一方、羅刹学園サイドにも動きが…

離脱していた矢颪が、無陀野を中心とした同期たちの前で膝を地面につけて頭を下げた。

謝罪の言葉を口にする彼に対し、無陀野はいつも通りの冷静な声音で言葉を投げかける。


「何に対してだ?」

「俺のせいで皆に迷惑かけちまった…」

「要件は手短に言え」

「羅刹に戻らせてください…!」

「なぜその答えに辿り着いた?それともただ居場所が欲しいだけか?」

「居場所は欲しい…欲しいって素直に思えるようになった…

 死んだ仲間引きずって、また失うのが怖くて…そうゆう居場所はいらねぇって…壁を自分で作ってたけど…

 壁超えるどころか、ぶち壊して入って来た奴がいた…自分の身が危ねぇかもしんねぇのに、ずっと俺の傍にいてくれた奴がいたんだ…

 嬉しかったし…何より思ったんだ。失うこと怖がって手を伸ばさないより…掴んだ大事なもん失わない強さが欲しいって…!

 だから強くなりてぇ…!仲間を…もう二度と失わないように!そのためにも戻らせてください…!」

「お前の制服はもう無い」

「…っ」

「鞄に入れてたが、滝に飲まれてしまったからな」

「……え?」

「明日新しい制服を取りに職員室へ来い。それと1か月校内の雑用係だ」

「ありがとうございます!」


担任からの一言に、矢颪は驚きながらも全力でお礼を伝える。

笑顔の同期たちに囲まれて照れ臭そうな表情を見せる彼は、以前とは比べ物にならないほど、柔らかい雰囲気をまとっていた。


「羅刹に帰るぞ。俺は屏風ヶ浦を背負う。矢颪は四季を頼む」

「おう!」

「皇后崎」

「?」

「お前はスズを迎えに行け。…絡まれてる」


無陀野に言われ振り返った先で、スズが鬼國隊の人間と話している姿が見えた。

男がスズを憎からず思っていることは、遠目で見てもすぐに分かった。

返事をするのももどかしく、皇后崎は速足で彼女の元へと向かった。


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"もうすぐスズとはお別れだ"

そう告げた鳥飼は、熱を帯びた目でスズの顔を見つめる。


「う、羽李さん…」

「ん?」

「あの、そんなに見ないでください…!」

「ふっ。だってスズの顔焼き付けとかねぇと」

「治療の時も言いましたけど、そんな、大した顔じゃないですから…!」

「んなことねぇよ。…弱ってなくても、スズのこと天使に見える」

「!」

「…俺のことも忘れないで」

「え?」

「俺の"初めて"がスズだってこと、覚えてて欲しい」


研究所内で鳥飼の治療をしていた時、彼とそんな会話をしたことを思い出したスズ。

あの時忘れて欲しいと言われたけれど、ドキドキした思い出というのはそう簡単に頭からは離れなくて…

言われなくても、何から何までしっかり覚えていた。

そのせいでほんのり頬が染まるスズに、鳥飼は穏やかに微笑みかける。


「スズ」

「は、はい!」

「知り合ってすぐの男とこの間合いはダメだって、俺言ったよな?」

「言って、ました…!」

「……抱き締めていい?」


恥ずかしさでなかなか頷けないスズを無視して、鳥飼はふわっと彼女を抱き寄せる。

同期たちとは違う少し大人っぽい雰囲気に、スズの心拍数は跳ね上がった。

彼女の速い鼓動を感じながらも、鳥飼は落ち着いた声で言葉を紡ぐ。


「ありがとな。スズがいてくれて良かった」

「羽李さん…」

「どれだけ感謝しても足りねぇよ。本当ありがと」

「いえ…!お役に立てて良かったです!」

「…離したくねぇな〜」

「!」

「このまんま連れて帰りてぇけど…迎えが来ちまったか」

「えっ?」

「いつまでそうしてんだよ。いい加減スズから離れろ」

「迅!」


聞き慣れた声に顔を上げれば、鳥飼の肩越しに同期を発見する。

少しイラついた雰囲気の皇后崎に、スズはクスッと笑みを漏らした。


「イカついボディーガードがついてんのな」

「ふふっ。頼りになるんですよ」

「じゃあしょうがねぇから、今回は大人しく引くわ」

「皆さんによろしくお伝えください!」

「りょーかい」


そう言いながら笑顔でスズの頭をポンと叩いた鳥飼は、皇后崎に視線を送る。

スズのことを全く諦めてなさそうなその目に、彼はまたイライラを募らせるのだった。



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