屏風ヶ浦が作り出した巨人の攻撃を何とか避けた3人。

ヘッドスライディングのような形で倒れ込んだ一ノ瀬に対して、スズは華麗な身のこなしで着地を決めた。


「あっぶね!マジ危ねぇ!てか、スズすげーな!もしかしてめちゃくちゃ運動神経いい?」

「血で戦えない分、体術は鍛えてもらったからね。でもギリギリだよ…!四季は?大丈夫?」

「おう、平気!にしてもあの厨二マスク、死んだんじゃねーだろうな!?」


一ノ瀬が皇后崎の様子を伺っている隙に、スズは状況報告のため携帯を取り出す。

履歴の一番上にある名前を押せば、相手はすぐに応答した。


『スズ。今、でかい音が聞こえたが…四季か?』

「いえ、四季じゃなくて帆稀です…!」

『屏風ヶ浦?』

「はい。血触解放したんですけど、帆稀の意志で出した感じじゃないんです」

『暴走してるのか?』

「そう言っていいと思います。本人が制御できてないので…!」

『すぐ行く。お前はとりあえず避難しろ』

「分かりました…!」


とは言ったものの、この状態で同期たちを置いて1人避難する程、スズは冷酷な人間ではない。

この中で一番戦える皇后崎が応戦する中、彼女は一ノ瀬と共に屏風ヶ浦へと声をかけた。


「おい!屏風ヶ浦!お前ちょっとこれ止めらんねぇの?」

「ごめんなさい…ごめんなさい…私じゃ…どーにも…な…り…」

「帆稀…!気失っちゃダメ!しっかりして!」

「スズ、あれって血流し過ぎだよな?」

「うん…意識がなくなったらますます血が流れ出て…取り返しのつかないことになるかも」

「とりあえず引き離す!俺が突っ込んでこっちに放り投げるから、スズ受け取って!」

「分かった…!気をつけて!」


スズの言葉に力強く頷いた一ノ瀬は、血だまりの中にいる屏風ヶ浦の元へ駆け寄る。

だが一ノ瀬が近づくのに合わせて、巨人は彼女を守るような体勢を取った。

そして次の瞬間、口の中に溜めた大量の血液を3人がいる方へ吐き出したのだった。

文字通りの血の海に飲まれそうになったスズは、来たる衝撃に備えて身構えた。

が、突然その体が浮遊する感覚に襲われる。

咄嗟に瞑っていた目を開けると、少し怒ったような表情の無陀野に横抱きにされていた。


「無人先生…!」

「俺は"避難しろ"と言ったはずだが?」

「はい…でも…!帆稀のこと放っておけなくて…」

「他の奴らは血で攻撃と防御ができて、尚且つ怪我をしてもお前がいる。

 だがお前はどちらもできない上に、自分の体を治すのは苦手と来てる。その違いをちゃんと理解してるのか?」

「…してます」


耳を澄まさないと聞こえないぐらいのボリュームでそう言ったスズは、シュンと顔を伏せる。

その姿に深くため息を吐いた無陀野は、降り立った枝の上に彼女を降ろした。

立ったまま変わらず顔を下に向けている教え子の隣に並ぶと、無陀野は静かに話し始める。


「同期を大切にしようとする想いと行動は買う。そうなってもらいたくて育ててるからな。

 でもお前は"戦線に出る援護部隊"という少し特殊な存在だ。同じ部隊の奴らに比べて遥かに危険度が高い。

 戦闘部隊にとって、スズの存在がどれだけ大切か分かってるだろ?だからこそ、お前は誰よりも自分の身を大事にする必要があるんだ」

「…はい」

「…自分のためにそういう行動を取ることに抵抗があるなら、俺のために行動しろ」

「え…?」
 
「……スズを1人で先に行かせたことを…後悔するとこだった」

「!」

「だから俺を後悔させないために、自分のことを大事にしろ」

「先生の、ため…」

「返事は?」

「はい!言うこと聞かなくてごめんなさい」

「全くだ。次やったら…覚悟しておけよ」

「押忍!」


スズの頭にポンと手を乗せると、無陀野は彼女の耳元に口を寄せ、低い声でそう囁いた。

言葉だけ聞けば恐ろしいものを感じるが、彼の表情はとても穏やかであり、教え子を心配する気持ちで溢れている。

それが分かるから、スズは明るい笑顔で返事をするのだった。


「さて…問題はこっちだな。あれが屏風ヶ浦の血触解放か」

「はい…制御できないせいで、血を大量消費して危険な状態です」

「そうか。いつでも救護に行けるようにしておけ」

「了解です!」

「(あいつらどう切り抜けるか…)」


木の上でスズと無陀野がそんな会話をしている間に、一ノ瀬もまた屏風ヶ浦と言葉を交わしていた。

鼻だけでなく、目や口からも血が流れ出ている彼女。

最早意識を保っているだけで精一杯という状態だった。


「やめて…もうやめて…お姉ちゃん…」

「(姉ちゃん…?)」

「2人とも…逃げてください」

「逃げてどーする…お前このままじゃ血出し過ぎて死ぬぞ…スズが言ってた。

 目の前で人が死ぬのって…結構へこむんだぞ…それにお前、めっちゃしんどそうな顔してんじゃん…ほっとけねぇだろ」


ボロボロの体を何とか奮い立たせながら、一ノ瀬はそう言って改めて巨人と向かい合った。

この状況を打破するために…!



to be continued...



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