溢れそうになる言葉を何とか抑え込み、皇后崎は一度スズから体を離す。
本音を言えばずっと抱き締めていたいけれど、今の状況を考えればそうも言っていられない。
頭を切り替えた皇后崎は、彼女が敵地に1人でいる理由を問いかけた。
第54話 華厳の滝跡地研究所�C
「お前、何で1人でこんなとこいんだよ?危ねぇだろ」
「そうだった…!この部屋の中に鬼國隊の人がいて、助けたいんだけど…中に入れなくて」
「鍵でもかかってんのか?」
「ううん、そうじゃないの…」
そうしてスズは現状をかいつまんで話し始める。
室内にいる鬼國隊のメンバーは盲目で、耳だけが頼りの人物であるということ。
にも関わらず、一瞬だけ開けた扉の中からもの凄い大きさの音が聞こえてきたこと。
故に、今彼は何もできない状態であることを…
「なるほどな」
「早くしないと死んじゃう…!」
「…分かった。ちょっと下がってろ」
「どうするの?」
「少しだけ開けるから音が噴き出して入れねぇんだろ?なら大きく開ければいい」
ピンと来ていないスズに少し笑みを向けてから、皇后崎は自身の血を解放する。
と思った次の瞬間、彼は部屋の壁を盛大に破壊して中へと突入した。
突然の侵入者の登場に、中から聞こえていた音がピタッと止まる。
室内には百目鬼の他に、2人の桃太郎がいた。
音の発生源はそのうちの1人…マイクを持った桃太郎が出していた声だった。
「(あれが人の声だったの!?信じられない…)百目鬼さん!!」
「スズ…と、誰だ…?」
「状況はスズから聞いて把握してる。騒音野郎は俺がやる」
「すげぇな。スズからってことは、味方…でいいんだよな?」
「知るかよ。俺はスズを守ってるだけだ」
「つまり味方ってことです!耳、すぐ治しますね」
「おぅ。ありがとな」
お礼を伝える百目鬼に笑いかけてから、今度はスズが血を解放した。
そんな2人を守るように立つ皇后崎の前には、マイクの桃太郎…桃尾旋律がいる。
スズが治療する光景を見ていた彼の脳裏には、同期である月詠・桜介コンビとのやり取りが浮かんでいた。
あれは彼らが大ケガを負って病院送りになったと聞き、後日お見舞いがてら顔を見に行った時のこと…
「お〜2人とも見事にやられてんなぁ!」
「…うるせぇよ」
「お見舞いありがと」
「何、桜介随分ヘコんでんじゃん。そんなにコテンパンにされたの?」
「そうじゃなくて、あれは恋する乙女状態なだけ」
「月詠!」
「は?恋?」
「そっ。鬼の子に恋しちゃったの」
「そういうんじゃねぇって言ってんだろ!」
「面白っ!詳しく詳しく!」
「ほら、生け捕り命令が出た鬼がいたでしょ?」
「あぁ、木下スズな。…え?まさかそいつに惚れたの!?」
「耳も治してもらって上機嫌なんだよね〜」
「違ぇって!前に言っただろ?からかうと面白ぇし、一緒にいて飽きねぇし、能力は当然文句ねぇし…それだけだよ」
「それを恋って言うんじゃねぇの?」
「(あー言っちゃった…)」
「え、そうなのか?」
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その時話題に上がった女子が、今目の前にいる鬼というわけだ。
同期にやったのと同じだと思われる耳を治すその手技は、実に鮮やかなものだった。
桜介に代わってお礼を…と思ったが、それを許さない男がこちらに殺気のこもった視線を向けている。
「おい。足手まといになりたくなきゃ、スズの治療が終わったら逃げるか、あっちの筋トレ馬鹿の相手しろ」
「筋トレ馬鹿って…褒めんなって…!いやいや!何勝手に決めてんだ!?旋律、お前の相手は盲目。黒マスクは俺がやる」
「いや…あのガキは俺がやる…誰の声が騒音だ…?客がステージに上がんじゃねぇよ…!」
「上がる客すらいねぇだろ」
「…よしっ。百目鬼さん、耳どうですか?」
「面白いぐらい元通りだ。すげぇな!」
「良かった…!」
すっかり回復した百目鬼は、お礼を言いながらポンと軽くスズの頭を撫でて立ち上がる。
そして皇后崎に対し声をかけた。
「悪いけどこいつは任せたぜ。俺は別の所に移動するけど、1人でやれるか?」
「うるせぇよ。お前にいられると迷惑だ。さっさとどっか行け」
「迅…!」
「はは…一見冷たい台詞だな。けど冷静で優しい声だ。きっと顔もイケメンなんだろうな。
全部終わったらじっくり顔を触らせてもらうぜ!スズ、お前は安全なとこにいろよ!」
「あ、はい!」
「追えよ。言ったろう?こいつは俺がやるって。手出すんじゃねぇよ」
「はいはい。我儘な部下を持つと大変だ。お礼のプロテインを忘れるなよー」
そうして百目鬼と、筋トレ馬鹿こと桃舵壱郎はその場を去った。
いなくなった2人を捜すようにキョロキョロしているスズを、皇后崎は自分の方へ向かせる。
肩を掴み、真剣な眼差しを向けてくる同期に、スズも表情を硬くした。
「スズ、お前も他の階に行ってろ」
「えっ」
「ここにいると、あいつの攻撃に巻き込まれる」
「…分かった。迅も気をつけてよ」
「大丈夫。俺にはお前がいるから」
「! うん、何かあったらすぐ連絡して?私の血、連絡手段にもなるから!」
「そうなのか?いつの間にそんなこと…」
「私も日々レベルアップしてるの。…また後でね」
「あぁ」
皇后崎の手から自身の血を入れると、スズは不安そうな目を向けつつ部屋を出て行った。
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