆のこと見守ってたの。帆稀、怪我は?痛いとこない?」

「あ、私は、あの、大丈夫です…!」

「良かった…!四季は…あ〜ちょっと腕やってるね」

「やっぱりか。いっつ…でも天使の顔見たら治った気がする!」

「気がするだけで治ってないからね。でもまぁこのぐらいならほっとけば鬼の血で治るよ」


"あと天使呼びやめなさい!"

傷を診てくれたスズにそう言われながら痛くないデコピンをされた一ノ瀬は、その優しい言動に明るい笑顔を見せた。

それから表情を変えると、一ノ瀬は同期の登場に構わず攻撃を仕掛けてきた皇后崎の方へ向けて言葉を発する。


「危ねぇだろ!謝れ!」

「謝る?怪我するのがいやなら帰った方がいいだろ。まぁ、あの程度の手加減した攻撃が怖いなら、どっちみち消えた方がいいけどな」

「(ホンットにむかつく野郎だな…!)」

「そこまで言うことないじゃん。別に敵同士じゃないんだから」

「は?戦うこともできねぇ奴が意見するな」

「おい!俺の天使に向かって、その口の利き方なんだよ!」

「待て待て待て!四季、いいから!あと天使呼びやめてって言ったばっかでしょ!」


スズと一ノ瀬がギャーギャーと騒いでいる間、屏風ヶ浦は一切の言葉を発していなかった。

そのことにふと気づいた2人が後ろを振り返れば、そこには土下座状態でひたすら謝罪を繰り返している屏風ヶ浦の姿があった。

自分のせいで一ノ瀬が怪我をしたことに、尋常じゃないぐらいの責任を感じている彼女。

その様子にスズは異変を覚えた。


「(…あ、これヤバイかも)帆稀、落ち着いて?四季は大丈夫だから!ねっ、帆稀!」

「そうだよ!これはあのバカがやったことだから!そんな謝ん…なくたっ…て…」


2人の言葉が全く耳に入らない状態の屏風ヶ浦は、一切顔を上げずに謝り続ける。

そうしている間にも、彼女の鼻からは大量の血液が外へ流れ出ていた。

そしてついに、常人の鼻血とは比べ物にならない程の量の血溜まりの中から、ゆうに10mは超えた女性が現れた。


「(帆稀の血触解放…!)」

「3人とも逃げてください…じゃないと……この子が殺しちゃうので…」


呆然と立ち尽くす3人を威嚇するように、血の巨人はこちらへと向かって来るのだった。



to be continued...



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