桃の襲撃を何とか抑え込み、呼吸を整える鬼サイド。
仲間の無事を喜ぶ一方で、下っ端の割にはタフだった相手の強さに驚きと疑問を感じているメンバーもいた。
スズもまた朽森に守られながらケガ人の手当てをしており、忙しく動き回ることになったのだった。
第68話 疑念 ー後ー
「スズ、お疲れ。ケガしてない?」
「はい、大丈夫です!守っていただいてありがとうございました!お陰で治療に集中できました」
「こちらこそありがと。うちの部下も世話になったみたいだな」
「いえ!それより紫苑先輩、着替えを…!」
そう言って朽森の服を手渡そうとするスズ。
だが当の本人はそれを受け取らず、何故か彼女に背を向けて歩き出した。
「じゃあそこの部屋行こっか」
「え?」
「外で着替えるの恥ずかしいじゃん」
「(裸にジャケットは平気なのか?…まぁでも着替えは普通、部屋の中でするものか)あ、じゃあこれお渡ししますね!」
「いや、そのまま持ってきて〜」
「…え?」
「ん?だって俺1人じゃ着替えらんないもん。…着替えさせて?」
振り返った朽森は、キョトンとしているスズの耳元でそう囁いた。
妖しく微笑む先輩に、スズは一気に顔に熱が集まる。
ドキドキしてまた上手く受け答えが出来ずにいたスズだったが、何とか気持ちを立て直し、グッと相手の顔を見上げた。
「な、何言ってるんですか!早く着替えてきてください!」
「え〜」
「そういうことばっか言ってると、本当に女性に刺されちゃいますよ…!」
「平気だって〜今までこれで生きてきたんだから。それにさっきも言ったけどさ、女に殺されるなら大歓迎」
ニカッと笑う朽森に、スズは悲しそうな表情で俯く。
反応が返ってこないことを不思議に思い、"スズ〜?"と呼びかけながら朽森は彼女の顔を覗き込んだ。
さっきまでのドキドキはどこへやら…スズは静かに言葉を紡ぐ。
「…今まではそうだったかもしれないですけど……未来は、何があるか分からないじゃないですか…
変な女に引っかかって、明日殺されるかもしれない。…先輩はそれでもいいのかもしれないけど、私は……絶対に嫌です」
「!」
「自分の命を軽く扱う紫苑先輩は…嫌いです。先輩が死んだら、どれだけの人が悲しむと思ってるんですか?そんな自分勝手なこと許さないです…!」
援護部隊として日々生死を間近で見ているスズにとって、朽森の発言はどうしても受け入れられなかった。
どんなに生きたいと願っていても、それが叶わない人を何人も見てきたのだ。
今こうして生きていることが、どれだけ素晴らしいことか…朽森にも分かって欲しかった。
抱えていた自分の服をさらに強く握り締めるスズの姿に、朽森は珍しく目を見開く。
そして気づいた時には、目の前の少女を優しく抱き寄せていた。
「し、紫苑先輩!?」
「ごめん。援護部隊の子の前で言うことじゃなかった」
「いえ、そんな!すみません、言い過ぎました…」
「ううん、言い過ぎてねぇよ。むしろ…久々にグッときちゃった」
「へ?」
「俺、女の子に怒られること多いんだけどさ…今みたいに、俺のために怒ってくれてんだな〜って感じたの初めてだったから」
「!」
「何かすげー嬉しかった。ありがとな」
「紫苑先輩…」
「あー…こんなとこ真澄先輩に見られたら一発アウトなんですけど」
「アウト?」
「半殺しにされちゃう」
「えっ!?じゃあ、見つからないうちに離していただければ…!」
「それは無理。まだこうしてたい」
「いや、でも、半殺しにされちゃう…!」
「うん、だからさ…ちょっとだけ2人になりたいんだけどダメ?」
腕はスズの体に回した状態で少しだけ体を離し、色っぽくそう問いかける朽森。
普段のチャラチャラした雰囲気は鳴りを潜め、彼の眼差しは真っ直ぐだった。
"す、少しなら…"というスズの緊張気味な返答を聞くや否や、朽森は彼女の腕を掴み速足で近くの部屋へと向かった。
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空き部屋に入ると同時に、脱いだ上着をベッドへと放り投げる朽森。
女好きなチャラい先輩と部屋に2人きり…
スズの思考回路は完全に色気たっぷりな方へ向かって行き、入口付近から動けなくなってしまう。
「スズ、服〜…って、あれ?何でそんなとこいんの?」
「え、あ、いや…今、行こうと思ってたとこです!」
「(あ〜そういうことか)着替えるために上着脱いだだけなんだけど…俺何か変なことしてる?」
「! そ、そうですよね!脱がないと服着れないですもんね!」
「うん。…やらしいこと想像したでしょ?」
「し、してないです!早く着替えてください…!」
「ふっ。は〜い」
分かりやすく動揺するスズを面白がりながら、朽森は押しつけるように渡された服を受け取った。
そして慣れた手つきで着替えながら、ゆっくりと話し始める。
「俺、女の子に"嫌い"って言われたことないんだよね」
「!」
「フラられたり怒られたりするときも、"最低"とか"クズ"とかは言われんだけど、その単語だけは出たことなくてさ」
「あの、私、その…」
「だから初めてかも。……好きになって欲しいな〜って、女の子に対して思ったの」
「えっ?」
謝罪準備のため俯きかけていた顔を上げると、目の前に着替えを終えた先輩が立っていた。
穏やかに微笑む朽森は、再びスズを優しく抱き締めた。
「うわっ…!」
「俺、決めたわ」
「ん?」
「スズに好きになってもらえるように頑張る」
「が、頑張る?」
「そう。カッコ良くて強いとこ見せたり〜ヒーローみたいにスズのこと守ったり〜あと部下に慕われてますアピールしたり」
「…頑張らなくていいです」
「え?」
「今言ったこと全部、私はもう十分知ってます。能力の強さ、顔面の良さ、会って間もない私を守ってくれる優しさ…
なんだかんだ言われてても、大我先輩をはじめ、皆さんが紫苑先輩のことを信頼してるってこと…全部この数日で感じ取ってます。
紫苑先輩は今のままで素敵です。じゃなかったら、あんなに皆から愛されてないです」
「…何でそんなに俺のこと揺さぶんの?さっき"嫌い"って言ってたじゃん」
「それは!…命を軽んじる発言をする先輩が、嫌いっていうことで…そうじゃない先輩はカッコいいと思ってます!」
スズの明るい声を聞いていた朽森の脳内には、昨日の淀川とのやり取りが浮かんでいた。
"でも意外だな〜真澄先輩ってあぁいう子がタイプなんすね"
"お前もそのうち分かるよ"
そう言った時の彼の表情がやけに印象に残っていて、今でもハッキリ思い出せる。
「(真澄先輩の言ってたこと分かったかも…)スズって沼みたいだね」
「え、汚いってことですか?」
「違ぇよ!…ハマったら抜け出せない、ってこと」
「へっ!?」
「あと俺、真澄先輩からスズとの接触禁止令出てんのね」
「あ、それで半殺し…」
「そうそう。だから、俺とこういうことしてるってバレたらダメなわけ」
「は、はい」
「なので…俺とのやり取りとかスキンシップとか、他の人に言っちゃいけません」
「押忍…!」
「……俺とスズだけの秘密な?」
「分かりました…!」
「(真澄先輩すんません。こんな沼女子、手出さないのは無理っす)」
軽い言葉の割に、その表情は意外と真剣で…
淀川が心配していたような、"他の女と同じように接すること"はなさそうである。
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