時は戻り、視点は再びスズの元へ…

乙原の案内に従い、3階へと向かっているスズ。

だがあちこち走り回っているにも関わらず、一向に桃太郎に出くわす気配がないことに疑問を抱き始めていた。


「(こんなに手薄でいいのかな…)」


段々と不安になるスズだったが、不意に廊下の窓から外を見た時、その答えを知ることになる。

研究所前の広場のような場所に、信じられない数の桃太郎が顔を揃えていたのだ。

そして彼らの前には1人の鬼が、至極落ち着いた様子で立っていた。


「無人先生!!」


一瞬敵地であることを忘れ、大きな声で名前を呼びながら窓へと駆け寄る。

窓は閉まっているし、距離も相当離れている。

スズの声が届いたはずはないのだが、名前を呼ばれた瞬間、無陀野はパッとこちらへ顔を向けた。

目が合ったことに驚くスズを他所に、彼は相変わらずクールな表情のまま少しだけ口角を上げる。

それからスズへ1つ頷くと、無陀野は目の前の桃太郎を迎え撃つべく、前を見据えるのだった。


「(先生がいるってことは、四季たちもいるってことだよね。皆きっと頑張ってる。私も自分にできることを…!)」


見知った顔に元気をもらい、また走り出すスズ。

それから10分も経たないうちに、彼女は目的地に到着した。

壁に耳をあてても中の音は一切聞こえないが、代わりにビリビリと壁が振動しているのを感じる。

恐る恐るドアを開けたスズだったが、僅かな隙間から漏れる騒音に慌ててドアを元に戻した。


「(今の何!?耳がボワンボワンする…こんなの耳が頼りの百目鬼さんがくらったら一発アウトじゃん!)」


ほんの数秒聞いたスズの耳ですら、一時的に聞こえにくい状態になってしまう程の音量。

迂闊に入れば、百目鬼の治療云々の前に自分がぶっ倒れてしまう。

どうしたらいいものかと頭を悩ませるスズの元に、1人の人物が姿を見せた。


「スズ…!」

「! あ、迅!!」


無陀野から指示役を任された皇后崎は、2人1組で研究所の各階を捜索しようと考えていた。

しかし突入直後に同期が全員見事にバラけてしまい、作戦通りいかないことにイライラしながら彼らを捜しているところだった。

そこへ思いがけず想い人の姿を見つけたものだから、彼の感情は大忙しである。

一瞬にして負の感情が消えた皇后崎は、すぐにスズの元へ駆け寄った。


「ケガは?桃に何かされてねぇか?」

「うん、大丈夫!」

「…良かった」


穏やかにそう言って少し笑みを見せ、スズを優しく抱き寄せる皇后崎。

自分を見た時、安心したような笑顔を向けてきた彼女が愛おしくて、自然と腕に力が入る。

それを心配から来るものだと思ったスズは、申し訳なさそうに話しかけた。


「ごめんね。心配かけた?」

「…かけたよ。だから会ったら一言言ってやろうって思ってたのに…」

「?」

「お前の顔見たら、全部忘れちまった」

「迅…」

「本当に…無事で良かった」

「うん…ありがとう」


同期からの真っ直ぐな想いを受け取り、スズの心は一気に温かくなる。

自分の嬉しさを伝えようと、皇后崎の背中に腕を回すスズ。

想い人の突然の行動に、皇后崎は一瞬目を見開いた。


「(あーくそっ…このまんま離したくねぇ)」

「迅、本当にありがとね」

「(ダメだ…これ以上スズの声聞いてたら、伝えちまう…)」

「迅?」

「(…お前のことが好きだ、って)」


今がその時でないことは、彼が一番分かっている。

だから気持ちを抑え込むように、今一度抱き締める腕に力を込めるのだった。



to be continued...



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