歩き始めてすぐ、スズは足元が揺れているのを感じる。
あちこちで爆発が起こり、建物はいつ崩れてもおかしくない程に崩壊が進んでいた。
「何かグラグラしますね…」
「早めに外に出た方がいいな。…スズ、そこの窓から出るぞ」
「え、飛び降りるんですか?」
「そんな危ないことはさせない」
無陀野はそう言うと、指に傷をつけて血を解放する。
次の瞬間、建物を支えるように無数の弓矢が地面に突き刺さった。
橋のように地上と繋がったその矢を、傘をさした無陀野に続きスズも降りて行く。
再び姿を見せた最強の鬼に、外にいた桃太郎たちは一気に騒ぎ出した。
「うるさい」
「先生、どんだけ暴れ回ったんですか…」
「大したことはしてないんだが」
「(絶対嘘だ…)ていうか、倒れてるのって帆稀!?」
「血を使い過ぎたのかもしれない。頼むぞ」
「はい!」
そんな会話をしながら地上に降り立った2人の元に、これまで指揮をとっていた皇后崎が駆け寄って来る。
スズの方へ少し笑みを向けてから、彼は無陀野に経過を報告した。
「ロクロたちに人質を避難させた」
「そうか。いい判断だ、よくやった」
「! ……ん」
担任から真っ直ぐな褒め言葉をもらいながら頭を撫でられた皇后崎は、何とも照れくさそうな表情を見せる。
入学当初はあれだけ敵視していたのに…と、スズは同期の良い変化を微笑ましく見守っていた。
それからすぐに表情を切り替えると、屏風ヶ浦の治療へとあたる。
「屏風ヶ浦も頑張ったな。…どうだ、スズ?」
「血が極端に減ってる…先生の言う通り、使い過ぎですね。でもこれなら輸血をすれば回復できます」
「そうか。崩壊は俺が防ぐ。四季は屋上に向かってる認識でいいか?」
「はい。今、碇が連れて行ってくれてます!」
「分かった」
スズが屏風ヶ浦に自身の血を送り込んでいる間に、皇后崎は一ノ瀬と連絡を取り合う。
人質を乗せていると思われる飛行船やそれとは別のロケットのようなものが離陸したため、間に合わないと焦りを見せていたのだが…
ようやく屋上に到着した一ノ瀬は、矢颪の力を借り何とかロケットに乗り込むことができた。
だがその直後、空が急激に暗さを増す。
そしてバチバチという嫌な音が聞こえたと思った次の瞬間、スズたちのいる場所に無数の雷が落ちてきたのだ。
「うわっ…!」
「スズ、平気か!?」
「大丈夫!ビックリしただけ。でも、何で急に雷なんて…」
「おい、四季!この雷はなんだ?そっちはどうなってる!」
『所長の所にいるよ!そんでこのカスがこの雷発動させやがった!飛んでる飛行船も、下のお前らもあぶねぇぞ!』
「マジかよ…あの飛行船、間違いなく人質乗ってんだろ…」
「安全なとこに移動…は、難しいよね…」
治療を続けているスズのその呟きに、皇后崎は頭をフル回転させる。
このままでは全員雷の餌食になって終わりだ。
特に自動操縦のため、自分たちでどうにかできない飛行船が一番の悩みの種だった。
と、そこへ聞き覚えのある声が複数聞こえてくる。
「うぉお!」
「外だ!大将の手当て急げ!」
「!?」「この声…!」
皇后崎とスズが揃って視線を向けると、意識のない等々力と蛭沼の亡骸を背負った鬼國隊メンバーが建物から転がり出てくるところだった。
すぐに駆け寄った皇后崎に続き、屏風ヶ浦の治療を終えたスズもまたそちらへ向かう。
「お前らも脱出したか」
「その声!皇后崎君か!マズいんだ!大将が瀕死状態で…!」
「乙原さん!」
「スズ!大将が…!」
「酷いケガ…出血がすごいし、脈も呼吸も弱い。…けど、心臓が動いてるなら大丈夫です」
「本当…?」
「はい!蛭沼さんの分まで、絶対助けます。ここからは私が皆さんを守る番です!」
優しくも自信に満ち溢れたスズの笑顔に、鬼國隊メンバーは憑きものがとれたようにホッと息を吐いた。
その中の何人かが自分に対して特別な感情を抱いているとは知らず、スズは真剣な表情で等々力に向かい合う。
上空から降り注ぐ雷は全面的に無陀野が引き受けることになり、各自が自分にできることをやり始めた。
中でもスズの役割は大きく、適宜周りに指示を出しながら大急ぎで等々力の治療を進めていた。
その様子を横目で見ながら、皇后崎は担任の元へ歩み寄る。
「なぁ、あの飛行船を安全な所に降ろしたいんだがどうすりゃいい?」
「…答えを出してやるのは簡単だが、それでいいのか?自分で答えを出すことにこだわれ。
たとえ誰かが周りにいても、自分の答えが採用される見込みがなくても、もう答えを持ってる奴がいても。
自分自身で考え、答えを出すことをおろそかにするようになったら、そこでお前の成長は止まる。
そして時には誰かに無理をさせることがあっても、それが最善なら迷うな」
「……だな…」
「俺たちの傍には優秀な援護部隊がいるだろ」
「!」
「今スズが急ピッチで治療をしているのは、お前と同じ考えを持ってるからだ。
いつ指示が来てもいいように、その指示が来たとき、最低限の動きができる状態で送り出せるように、今あいつは動いてる。
スズがいれば、俺も含め全員多少の無理はきく。あとはお前が声をあげるだけだ」
担任からの言葉を噛みしめながら、皇后崎はスズや鬼國隊メンバーが集まる場所へやって来る。
顔を上げた彼の表情には、司令塔としての覚悟が見て取れた。
to be continued...
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