スズと無陀野が木の上から見守る中、一ノ瀬は何度も自身の手を傷つけ血を流す。

だがあの日のような武器は、欠片も作り出すことができなかった。

何故武器が出てこないのか分からない。

抉り取った土や岩を投げつけてくる巨人に、全く太刀打ちもできない。

弱く何も出来ない自分に、一ノ瀬は再び悔し涙を流すのだった。





第8話 俺は…ここからだ! / 俺には関係ない





一方的にやられている一ノ瀬を前にして、スズは横に立つ担任をじーっと見つめる。

言葉に出さなくても、今彼女が自分に対して何を望んでいるのか、無陀野には手に取るように分かる。

1つ大きな息を吐くと、教え子の方へ視線を向けた。


「(四季のとこに行きたい行きたい行きたい…!)」

「…俺の目が届く範囲にいることが条件だ」

「! はい!ありがとうございます!」


明るい笑顔でそう言うと、スズはサッと木から飛び降りる。

そして両手を地面について下を向いている彼の元へと向かうのだった。


「泣きてぇならどっか他所で泣け」

「あ!?泣いてねーし!殺すぞ!」

「…すぐ泣くガキはそいつに慰めてもらってろ」

「は?"そいつ"って誰だ…って、スズ!!」

「泣くな、四季ー!」

「うっ…ダセぇから見せたくねぇ……スズには、もっとカッコいいとこ見せてぇよ…」


自分と目線を合わせるようにしゃがんでいるスズから顔を背け、一ノ瀬は涙を隠そうとする。

そんな彼の頭を優しく撫でながら、スズは諭すように穏やかに話しかける。


「四季はダサくなんてないし、カッコ悪くもないよ」

「…いくら天使の言葉でも…それは信じねぇ」

「本当にダサくてカッコ悪いのは、今この場から逃げて、弱いままでいる人だと思う。

 同期を守るために、頑張ってもがいてる四季はめちゃくちゃカッコいい」

「スズ……けど…」

「四季、あの時と同じだよ?下ばっかり見てたら、大事なことを見落としちゃう。顔上げて、周りをよく見て?」


スズの言葉に引き寄せられるように顔を上げた一ノ瀬は、彼女と視線を合わせた。

笑顔で頷くスズを見て、彼の脳内は少しずつ落ち着きを取り戻す。

皇后崎や屏風ヶ浦の血触解放の特徴、あの日自分が出した武器、そこから導かれる1つの仮説…


「スズ」

「ん?」

「ありがと。俺、分かったかも!ちょっとやってみる」

「うん!」


スズに今までと違う光を宿した瞳を向けると、一ノ瀬は右腕の袖をまくりあげる。

一方、巨人の相手をしていた皇后崎は、相手が発した強大な音波によって耳をやられていた。

着地した彼の元へ駆けつける途中、スズは木の上にいる無陀野に視線を送る。


「(先生…!)」

「(ここらが限界か…)」


教え子の視線に1つ頷くと、無陀野は人差し指にはめた指輪から刃を取り出し戦闘態勢に入った。

その姿を横目に見つつ、スズは耳を押さえしゃがみ込んでいる皇后崎に声をかける。


「皇后崎君ー!!聞こえてるー!?」

「うるせぇ…!左は聞こえてる!」

「あ、ごめんごめん!じゃあ右だけ治すね」

「いい。ほっとけば治る」

「片耳じゃ方向とか距離感掴めなくて危ないから。早く治すに越したことないよ」

「いいっつってんだろ。触るな!」

「触ってないじゃん。手かざしてるだけでしょ。大人しくしてなさい」


強めにそう言うと、皇后崎の右耳に手をかざして治療を始めるスズ。

彼女の手から出た血は皇后崎の耳の中へと入り、内部の破壊された器官を生成していく。


「(すげー…何だこいつの力。どうなってる?)」

「…うん、これで良し。聞こえるようになったよね?」

「……余計なことすんな」


自身の戸惑いを隠すように、皇后崎は礼も言わずに立ち上がる。

スズはと言えば、その失礼な態度に気分を害した様子もなく、静かに彼の後ろ姿を見送っていた。


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スズが皇后崎の治療に当たっている間、一ノ瀬は再び手から血を流していた。

同期の言葉を機に得たヒント…

無作為に武器をイメージするのではなく、自分が一番好きなものを思い浮かべる。

イメージを具体的かつ鮮明にするために、意識を集中する。

その結果…!


「喚くなよ」

「あっ…!」

「(掴んだのか…?)」

「俺は…ここからだ!」


ついに血触解放を成した一ノ瀬の手に、彼の大好きな大型の銃が握られていた。



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