スズと花魁坂が救急リュックを準備している頃…

一ノ瀬と皇后崎は、ある1人の同期について言葉を交わしていた。


「珍しいな。戦いに行かねぇなんて」

「うるせぇ。それよりも遊摺部から目を離すな」

「は?遊摺部から目を離すな?なんで?」

「さっきの襲撃時見たんだよ。桃の隊員が遊摺部に気づいた瞬間、攻撃をやめて襲わなかった」

「見間違いだろ?お前もテンパってたんじゃねぇの?」


一ノ瀬はそう言って、大して気にする様子もなく会話を切り上げた。

だが皇后崎はそんな簡単には割り切れない。あの時確かに自分の目で見てしまったから。

何の確証もない現状では、これ以上の行動は難しい。

皇后崎は1人冷静な目で、同期の動きを注視することにしたのだった。





第69話 混合 〜 思惑





花魁坂に手伝ってもらい、無事に準備を終えられたスズ。

ふと目をやった先で、無陀野が一ノ瀬に拳銃を渡していた。

少し近づけば、2人の会話が聞こえてくる。


「四季、これを渡す。実弾はダメみたいだったしな」

「これは?」

「実弾より低威力のゴム弾の銃だ。ヒビを入れるくらいの威力はある。頭から下に当てれば、まず死ぬことはない」

「…」

「他の負傷者と一緒に避難しても構わない」

「え…?」

「だがやるやらないの決断をあやふやにしたまま残るのは邪魔なだけだ」

「…だよな。もうちっと頑張るわ」


そう言って、一ノ瀬は渡された銃を見つめながら一旦自分の部屋へと戻って行った。

スズはそんな同期に気づかれないよう、静かに無陀野の元へと近づく。


「…さっきの襲撃の時、戦えなかったんですか?」

「あぁ。それどころか、襲われそうになっても抵抗すらできていなかった」

「やっぱり時間かかりますよね…」

「こればっかりは、アイツ自身がどうにかするしかないからな」

「…少しでも力になれるように、私も四季のこと見守ります」

「ありがとう。助かる」


担任からの言葉に、スズは"押忍!"と明るい笑顔を見せた。

頼もしい秘書の姿に、ボスの表情も穏やかになる。

と、不意に彼女の頭にポンと手を置く無陀野。


「先生?」

「お前自身の方は大丈夫か?不安や恐怖があるなら吐き出していいんだぞ?」

「大丈夫です!周辺の地図はザックリですが頭に入れましたし、避難経路や隠れ場所も押さえてあります。

 あと一旦羅刹に帰った時に、ローラースケートも持って来たんです。これで先生たちのスピードについて行けます!」

「…」

「…何か不安材料がありますか?」

「いや、そうじゃない。優秀過ぎて俺の出る幕がないなと思っただけだ」

「ふふっ。最高の褒め言葉です!…先生の刺青タトゥーが最小限になるように頑張ります」

「何度も言ってるが、スズはいつも頑張ってる。抱え込み過ぎるなよ。何かあった時、誰かに頼るのを躊躇わないこと」

「! はい。ありがとうございます!」

「礼を言うのは俺の方だ。いつも気にかけてくれてありがとう」


今の厳しい状況とは裏腹に、2人の周りには一時穏やかな空気が流れるのだった。



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