「負傷者はそこ曲がって突き当たりの部屋だ。お前は先行ってろ」

「えっ、何それ!スズと2人でどこ行くのさ!」

「はぁ〜…紫苑たちと会わせんだよ」

「あー!そっか。まだ会ったことなかったっけ」

「紫苑さん、というのは?」

「ここの隊長だ。副隊長もいるから、合わせて紹介する」

「ありがとうございます!」


数分歩いたところで、不意に淀川から指示を受けた花魁坂。

てっきりスズと2人で治療にあたると思っていた彼としては驚きの展開である。

だが続く淀川の言葉に、花魁坂の心は平常を取り戻した。

これから先、杉並区を統括している隊長・副隊長とは大いに関わることになる。

早く顔見知りになるに越したことはない。

"じゃあ先行ってるね〜"と軽く声をかけてから、花魁坂は自分のことを待っている患者の元へと向かった。


「よし、俺らも行くか」

「押忍!紫苑さんたちとは長いお付き合いなんですか?」

「羅刹時代の後輩だからな。それなりに長いか」

「えっ!何ですか、その素敵な関係性!」

「素敵か?何なら馨も後輩だぞ?」

「そうなんですか!?てことは、紫苑さんたちとは同期だったり…?」

「そういうことだ」

「じゃあ先輩・後輩大集合ですね!皆さんがこうして生きて顔を揃えられるのは…本当に素晴らしいことです」

「! …そうだな」


いつ誰が命を落とすか分からない状況で、かつての仲間が再び集まれるのは奇跡に近い。

援護部隊として多くの生死を見てきたスズの言葉に、淀川も表情を和らげた。

そうして気づけば、"会議室"と書かれた部屋の前に着いていた2人。

早速入ろうとした淀川だったが、その前に思い出したようにスズを振り返る。


「…そうだ。1つ言い忘れてた」

「何ですか?」

「紫苑には極力近づくな」

「へ?」

「あいつは無類の女好きだ。迂闊に近づけば、簡単に手出される」

「いや、でも、初めまして…ですよ?」

「そういう常識が通用する相手じゃねぇの」

「そんなに、ですか…」

「そんなにだ。…俺の前に、他の奴に手出されちゃ困んだよ」

「! ま、またそうやって冗談言う…!」

「…」

「……冗談、ですよね?」

「さぁ…どっちだろうな」


妖しい笑みを見せた淀川は、さっさとドアを開けて行ってしまう。

きっと赤くなってるであろう顔を冷ましながら、スズもまた後に続くのだった。


部屋の中では、2人の人物がイスに座って待っていた。

1人は顔の傷と首の刺青が特徴的なイカつい見た目の男。

そしてもう1人は丸いサングラスをかけ、口にはチュースティックをくわえたチャラそうな男であった。

事前の情報から紫苑なる人物は後者だろうと判断し、スズは言いつけを守って少し距離を取る。


「お疲れ様です!真澄先輩!」

「お疲れ」

「お疲れ様っす。おっ、女の子連れてるんすか。紹介してくださいよ」

「お前はそれ以上近づくな。スズ、こいつが隊長の朽森紫苑。もう1人が副隊長の百鬼大我だ」

「初めまして!援護部隊の木下スズと申します!少しでもお役に立てるように頑張りますので、よろしくお願いします!」

「来てくれて助かる!よろしくな、スズ!食いたいもんあったら言えよ!すぐ持って来るからな!」

「女子の援護部隊っていいよね〜何か天使みたいで。今後俺もうスズの治療しか受けないからよろしく〜」


間にいる淀川を気にすることなく、イスに座ったままそう言ってヒラヒラとスズに手を振る朽森。

見た目通りの人と、見た目と反する人が続けて話しかけてきて、スズの頭は一時的にパニックを起こす。

何とか脳内を整理し呼吸を整えると、改めてスズは2人の先輩に向けて頭を下げるのだった。


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顔合わせが終わると、スズは花魁坂に合流すべく部屋を出た。

少女を見送った3人は早速打ち合わせを始めるのかと思いきや…

無類の女好きがいる以上、彼女の話題を避けることは難しかった。


「そういや、俺何でスズに近づいちゃダメなんすか?」

「手出すだろ」

「出さない保証はできないっすけど…あ、もしかして真澄先輩の彼女だからとか?」

「…違ぇよ」

「ふ〜ん…の割には過保護っすね」

「他の女と同じように接したら殺すからな」

「怖っ。でも意外だな〜真澄先輩ってあぁいう子がタイプなんすね」

「…お前もそのうち分かるよ」


そう言った淀川の表情は、今まで2人が見たことのないような穏やかなもので…

面食らった後輩コンビは、互いに目線を合わせる。

それから流れを切り替えるように、百鬼が改めて先輩へと声をかけた。


「真澄先輩。スズの能力については俺らにも情報入ってるんすけど、やっぱすごいんすか?」

「すげぇよ。あいつがいなかったら、俺の右足は今頃義足だ」

「マジっすか。そりゃ桃に狙われるわけだ」

「まっ、ここにいる間は俺が守るけどな」

「お前は近づくなっつったろ」

「そう言われると逆に燃えますね」

「…でもスズって前線出てんすよね?危なくないっすか?」

「体術は無陀野が相当鍛えてるから下っ端の奴なら相手できるし、俺の能力も渡してある」


そうして淀川は、以前スズに手渡したネックレスについて話して聞かせる。

消えている時間としては短いが、いざという時の手段としては有効だろうと。


「ただ使うタイミングがまだそんなに上手くねぇ。必要なら適宜指示出してやってくれ」

「了解!」

「てことは〜誰にもバレずに部屋連れ込むこともできるってことっすね」

「…これから背後に気をつけて過ごせよ」

「殺す気満々じゃないっすか。冗談です〜」

「よし!じゃあそろそろ本題入ります!」


百鬼の一声でスズに関する話は一旦収束した。

先輩・後輩・同期…

新旧の羅刹学園生総動員で、杉並奪還へと動き出す…!



to be continued...



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