「周辺に大勢の警護…中はもっと多いかもな。あのビル丸々、杉並区桃太郎機関の"本部"だ。
ほかにも支部がいくつかあるが、右京がいるのはあそこだろう」
「支部はうちの部下たちが対応する!あと右京が逃走する可能性も考慮して、周辺に部下を配置してる」
和やかムードを切り替え、杉並コンビが作戦について今一度確認を行う。
話を聞き終えると、スズは5人の大人たちに向けて声をかけた。
「皆さんお気をつけて…!」
「ありがとう!スズがいてくれると心強い!ゴフッ」
「まっ、待機し損になるかもしんねぇけどな」
「それに越したことはないです!役割的に私は暇な方がいいんですから」
「確かにそうだな。いいかスズ?一旦場が落ち着くまでは絶対来るなよ!瓦礫が当たってケガしたら大変だからな!」
「はい!」
「スズ〜充電させて?」
1人1人と言葉を交わしていたスズの元へ不意に近づいたかと思えば、そう言って抱きついてくる朽森。
この短時間で何度となく繰り返される彼のセクハラ行為を、先輩も同期も呆れたように見つめていた。
そんな視線を背中に受けながら、朽森は耳元でスズにだけ聞こえるように言葉を紡ぐ。
「頑張るからさ、終わったらご褒美欲しいな〜」
「ご褒美…喜んでくれそうなもの持ってないですよ…?」
「大丈夫、持ってるよ。…スズの時間、俺にちょうだい?」
「! い、いやらしいことするんですか?」
「ふっ、しねぇよ。嫌われたくないし。…ただ一緒にいたいってだけ」
「…何か紫苑先輩が言うと、それだけでもドキドキしそうなんですけど…!」
「いいよ、ドキドキして。そうさせたくて言ってるから」
「!」
「(何この子、可愛すぎない?すぐ体熱くなってくるじゃん)…手出しちゃったらごめんね」
「なっ…!」
「紫苑。いい加減離れろ」
「は〜い」
ニヤリと笑いかけると、朽森はようやくスズを解放した。
パタパタと手で顔を扇ぐ教え子に、無陀野は"大丈夫か?"と顔を覗き込む。
「あ、はい!大丈夫です!…無人先生も気をつけてくださいね」
「ありがとう。危ないと思ったら、真澄の力で姿を消して俺に連絡を入れること。いいな?」
「了解!」
「よっしゃ!杉並区鬼機関の戦闘隊員どもも気合い入れてけよ!」
『はい!』
「なるべく派手に暴れろ。桃の人員を集められる」
「鬼捜査中の桃も応援に来させて、被害にあう鬼を減らすってことですね!グッドで…ゲホッ!」
「準備はいいな。死ぬことは避けろ。何かあればスズに連絡だ。…行くぞ!」
無陀野の合図で、ついに戦闘部隊が動き出した。
突入に向けてビルから飛び降りていく4人の先輩を見送ったスズは、すぐ横で血蝕解放する担任を見上げる。
見慣れた血の兵士たちが空に浮かぶや否や、向かいのビルは見るも無残な姿となった。
「ぐ…あの野郎…!」
「いきなり半壊させやがった!」
「効率よくいこうか」
「さすが無人先生…!」
「じゃあ行って来る。また後でな、スズ」
「はい!いってらっしゃい!」
笑顔で送り出してくれるスズの頭にポンと手を置いてから、無陀野もまたビルから飛び降りて行った。
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5分も経つ頃には土埃や桃側の叫び声も落ち着き、ビル内での戦闘がメインになっていった。
今なら外にいた見張りもなく、自分でも入って行けるだろうと判断し、スズは大人組と同様軽やかに下へと降りる。
リュックの肩紐を握り締めながら、足音を極力立てないようにして中へと進む。
途中でケガをしている隊員たちの応急処置をすれば、彼らは感謝の言葉を伝えてから再び戦場へと戻って行った。
そうしてたどり着いた大きなホールのような場所。
中からは建物が破壊されるド派手な音が聞こえ、同時に大地震のような振動が伝わってくる。
当然この中にもケガをした隊員がいるため、スズは意を決して室内へと踏み込んだ。
思っていた以上に暴れ回っている5人の大人たちを苦笑交じりに見やりながら、端の方で倒れている隊員の治療を始める。
「大丈夫ですか?今止血しますね」
「あぁ…ありがとう…助かるよ」
「どういたしまして!」
「すごいな、援護部隊なのに…怖くないのか?」
「怖いですよ、ロクに戦えないですから。でも最低限の体術は教えてもらってますし、何より皆さんが必要としてくれるなら、それに応えたいんです」
「そうか…優しいな、君は」
「天使って呼んでくれる人もいるんですよ?」
「ははっ。じゃあ俺もそう呼ばせて…危ない!」
穏やかな空気が一転、隊員はスズの背後に迫る桃の存在を認識して声をあげる。
彼女を護ろうにもケガの影響で上手く体が動かず、万事休すかと思った次の瞬間…
隊員の前には、桃が勢いよく振り下ろした鉄パイプを血で造り出した骨で受け止める天使の姿があった。
力で押し負けそうになりながらも、スズは何とか足を動かし相手の脛を蹴り飛ばす。
そして痛みで少しバランスを崩した桃から鉄パイプを奪い取り、すかさず得意の体術に持って行く。
前評判通り見事に相手を制圧したスズは、鬼の隊員を守るように仁王立ちで腕を組んだ。
「ケガ人と女相手に襲いかかってくるなんて最低です!今治療中なんで邪魔しないでもらえますか!?」
「うぅっ…この、クソガキ…」
「誰がクソガキですか!あなたには言われたくないです!」
このドタバタの中、桃太郎相手に何故か説教をしている少女を見つめる5人。
誰もが助けに行かないとと思っていたのに、その必要がないどころか頼もし過ぎる一面を見て、先輩4人は口元に笑みを浮かべていた。
一方で無陀野は相変わらずだが、満足そうな表情を隠せてはいなかった。
一時的に5人だけで無線を繋ぎ、各々思っていることを話し始める。
『スズの奴、すげぇな!』
『説教までしてんのウケるけどね』
『その正義感の強さがスズの良いところ…ガハッ!』
『でも出番なくなっちゃったな〜あ、スズの護衛に俺行っていいっすか?』
『必要ない。あいつは1人で大丈夫だ。だがいざという時にはいつでも行けるように、全員意識を向けておいてくれ』
無陀野の言葉に、後輩たちは揃って"了解!"と言葉を返す。
大人組が自分のことを話しているとは知らず、スズは未だに桃太郎へのお説教を続けているのだった。
to be continued...
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