"この研究所はまもなく爆発する"
皇后崎が放送室からそう発信した直後、凄まじい音と共に研究所の一部が爆発した。
足元に感じる揺れの大きさから、かなりの威力だったことが想像できる。
「すごい揺れ…!」
「あの野郎…!」
『おい!皆、大丈夫だろうな!?』
皇后崎からの問いかけに、羅刹組・鬼國隊それぞれが反応を示す。
現時点では皆無事だが、爆発がこれで終わりなはずはなく…
緊張状態の中での救出作戦は、まだ始まったばかりだ。
第57話 華厳の滝跡地研究所➆
司令塔である乙原と皇后崎のやり取りで、この後の方針が決まる。
連携の取りやすさを利用して鬼國隊が人質と爆弾の捜索を、そして羅刹組がその人質の救出を担当することになった。
スズと一ノ瀬も互いに気合いを入れて、走る速度を上げた。
そうして10分が経とうかという頃、突然スズの脳内に等々力の焦ったような声が届く。
『スズ!!』
「颯さん!どうしました!?」
『すぐに来てくれ!蛭沼さんと鳥飼が…!』
話を聞けば、2人が移動中に桃次歪という桃太郎とエンカウントし攻撃を受けたとのこと。
等々力の因縁の相手である彼の強さは凄まじく、どちらもかなりの重傷だった。
"すぐに向かいます"と伝え、乙原に最短ルートでの案内をお願いしたスズだったが、そんな彼女を止める声が聞こえてくる。
『スズさん…』
「蛭沼さん…!喋らないで、安静にしててください!すぐそっちに『来なくて、いいです…』
「え?」
『私は…ここまでです…』
「そんな言葉聞きたくないです!乙原さん、案内お願いします!」
弱気な蛭沼の言葉を無視し、スズは一ノ瀬に一言告げてから来た道を引き返す。
だがスズと等々力がいる位置はかなり距離があることに加え、桃太郎を避けながらとなるとさらに時間を要する。
必死に足を進めても、やはり蛭沼の命を繋ぎ止めることはできなかった。
長い年月を共に過ごした仲間同士で交わす最期のやり取りを、スズもまた涙目で聞いていた。
命の灯が消えた瞬間、彼女の足も速度を落とす。
静寂が続く中、スズは思いっきり自身の頬を両手で叩いた。
まだ鳥飼の治療がある。自分が足を止めてしまえば、救える命はもっと減ってしまう。
再び走り出したスズに、乙原は行き先を変更するように伝えた。
「医務室に直行…でいいんですか?」
『うん!今皇后崎君に鳥飼さんのところに向かってもらってるんだ。そのまま医務室に案内するから、そこで合流して欲しい』
「了解です!私も急ぎます…!」
『ありがとう。スズも気をつけて…!』
「はい!ありがとうございます!」
それからまた走り続けて、スズはようやく医務室へと到着した。
壊れて開きっぱなしになっている自動ドアから中を覗けば、そこには既に皇后崎の姿があった。
「迅!」
「スズ!ここまで大丈夫だったか?」
「うん!それより羽李さんは!?」
「俺の血を輸血して、今は落ち着いてる」
「輸血?誰かにやってもらったの?」
スズの問いかけに、皇后崎は部屋の後方を見やる。
視線を辿って振り返れば、そこには先程まで彼と戦っていた桃尾旋律がいた。
どういう経緯でこの状態になったのか…疑問ばかりが浮かぶが、まずは何より鳥飼の様子を確認するスズ。
脈や呼吸に乱れはなく、輸血のお陰で顔色も正常に戻りつつある。
傷を負っている箇所の治療をサッと済ませると、スズは室内にいるもう1人の桃太郎の存在に目をやった。
「…この妊婦さんは?」
「途中で倒れてたから一緒に連れて来た」
「そうだったんだ…あの、少し体の具合を診させてもらってもいいですか?」
「! あぁ、頼む。」
旋律に一声かけてから、スズは鳥飼と同じようにベッドに横たわっている女性の診察を始めた。
パッと見て大きな外傷はなく、バイタルも安定している。
お腹の子も動きを確認でき、母子ともに危険な状態ではなさそうだった。
「頭の傷だけ治しておきます。そこまで酷くはないですけど、強く打ってるかもしれないので早めに病院へお願いします」
「分かった。…ありがとな」
「いえ!貴方が迅や羽李さんを助けて下さったからです。こちらこそありがとうございました!」
相手が桃だと分かっているのか疑わしいほどに、スズは当たり前のように旋律へ笑顔を向けるのだった。
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