双子の桃太郎との戦いを終え、同期3人は次なる行動へと移っていく。
所長を倒すため屋上へと向かう一ノ瀬。
その彼を、矢颪が新たな血蝕解放であるバイクで送り届けることになった。
スズはと言えば、ケガ人が増え続ける現状を考え、治療班としての動きを最優先することに。
つまり彼女とはここで一旦お別れだ。
「スズ、本当に1人で平気?」
「俺のバイクで行けば下まですぐだぞ?」
「2人ともありがとう!でももう建物内に桃はほぼいないと思うから大丈夫。
いつ建物が崩壊するか分かんないし、四季には少しでも早く所長とかいう人を止めて欲しい…!」
「分かった!」
「ヤバそうだったらすぐ行くから連絡入れろよ?」
「了解!2人も気をつけてね」
そうして笑顔を向け合い、3人は行動を開始した。
第60話 華厳の滝跡地研究所➉
2人と別れたスズは桃太郎の気配に注意しながら、頭に入れた地図を元に下へと向かう。
外へ出れば誰かしらいるだろうし、治療するのに十分なスペースもあると考えたのだ。
そうしてまた1つ階段を降り進んでいた時、突然背後から自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「スズ!」
「! 無人先生…!」
振り返った先にいたのは、鬼の救助に当たっていた頼れる担任・無陀野であった。
彼の存在に安心し涙目になるのを隠しながら、スズは急いで駆け寄る。
最後に見た時の無陀野は、大勢の桃太郎に1人で対峙している状態だった。
その強さは十分知っているものの、やはりケガの有無は一番の心配事である。
「ケガはしてないですか!?どこか痛いとか、そういうのは…!」
「大丈夫だ。傷一つない」
「え、あの人数相手に?」
「あぁ」
「それはそれで逆に怖いです…!でも、無事で安心しました」
「ありがとう。スズは…」
「ん?」
「…してるな、ここ」
「ひっ…!」
パッと見ただけで、スズのケガを見抜く無陀野。
優しく患部を触れば、あまりにピンポイント過ぎてスズは思わず声が出る。
「処置は?」
「大丈夫です!ちゃんとしてもらいました!」
「してもらった?」
「あ、えっと…たまたま会った桃の人に…」
「そうか…じゃあその桃にだけは、感謝しないといけないな」
「言葉と表情が合ってないですけど…」
「うるさい」
「ふふっ」
「…命があって良かった」
不意にそう言って、無陀野は少し目元を和らげる。
彼の心から安心したような声に、スズは表情を改めてから口を開いた。
「ごめんなさい。相談もなしに、勝手に動いてしまって…」
「"矢颪を任せる"っていう俺との約束を守ってくれたんだろ。何も謝る必要ない」
「でも、心配かけましたよね…」
「…そうだな、心配はした。でも信じてもいた…お前ならきっと上手くやってると」
「!」
「よく頑張った」
穏やかな声の担任に頭を撫でられれば、隠そうとしていたものが再び目に溢れてくる。
拭う仕草をしたらバレると思い、咄嗟に下を向いたスズ。
教え子の突然の行動を不思議そうに見つめていた無陀野は、どうしたのかと声をかける。
「傷が痛むのか?」
「いえ、そうじゃ、なくて…!」
「声が震えてる。大丈夫か?」
「大丈夫です!私、最近…安心すると涙腺が緩む傾向にあって。それが出てるだけなので…!」
「! …そんな風に言われたら抱き締めたくなるだろ」
「えっ…!」
「でも今それをしたら止められなくなるから…」
スズの頭に手を置いていた無陀野は、その代わりにと言わんばかりにコツンとおでこをくっつけた。
整った顔の急接近にスズの心臓は心拍数を上げるが、対照的に無陀野の声音は落ち着いていた。
「安心しろ。ここからは俺が傍にいる」
「はい…!」
「何があっても必ず守るから、スズも自分にできることを全力で頼む。お前を待ってる奴が大勢いる」
「分かりました!」
「…うん、いい顔になったな」
「ありがとうございます、先生!」
いつもの明るく元気な笑顔を見せるスズに、無陀野も表情を緩める。
"行くぞ"と告げた師匠の後ろを、力強い足取りで追いかけるのだった。
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