花魁坂と合流したスズは、それから夜を徹して負傷者の治療にあたった。
すぐの治療を必要とする患者に加えて、前日に花魁坂が治療した患者たちの経過チェックも任されたスズ。
傷の治りはどうか、悪化している患者はいないか、追加治療が必要か否か…
スズはバタバタと動き回りながらも、1人1人確実に確認を行っていった。
その中にはあの猫咲と印南の姿もあり、彼女を驚かせる。
「幽先輩!波久礼先輩!」
「スズ、久しぶりだね!元気そうで何よりだ!」
「久しぶりの再会がこんな状態じゃカッコつかねぇけどな」
「何言ってるんですか!お二人とも無事で良かった…!」
先輩2人のケガ自体は花魁坂の治療によって完治しており、安静にしていれば明日には完全復帰できるところまで来ていた。
それでも念のため状態を確認しながら、負傷時の様子や互いの近況について会話する3人。
しかしいつまでものんびりしているわけにはいかない。スズを待っている患者は大勢いるのだ。
2人との会話を泣く泣く切り上げ、彼女は再び戦場へと舞い戻った。
第64話 抱える ー中ー
朝方になり、ようやくスズと花魁坂は一通りの治療を終えた。
休憩室のソファに並んで座ると、2人は揃って大きく息を吐く。
「疲れたね…」
「はい…目が勝手に閉じちゃいます…」
「俺も。…スズが来てくれて良かった。1人じゃ絶対無理だったよ。本当にありがとう」
「とんでもないです!京夜先生の力になれて嬉しいです。来た甲斐がありました」
眠気から来るフワフワした空気を纏いながら、師匠に笑顔を向けるスズ。
彼女の安心したような可愛らしい表情に、花魁坂は目を奪われる。
心身ともに疲れ切っているはずなのに、治療中も今もマイナスな言葉は1つも出てこない。
最後の最後まで患者のために走り回って、明るい笑顔を皆に向ける。
彼女の笑顔と言葉にどれだけの人間が救われているだろう。
自分もその中の1人だと、花魁坂は改めて自覚する。
誰もいない2人きりの空間…
今まで付き合って来た女性たちが相手であれば、ハグやキスの1つや2つとっくにしているだろう。
だが今目の前にいる少女には、自分でも信じられないほど慎重になっている。
大切にしたい気持ちと、愛しの彼女に触れて癒されたい気持ちがせめぎ合う。
結果、花魁坂が選んだのは…
「…スズ」
「はい!」
「少しだけ…手、繋いでもいい?」
「! あ、は、はい!私の手で、良ければ…!」
「ありがとう」
穏やかにそう告げると、花魁坂はそっとスズの手に自分のを重ねる。
恋人繋ぎのように握れば、少女がドキッとしたのが伝わって来た。
さっきまでと違い全くこちらを見なくなったスズに、花魁坂はニヤケそうになるのを堪えるのに必死だった。
「(反応可愛すぎでしょ…!)スズの手握ってると落ち着く」
「それは、良かった、です…!」
「スズは…ドキドキしてる?」
「えっ!?な、何で分かるんですか…」
「分かるよ〜そんな赤い顔してたら」
指摘されたことで余計意識したのか、スズの頬はますます赤くなった。
素直な反応を楽しみながら静かな時間を過ごしていると、不意に肩に重みがかかる。
そちらを見なくても、隣の少女が睡魔に負けたのが分かった。
ドキドキと安心感が戦った結果、後者に軍配が上がったわけである。
「おやすみ、スズ。お疲れ様」
小さくそう告げると、花魁坂もまた静かに目を閉じるのだった。
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30分程眠っていただろうか…
休憩室をノックする音で目が覚めた花魁坂。
ドアを開ければ、そこには見慣れた顔が3つ…淀川・朽森・百鬼が立っていた。
「治療お疲れさん。眠いところ悪いが、少しいいか?」
「いいよ〜あ、でも静かめにお願い。スズが寝てるんだ」
「スズも徹夜っすか?」
「うん。いつもこういう時、頑張り過ぎちゃうんだよね」
「じゃあ俺、部屋に運んできますよ」
「まっすーがすごい顔で睨んでるけど大丈夫そ?」
そうしてスズが眠っているソファから少し離れたところにあるテーブルの周りに集まった4人。
話す内容は、援護部隊コンビのこの後の動きについてだ。
これから先も確実に負傷者は増える。故に援護部隊は必要不可欠である。
「まだしばらく手を借りることになりそうなんだが…どうする?」
「んー…ダノッチにも応援要請出したんだよね?」
「あぁ」
「なら1回戻って、情報共有しときたいかな。一旦自分の部屋にも帰りたいし」
「スズは?」
「急遽連れて来ちゃったからね〜スズも1回帰して、部屋で寝せてあげたいな」
「分かった。大我、移動の手配頼む」
「了解!風呂とか飯とか大丈夫っすか?せめてスズだけでも何か食わせた方がいいっすよ!」
「でも気持ち良さそうに寝てるからな〜…って、紫苑?何してんの?」
様子を見るため振り返った先で、花魁坂はソファの前にヤンキー座りをしている朽森を発見する。
ちょっと目を離した隙にそちらへ移動した彼は、スズのことを間近で見つめていた。
すかさず淀川が歩いて行き、その首根っこを摑まえる。
「テメェ…近づくなって言ったよな?」
「スズが起きそうな気配だったんすよ。目覚めた時、すぐ誰かの顔が見えた方が安心するでしょ?」
「お前じゃなければな」
「まぁまぁそう言わずに〜女の子の寝顔っていいじゃないっすか。守ってあげたくなる」
「…ん?……紫苑先輩…?」
「おはよ〜スズ。少しは寝れた?」
「はい…って、すみません!私ばっかり寝てしまって…!」
「朝まで働いてた奴が眠いのは当たり前だ。謝る必要ねぇよ」
「そうそう。何ならこの後俺の部屋で一緒に寝る?」
「えっ…!」
「紫苑どけ!スズに飯食わせる!いろいろ持って来たから、食えるもん腹に入れろ!」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあこの後の流れ伝えるから、食べながら聞いててね」
おにぎりを頬張るスズに笑いかけながら、花魁坂はそう言って今さっき決めた話を伝える。
それから1時間後…
淀川たちに見送られ、スズと花魁坂は高円寺を後にした。
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