各班準備が整い、いよいよ出発の時間となる。

淀川率いる偵察班は残された鬼たちの救助。

無陀野率いる戦闘部隊は杉並区の隊長討伐。

そして花魁坂率いる救護班は、負傷者の治療及びアフターケア。

これから大人組の先輩トリオを中心に、それぞれが自分たちに課せられたミッションを遂行することになる。


「連絡は妨害対策済みスマホでね」

「気をつけてな!……スズ!」

「ん?」

「…ケガ、しないでな」

「ありがとう!」


自分の方へ駆け寄り、心配そうに声をかけてきた一ノ瀬に対し笑顔を見せるスズ。

そんな彼の手を取り、両手で優しく握り締めると、スズは周りに聞こえないよう小さな声で言葉を紡ぐ。


「四季も無理しないで。ゆっくりで大丈夫だからね」

「! …サンキュ」

「おう!」

「…スズに手握ってもらうと安心する」

「まぁ天使だからね!」

「(あ、俺の好きな笑顔。…態度も表情も手のあったかさも、今までと何も変わらない。やっぱスズは…)」

「四季?あの、茶化してくれないと恥ずかしいんだけど…!」

「うん、俺の大好きな天使だ」


一ノ瀬はそう言って、穏やかな笑顔を向けながらスズの手をギュっと握り返す。

茶化すどころか、"大好き"なるパワーワードを放たれ、天使様は一気に落ち着きを失った。


「あ、え、あ、ありがとう…!」

「ははっ!スズ、テンパり過ぎ」

「スズ、そろそろ行くぞ!」

「はい、すみません!じゃあ四季、ちょっと行ってくるね」

「おぅ!」


百鬼に呼ばれ正気に戻ったスズは一ノ瀬に小さく手を振ってから、チームに合流すべく駆け足でその場を後にしたのだった。


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ゾロゾロと地下通路を進む偵察班と戦闘部隊の面々。

分岐点で淀川たちと別れ、スズたちは目的の出口までまた足を進める。

歩きながら敵側の情報やこの後の動きを確認している無陀野・百鬼・印南の会話を、後方から聞きつつノートにまとめるスズ。

ローラースケートのお陰で歩くよりは手元が安定しているため、前方にさえ注意していれば割と作業ができるのだ。

そんな彼女に両サイドから近づく怪しい先輩コンビ。

2人の顔は、真面目にペンを走らせている後輩に絡む気満々だった。


「スズ〜歩きノート危ないよ〜?」

「ちゃんと前も見てますから大丈夫です〜」

「ん〜前とかノートじゃなくて俺のこと見てよ」

「何言ってるんですか!紫苑先輩も会話に入らないと…!」

「平気平気。大我が全部やってくれっから」

「ダメですよ!先輩もちゃんと把握しないと!」

「なぁなぁ、俺の治療してくれた時それ履いてた?」

「いえ、1回羅刹戻った時に取ってきました。って、今そんなことどうでもいいですから!」

「それ楽そうだよな。貸してよ」

「嫌ですよ!これないといざって時に皆さんに追いつけなくなっちゃいます!」

「あぁそれなら大丈夫。そういう場面が来たら俺が抱っこしてあげる」

「お前、あの人からスズに近づくなって言われてんだろ?チクるぞ?」

「名前も言えないぐらいビビってる奴に言われてもね〜」

「はぁ?ビビってねーわ」


スズを間に挟んだまま小競り合いをする朽森と猫咲。

仲良し同期が故の可愛らしい口喧嘩だが、今はそういう状況ではない。

何とか止めようとするスズに構わず、先輩コンビが任務と関係ないやり取りを続けた結果…

ついに怒らせてはいけない"彼"の逆鱗に触れてしまった。

喧嘩を止めるため、2人の間から抜け出し後ろ向きで滑っていたスズは、不意に何かにぶつかって動きを止める。

驚いて振り返れば、そこには殺気に似た圧を発している無陀野がいた。


「先生…!」

「「(ヤバ…)」」

「随分余裕だな。別にお前たちだけで行ってもいいんだぞ?」

「いや、それはちょっと…なっ、波久礼」

「うす…手を貸していただきたいです…」

「なら無駄口を叩いてないで集中しろ。それと…俺の秘書の仕事の邪魔をするな」


背後からスズの頭に手をポンと置くと、無陀野はそう言って今一度後輩たちに睨みをきかせる。

"すみません…"と少し頭を下げる2人とは対照的に、スズは晴々とした顔でボスを見上げた。

そのままお礼を伝えれば、無陀野は少し目元を和らげ、再び前を向いて歩き出した。

彼の後ろ盾を得て強気になったスズは、冗談っぽく勝ち誇ったような表情を先輩コンビに向ける。


「…その顔ムカつく」

「痛っ!鼻がもげたらどうするんですか!」

「ふっ。まだついてるから安心しろ」


スズの鼻をギュっとつまんだ猫咲は、後輩の100点な反応にとても満足気だ。

横を通り過ぎる時にワシャワシャと頭を撫でてから、彼もようやく先頭グループに合流した。


「絶対赤くなってるよ…」

「俺はさっきの顔も好きだけどね」

「なっ…!チャ、チャラ男発言禁止です!」

「え〜本心言ってるだけなんだけどな〜。あ、それよりスズ鼻見せてみ?」

「あ、はい…赤くなってません?」

「なってるなってる。治してあげよっか?」

「出来るんですか!?お願いします!」


明るい表情でグッと顔を上げるスズに、朽森は素早く先頭グループの様子を伺い、誰も見てないことを確認する。

そして目の前の少女が少し視線を外した瞬間、2人の間に聞こえるチュッという可愛らしい音。


「のわっ!?な、何を…!」

「これすると早く治んのよ」

「う、嘘だ…!」

「スズ、静かに。俺とのスキンシップは?」

「秘密、です…」

「よくできました。じゃ行こっか!」


ポケットに手を入れながら楽しそうにそう言って、朽森もまた先頭に追いついた。

この数分で感情がジェットコースター状態になり大変な思いをしたスズだったが、向かう先に見える男性陣の姿に安心感を覚える。

5人の背中はどれも大きくて、自信と強さに満ち溢れていた。

足手まといにならないようにと改めて気合いを入れ、ローラースケートを強く蹴るスズなのだった。



to be continued...



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