車を降りた一行を出迎えたのは、スズ以外のメンバーにとっては久しぶりに見る面々だった。
練馬の偵察部隊隊長と以前訓練を手伝ってくれた先輩2人。
前回来たときは会えなかった並木度の姿もあり、スズは笑顔を見せる。
「真澄隊長!馨さん!印南さんに猫咲さんも!」
「久しぶりだね!若者の活気に元気が出るよ!ゲホッ!」
「血ぃ吐いてるけど!?」
「猫咲さん、おどおどしてどうしたんですか?」
「い…いや、別に…」
「まだこの前のケガが治り切ってないとかですか…!」
「大丈夫だ、スズ。そういうんじゃねぇから。無駄話こいてねぇで早くいくぞ」
「にゃ…にゃい…!」
「猫咲昔からまっすーに逆らえないからなぁ」
「そうなんですか!」「なんで?」
「猫咲って腹黒猫かぶりでしょ?」
「馨さん今凄いこと言ったぞ」
「だから人の懐に入るのはうまい方なんだけど、真澄隊長には一目で全部見透かされちゃったんだよ」
「あの蛇みたいな目で睨まれるともう…」
「ふふっ。波久礼先輩の怖いもの、もう1つ知っちゃいました!」
明るく笑うスズに睨みをきかせるものの、淀川から声がかかるとすぐにその勢いは力を失った。
そんな何気ないやり取りを通して、スズは改めて大人組の素敵な関係性を実感するのだった。
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話し合いの場となる会議室では、ホワイトボードの前に立つ百鬼が皆を待っていた。
自分の前にある机を4つ合わせた大テーブルに大人組が座るのを見やりながら、彼は入って来た中にスズを見つけ声をかける。
「スズ!ちゃんと休んできたか!?」
「はい、バッチリです!」
「連日で悪いが、また頼む!」
「らじゃ!」
「でも飯は欠かすなよ!デザートまでキッチリ食え!」
「分かりました!ありがとうございます!」
今日も百鬼の見た目に反する優しさに嬉しくなりながら、スズは同期たちの元へと戻る。
大テーブルの末席付近…入口を入ってすぐのところにイスを2列並べ、若者たちは腰を下ろした。
後列の左端に座ったスズは、いつでもメモを取れるよう愛用のノートを準備し聞く態勢を整える。
それを待っていたかのように、百鬼は大きな声で打ち合わせを開始した。
「集まって頂き、ありがとうございやす!杉並の現状とこれからについて話させてもらう!」
「いかちぃな」
「つーかよぉ!なんでガキがいんだよ!」
「あ?いちゃわりぃかよ?」
「ガキが来るなんざきいてねぇんだよ!ガキが喜ぶお菓子の準備してねぇぞクソがぁ!」
「「「?」」」「ふふっ」
「ガキが来るならハッピーターンでも用意すんのによぉ!羊羹しかねぇ!羊羹食うか!?コラァ!」
「「「?」」」
「大我って輩っぽいけど死ぬほど優しくて、聖母って呼ばれてるんだ」
「聖母…」
「だいたいガキが何しにきてんだ!?戦場のど真ん中だぞ!!危ねぇんだぞ!」
「今回の杉並奪還に参加させる」
「無陀野先輩よぉ、毎回思うんだが…スズは役割上仕方ないとして、学生のうちに戦場出すのはどうかと思うんだがなぁ!」
「戦場を知らず卒業後放り込む方が危険だ。守るだけが優しさじゃないんだ。お前も学生時代戦場に出た経験が役に立ってるだろう」
「若者の成長を侮っちゃいけない!彼らは強いしまだ強くなる!溢れる若さが戦場に活気をもたら…ガハッ!」
「おい猫ぉ、血ぃ飛んでんぞぉ」
「すみません!黙らせます!」
「わかったよ…けど怪我したらすぐ京夜先輩とスズの所行けよ!子供が傷つくこと以上に胸が痛むことなんざねぇんだぞボケがぁ!」
「「「(優ー!)」」」
「お前んとこの隊長どうした」
一ノ瀬たちの話題が一区切りついたところで、淀川が口を挟む。
話を進めている百鬼は副隊長。今この場には杉並鬼機関の長がいないのだ。
返答しようとした百鬼の言葉を遮るように、外から若い女性の声が聞こえてくる。
"最低"というマイナスワードに興味を引かれ一ノ瀬・矢颪・遊摺部が外へ顔を出せば、そこには女性に詰め寄られている1人の男性がいた。
「私以外に何人の女とできてんの!?」
「えーっと26人?」
「限度があんだろ!この玉袋野郎!」
「なんだあのヤリチンクズ男」
「彼女が26人…?1人しかなれないもんだろ…?」
「あ、矢颪君キャパオーバーしてる」
「(紫苑先輩って本当に女好きなんだ…!)」
聞こえてくるやり取りに、以前淀川から言われたことを思い出すスズ。
少し大げさに言っているのかと思ったら、本当に無類の女好きだったことに思わず驚きが顔に出てしまう。
"皆を100%愛してるのに怒られる理由が分からない"
ウイスキー片手にそうボヤキながら部屋に入って来たのが、ここの長・朽森紫苑であった。
「無陀野先輩、京夜先輩、真澄先輩お疲れ様っす。ってなんで子供いるんすか?」
「今回のメンバーだ」
「え〜子供ってすぐ死ぬから嫌いなんだよ〜」
「ムカつくな…酒飲んでるし」
「枝噛んでるぞ」
「いつか女性に刺し殺されるよ」
「はは!いいなそれ!女に殺されるなんて最高じゃん。どうせ俺ら戦場で独り野垂れ死ぬんだから、それに比べりゃ幸せじゃんか」
その後すぐに朽森は屏風ヶ浦をロックオンし、流れるようにナンパを始める。
それを横で聞いていたスズは、先程の彼の言葉を少し重めに受け取っていた。
援護部隊としては心臓が苦しくなるような言葉が並んでいたから…
いくら本人が望む形であっても、死にはどうしたって悲しみが伴う。
だからそんな悲しい結末は、何としても避けなければいけない。
自分の役割を今一度認識し手に力が入るスズだったが、不意に頭に感じた優しい感触にハッと我に返る。
視線を向ければ、自分の頭に手を置きながら笑みを見せる朽森と目が合った。
反射的にその名前を呟くと、彼は目線を合わせるようにしゃがんでから声をかけてきた。
「ゆっくりできた?」
「はい!お陰様で」
「…うん、確かに顔色いいな」
そう言いながらごく自然に頬に手を添える朽森は、やはり百戦錬磨のチャラ男であった。
心拍数が上がり上手く言葉が出てこないスズに、彼は楽しそうに会話を続ける。
「スズってこういうことされるとドキドキするタイプ?」
「し、しますよそれは!っていうか、紫苑先輩にされてドキドキしない人っているんですか?」
「! 何、嬉しいこと言ってくれんじゃん。今から俺の部屋行く?」
「あ、いや、それは…!」
「紫苑、お前いい度胸してんな」
「真澄先輩、顔怖いっすよ。冗談ですから」
お目付け役からの一言に、ヘラッとした笑みで立ち上がる朽森。
だがその途中、ちょうどスズの耳元に顔が来たところで彼はトーンを下げて早口に言葉を紡ぐ。
「また来てくれてありがとな。頼りにしてる」
「! はい!頑張ります」
スズの明るい返事に、朽森は大人組に気づかれないよう少し口角を上げた。
次に言葉を発する時、彼のモードはいつもの軽い感じに戻っているのだった。
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