なかなか攻撃態勢に入らない岼を注視していた2人だが、それに構わず彼女は相変わらず沈黙のまま。

おまけにブツブツと何事かを呟いているその様子に、囲は恐怖を覚え始めていた。

そんな中、スズが囲の袖をクイッと引っ張る。


「ん?」

「あの、私今のうちに安全な場所に隠れてきます。邪魔にならなそうな場所、ピックアップしてあるので…!

 なので戦いが始まったら、私のことは気にせず「やだ」

「え?」

「…スズのその考え方、カッコ良くて好きだよ。俺がスズに興味を持ったのも、それ聞いてからだし。

 でもさ…やっぱり目の前にいたら、守ってあげたいって思っちゃうんだよね」

「でも…」

「言ったでしょ?特別な子だって」

「岬さん…」

「大丈夫。スズが不安になるような戦い方はしない。すぐ終わらせるから待ってて?」


スズの頭を撫でながら笑みを見せる囲に、彼女も"はい…!"と穏やかに言葉を返す。

その何とも良い雰囲気に、いつの間にか意識が戻って来ていた岼が怒りを露わにした。


「くそくそくそ…どいつもこいつも…結局若い女がいいってか…

 34歳なんて責任感じる微熟女は興味ないってかぁあ!ふざけんな、クソがぁぁあ!」

「微熟女?俺からしたら、あんたなんか生まれたての女の子だけど?」

「(岬さんの一言で、副隊長の背後にキラキラが見える気がする…!)」


岼の脳内でどんな解釈がなされているかは不明だが、その後も囲の発する言葉に過剰に反応を示す彼女。

だが何かが吹っ切れたのか、ついに自身の力を解放し戦闘態勢に入る。

が、囲の攻撃スタイルが自分と同じ弓であると知り、またしても表情が崩れてしまった。

喜怒哀楽の激しい岼に対する恐怖が増していく囲は、早くケリをつけようと勝負を仕掛ける。


「さっきから何したいのかわかんないけどさ…遊ぶつもりないんだよね」

「(遊ぶつもりはない…!?つまり…真剣交際ってこと!?)」

「(あれ?またキラキラしてる?)」

「こっちからいかせてもらうよ」


突然の命を狙うような攻撃に、岼は目を見開く。

しかしまたしても脳内妄想が暴れ出し、彼女にとって都合の良い解釈がはじき出された。

そうして反撃とばかりに構えた岼は、矢をセットしないまま弓を引く。

見えない矢は、何故か囲の背後から右腕を貫いた。


「岬さん…!」

「(!? 後ろ…!?警戒はしてた。でも反応ができなかった…!?)」

「ふふふ…どう?さぁロミオ!私は貴方のジュリエットになれるかしら!?」


矢を持っていないはずの人物が弓を引いた瞬間、どこからともなく矢が現れる。

岼の能力はその不思議さから、全容を把握するのが難しいとされていた。

それは囲にとっても例外ではなく、彼も頭を悩ませる。

戦いながら考えるのが通常のパターンだが、彼はある1つの可能性を感じていた。

その確認をするべく、スズの能力を使って彼女と会話を始める。


『スズ、聞こえる?』

『! はい、聞こえます!』

『俺の勘違いじゃなければ…あの人って俺に惚れてたりする?』

『間違いないと思います。岬さんと話す度にキラキラしてますから』

『やっぱりか〜…じゃあ能力のこと聞いたら教えてくれるかな?』

『さすがにそこまで単純では……でも、やってみる価値はあるかもしれませんね…!』

「凄いね、どんな能力?」

「えへ!私の"ストーキングアロー"は、矢が物質の中を移動するの!あ!でも人体を移動することはできないのが欠点なのよ!」

『スズ聞いた?馬鹿だった!とめどなく馬鹿だったよ!』

『あれで副隊長っていうのが驚きです…』


あまりに素直に能力を吐露した岼に、スズも囲も驚きと呆れを隠せない。

自分への想いが強く、利用できると踏んだ囲は、スズには絶対見せないような悪い笑みを見せる。

囲は追尾する6本の矢をセットすると、岼に向けて迷いなく弓を引いた。

彼が放った矢を見事に避ける姿は、先程までの様子のおかしい状態とは打って変わり、副隊長の名に恥じぬものだった。

続けて岼が放った矢は地面を移動し、囲の顔目掛けて飛び出してくる。

口元から頬にかけて傷を負った彼の姿に、スズは息を呑んだ。

ハラハラしているスズとは裏腹に、囲自身は至って冷静。

どうすれば一番楽に終わらせられるか…彼が導き出した答えは"演技力"だった。

構えていた血の弓を解除した囲は、ゆっくりと岼の方へ歩き始めた。


「(弓を消した…?能力を解除したの…?)」

「貴女は強いよ」

「え…?」

「素晴らしいね」

「え…じゃあ…私のロミオになってくれるの!?」

「あぁ…僕のジュリエットは君しかいないよ」


そう言いながら岼を抱き締めた囲は、スズから見えないのをいいことに、それはそれは悪い顔をしていて…

蕩けるような表情の岼と比べたら、どちらが悪役か分からない程である。

と、そんな彼女の背中と腕に突如矢が突き刺さった。


「ダメだよ、こんなのに騙されちゃ。弓使いが弓手放した途端、敵意がないと思ったでしょ?

 俺の弓矢は一度出したら、俺の意思で消さない限り残り続ける。さっき放った矢は、そのまま残しておいたんだ」

「(あれ…?体が…)」

「あぁ。ついでに俺の矢は微弱な神経毒を含むから動けないよ。つっても微弱だから、数分動きが鈍くなる程度だけどね。まぁ殺るには十分だよね」

「ふふふ…そうね…私が甘かった…こんなひっかけに騙されるなんて…まだあなたに相応しい女じゃなかった…

 殺しなさい…そしたらあなたの記憶に住み着いて、一生あなたの中で生き続けられる…うふふ…正真正銘、身も心も1つになれる…」

「(こっっっわぁあ…)」

「岬さん、殺しちゃダメです!もっと大変なことになっちゃう…!」


あまりにアブノーマルな発想に、囲の戦闘意欲は急速に萎える。

慌てて飛び出して来たスズの制止もあり、彼は岼をグルグル巻きにして気絶させることで勝負を終わらせるのだった。



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