やけに明るい月夜を見上げながら、スズは"その時"が来たと本能的に感じ取った。

朽森が言っていた"考えなければいけない時"が…

瓦礫の山と化した本部から移動しつつ、5人は言葉を交わす。

口火を切ったのは猫咲であった。


「あらかたぶっ潰したけど…右京はいませんね」

「上から右京は見えたか!?」

『いませんでした!』

「最初からここにはいなかったか」

「四季のことも捜さないと…!」

「京夜さんの報告だと、多分一ノ瀬は右京の所だな」

「何かされたりしてないですよね…?」

「大丈夫!四季君は必ず生きてる!いいかい、スズ!わからない時こそ明るい方を信じるんだ!ガハッ」

「幽先輩…!そうですよね!四季は大丈夫!」

「2人ともうるさ」

「子供が拉致ってのはどうゆうことだぁ…!怖い思いしてるに決まってらぁ…!支部の方に右京はいねぇのか!?」

『(優し)いません!』

『(絶対怖い顔してるだろうけど優し)こちらもいません!』

「とにかく急いで右京を捜索しないとだね。奴が見つかれば必然的に一ノ瀬の居場所も分かるから、気合い入れろよ」

「はい!」


猫咲と無陀野に挟まれて歩きながら、スズは元気にそう答えた。

直後、何かの気配を察した無陀野がグイと彼女の腕を引く。

驚く秘書を護るようにして振り返った先に、見覚えのある桃が2人立っていた。


「無陀野ぉぉぉ!」

「ミョリンパ先生…困難とはこのことなんですね…」


練馬の桃太郎・桃華月詠と桃角桜介が再び無陀野の前に姿を見せた。


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時は数時間前に遡る。

右京に呼び出された月詠と桜介は、豪華な調度品に囲まれた隊長殿を前に不満げな表情を見せる。


「随分な所に拠点構えてんじゃねぇかよ」

「よぉ問題児ども、来てもらって悪いなぁ。お前らも出世しちまって、昔は可愛げがあったのによぉ」

「うっせぇよ。んで?俺ら呼んだってことは困ってんのか?」

「あぁ。今回の戦争は絶対勝たなきゃいけねぇ」

「なんでですか?」

「そりゃ大金がかかってるからに決まってんだろ。長引く戦争のおかげで、今や主要の鬼には懸賞金が懸けられてる」

「興味ねぇな」

「右京さんてそんなお金好きな人でしたっけ?」

「年を取るにつれて金の偉大さを知っていったのさ」

「でも杉並の資料だと、紫苑・大我合わせても1億にならない金額ですけど?」

「特別ゲストが来てんだよ。無陀野一行がな」


右京のその言葉に、2人の目の色が変わる。

どこからか練馬での敗戦に関する情報を仕入れた右京は、リベンジという餌で彼らを釣り上げようとしていた。

すぐに食いつく桜介を制し、練馬の隊長は冷静に問いかける。

"懸賞金目当てなのに、自分たちに首を取らせるのはどういうことか?"…と。


「俺の最優先は最高額の一ノ瀬四季だ。お前らの部隊は一ノ瀬討伐の邪魔になる無陀野の排除をやってくれ」

「やろうぜ月詠!最近つまんねぇ争いばっかで退屈してたんだ!」

「…まぁせっかく来たんだしね。やり方はこっちで決めさせてもらいますよ」

「こっちの要望も聞いて欲しいんだけどなぁ」

「断る。俺らに指図してぇなら神様にでもなってからにしろ」

「わかったよ。お前らが言うこと聞くなんざ思ってねぇさ」

「じゃあこれで失礼しますよ」

「あー待て、1つ言い忘れてた。もう1人欲しい鬼がいんだよ」

「欲しい鬼?」

「木下スズってわかるか?」


聞いた瞬間、桜介の纏う空気が変わる。

生け捕り命令が取り下げられ、変な輩に狙われる心配はなくなった。

懸賞金は元よりかけられていないため、金目当ての奴らも相手にしないと思っていた。

だが今目の前の隊長は、ハッキリとその名前を口にしたのだ。

拳に力が入る同期を横目に見ながら、月詠は殊更冷静な口調で話し出す。


「…もちろん知ってます。生け捕り命令が出てたぐらいですから」

「だよな。そいつも捕まえてきてくれ。わかってると思うが、生け捕りだぞ?」

「懸賞金もないのにどうして彼女を?」

「治癒の力を持ってる鬼だ…欲しい奴は絶対にいる。そいつらに高く売るんだよ」

「! …ふざけんなよ。あいつは俺らが「桜介ストップ」

「どうした?なんでそんな感情的になってる?」

「いえ、何でもないですよ。わかりました。彼女のことも頭に入れておきます」

「月詠!」「頼むな」


今にもイライラをぶつけてきそうな相棒を無視して、月詠はさっさと部屋を出てしまう。

廊下では何とか我慢していた桜介だったが、エレベーターに乗り込んだ瞬間一気に爆発した。


「おい、どういうつもりだ!あんな理由でスズを捕まえるなんざ許さねぇぞ!高く売るって何だよ…あいつはモノじゃねぇ!」

「僕も同じ気持ちだよ。みすみすスズを渡したりしない。彼女は大切な人財としてうちに迎え入れるんだから」

「だったら…!」

「でもあそこでそれを言ったら、別動隊を出して手荒に捕まえた後、僕たちに売ってくるだろ。

 そんな関係性で仲間になっても、絶対に望む形にはならない。だったら自分たちで動いた方がいい。

 1つ気がかりなのは、他にスズを捜している奴がいるかどうかだね…」

「クソッ!せっかく生け捕り命令がなくなったのに…またスズを怖がらせちまう」

「無陀野と並行してスズの捜索も隊員に伝えておこう。桜介の恋のお相手を護らないとね」

「おう。誰にも手は出させねぇ」


"恋"という単語にあれほど敏感に反応していた桜介が、今回は噛みついてこない。

ようやく自覚が出てきたのかな…と、月詠は保護者のような目で彼を見つめるのだった。



to be continued...



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