スズたちが高円寺で夜通し治療にあたっていた頃…
Bー2号室にある二段ベッドの上段で、1人の生徒がうなされていた。
脳裏に浮かぶのは、自分の手で命を奪った華厳の滝跡地研究所の所長の姿。
酷い寝汗と共にガバッと起き上がった一ノ瀬は、荒い息のまま"くそ…"と呟いた。
「(寝れそうにねぇし、ちょっと外出るか…あ、スズ起きてたりしねぇかな…)」
スズの部屋は救護室を兼ねていることもあり、夜遅くでも起きていることがあると、以前本人に聞いたことがあった。
思い立ったら無性に顔が見たくなり、迷惑を承知で訪ねようと一ノ瀬は布団から出ようとするが…
そこでふと思い出す。昨日からスズは花魁坂と一緒に出張中であることを。
仕方なくもう一度布団に入った一ノ瀬は、悶々と考えを巡らせる。
「(何か普通に会いに行こうとしたけど、俺ってスズと今まで通り接していいのか…?)」
彼の問いに答えるのなら、返事はもちろんYESだ。
実際皇后崎は人を殺めた経験があるが、スズと普通に関係を築いている。
だが一ノ瀬の中ではそう簡単に割り切れる話ではない。
人を救う援護部隊のスズと、人の命を奪った自分。
真逆の立ち位置にいる自分は、もう彼女を頼ってはいけないのではないか…
彼女に笑顔を向けてもらう資格がないのではないか…
「(スズに、どんな顔して会えばいいか…分かんねぇ…)」
思い悩む一ノ瀬を、ベッドの下段にいる同期は少し気にかける。
そうして夜は静かに更けていき、羅刹メンバーは華厳の滝から戻って3日目の朝を迎えた。
スズ以外の生徒たちは、広いグラウンドで無陀野と向かい合っている。
2日間の休養でしっかりと疲れが取れたので、今日から授業再開というわけ。
「それじゃあ血蝕解放を長く維持する訓練をする。各自血蝕解放しろ」
無陀野の指示に、それぞれが自分の能力を発動する。
が、一ノ瀬だけはどうも様子がおかしい。
華厳の滝にいる時は自由に扱えていた力が、全く使えなくなっていたのだ。
無陀野や皇后崎が静かに見守る中、心配する同期たちに笑顔を見せる一ノ瀬。
授業が終わると、彼の足は自然と保健室へと向かっていた。
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昼前ぐらいに羅刹学園へと戻って来たスズと花魁坂。
入浴と仮眠を済ませ、15時ごろを目途に保健室集合ということで話がまとまった。
自分の部屋というのはやはり落ち着くもので、スズは入浴後、時間までグッスリと眠ることができた。
15時ピッタリに保健室のドアを開けると、そこには既に花魁坂がおり、加えて無陀野の姿まであった。
「あ、無人先生!」
「おかえり。また全力でやってくれたらしいな。急な依頼だったのにありがとう。助かった」
「いえ!お役に立てて安心しました」
「ゆっくり寝れた?」
「はい!やっぱり自分の部屋はいいですね。スッキリしました!」
「良かった!」
そうして集合した3人は、昨日と今日の出来事について互いに報告し合った。
その中で、スズは一ノ瀬の不調について聞かされることになる。
華厳の滝での治療中、彼の表情はどこか思い詰めたような感じだった。
原因はやはり…
「人を…殺したから、でしょうか」
「聞いたわけじゃないが、恐らくその可能性が高い」
「四季君は元々普通の男の子だったわけだしね…精神的には相当キツイか」
「……私、少し四季と距離を置いた方がいいでしょうか」
「え、何で?」
「…お前が援護部隊だからか?」
「はい…私は人の命を救うことが役目で、皆の前で"誰も死なせない"って宣言したこともあります」
「そういえば、雪山修行の時は四季君が代わりにスズの目標言ってたっけ…」
「そうなんです…だから私を見る度に、自分が奪った命のことを考えちゃうんじゃないかなって。
四季はすごく優しいから、私に顔向けできないとか…そういうバカなこと考えてるんじゃないかと…」
「会う度に精神的負荷がかかるから、そもそも会わない方がいいってことね…」
「はい…」
「確かに援護部隊の人間に会うのは、今のあいつにとってはツラいことかもしれない。
だがそれを差し引いても、四季にとってスズは必要な存在だと思う」
「えっ」
「あいつはお前のことを天使だと言ってるだろ?傍にいると安心するんだと、前に話していた」
「そうなんですか…!」
「あぁ。…無理に関わろうとしなくてもいい。でもスズの方から避けることはしないでやってくれ」
「俺もその意見に賛成!スズってさ、自分で思ってる以上に人に安心感をあげられてるんだよ?俺とダノッチも何度も助けられてる。
だから変に態度変えたりしないで、今まで通り明るくて優しいスズでいれば大丈夫!」
「京夜先生、無人先生……ありがとうございます!私の方が考え過ぎちゃってたのかも…」
「その性格がスズのいいところだけどね!」
「また不安になったらいつでも相談してこい。いくらでも話を聞く」
「はい!」
少し気持ちが落ち着いたスズは、トイレに行くと言って一旦保健室を出た。
戻って来てドアを開けようとすると、中から何やら話し声がする。
耳を澄ませれば、"四季の様子がおかしい"と訴える皇后崎の声が聞こえてきた。
深夜によくうなされていると…
体にも影響が出始めていることに、スズはまた心配を募らせた。
と、廊下の向こうから不意に聞こえる足音に驚き、咄嗟に隣の部屋へと隠れる。
保健室のドアを開けた時の"すんません…"の声に、彼女はそれが渦中の人物であることを知るのだった。
to be continued...
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