「無陀野ぉぉぉ!」

「ミョリンパ先生…困難とはこのことなんですね…」


再び無陀野の前に姿を見せた、月詠・桜介の練馬コンビ。

と同時に、スズへ向けた1本の連絡が入る。

逃げる途中でケガをした鬼や、桃との戦闘で負傷した隊員が多数出た。

一時的な救護所を設けたからそこに来て欲しいという内容だった。





第72話 高円寺奪還作戦A





「月詠、あそこにいんのスズだよな!?」

「間違いないね。良かった…表情を見る限り、まだ怖い思いはしてなさそうだ」

「だな。周りに怪しい気配もねぇし、今んとこ俺ら以外の桃太郎はいねぇな」


思っていた以上に早くスズを発見することができ、練馬コンビはホッと胸をなでおろした。

心配していた別動隊もいないため、2人はお目当ての人物との戦いに意識を集中させる。

一方、鬼サイドの動きはというと…


「早いとこ右京を捜さないといけないですからね。無陀野さんと大我は捜索に行ってください。

 スズも途中までは一緒に行動するように。仲間の救護頼むね。…ここは俺らが相手するんで」


そう言いながら、猫咲と印南は3人の前に出る。

当然、練馬コンビは不満爆発だ。

"何でお前らとやらなきゃいけないんだ"と声を荒げる桜介に対し、猫咲がゆっくりと近づいて行く。


「えー?ゲームとかやったことありません?いきなりラスボスと戦えないですよー。

 まずは手前の雑魚と戦うのは常識ですよー。まったくもー…まぁ気ぃ抜いてっと、その雑魚に殺られることもあっけどなぁ!」

「は!テメェいい目してんじゃねぇか!」

「任せたぞ」

「死ぬなよ!できれば怪我もすんなよ!」

「波久礼先輩、幽先輩…またあとで!」

「おぅ、あとでな!」「気をつけて行くんだよ!ガハッ」


こうして朽森に続き、猫咲と印南がチームから離脱した。

2人の無事を祈りつつ、スズは無陀野・百鬼と共にその場から移動する。

走ること数分、今度は彼女がチームから抜ける番だ。


「無人先生、大我先輩!ここで別れます!」

「あぁ」

「…無陀野先輩、やっぱ俺がギリギリまで一緒に行った方がいいんじゃねぇか?」

「俺の秘書は優秀だ。必要ない」

「先輩、ありがとうございます!この辺の地図も抜け道もちゃんと把握してるので大丈夫です!」

「そうか!じゃあそっちは頼んだ。ちゃんと休憩取れよ!」

「了解です!」


笑顔の百鬼に頭を撫でられ、スズもまた元気よく言葉を返す。

直後にかかってきた部下からの連絡に対応する百鬼を横目に見ながら、無陀野は優秀な秘書の元へ近づいた。

優しくスズの頭に手を置くと、静かに言葉を紡ぐ。


「目の前に患者がいると無理をするのが、お前の唯一の欠点だ」

「はい…」

「頑張らなくていい」

「!」

「スズはいつも頑張ってる。それは俺が一番よく知ってる。だからいつも通りに…いいな?」

「分かりました!自分のこともちゃんと護ります」

「満点の返事だ。何かあれば、些細なことでも連絡しろ。1人で抱え込むなよ?」

「らじゃ!ありがとうございます!」


安心したように明るい笑顔を見せるスズ。無陀野は彼女とさらに距離を詰める。

そして百鬼がこちらを向いていないのを確認すると、自分を見上げている秘書をふわっと抱き締めた。

思いがけないタイミングでのハグにテンパるスズを他所に、無陀野はポツリと言葉を漏らす。


「……紫苑だけズルい」

「!」

「俺だって充電が必要だ」


聞こえてきた単語から思い出されるのは、本部へ乗り込む前のやり取りだ。

朽森が"充電させて"とスズへ抱きついてきた…あの出来事。

同じことをまさか無陀野がしてくるなんて。

ドキドキは止まらないが、そのいつもとは違う少し子供っぽい言い方に、スズの顔には笑みが浮かぶ。


「何か先生可愛いです!」

「うるさい」

「ふふっ。あ、じゃあ!こうしたら充電完了しますかね?」


無邪気にそう言うと、スズは無陀野の背中に手を回しギュッと力を込める。

いつも一方的に抱き締めてきた彼にとって、スズからの行動は思わず目を見開くほどの衝撃だった。


「…逆効果だ」

「えっ」

「ますますお前が欲しくなった」


自分に回されている腕の力が強くなるのを感じ、スズは一気に余裕がなくなる。

アタフタする彼女に気づいていないのか、無陀野は熱っぽく名前を呼びながら肩に顔を埋めた。

だが首元に感じる吐息に脳内がショートする寸前、面白いぐらいあっさりと熱源が離れる。

突然の出来事に辺りを見渡せば、部下との会話が終わり、百鬼がこちらへ戻って来ようとしているところであった。


「(すごい…!大我先輩の声が聞こえてたのかな…)」

「無陀野先輩、待たせてすみません!行きましょう!」

「あぁ。…ありがとう。充電できた」

「いえ…!よ、良かったです!」

「ふっ。またあとでな、スズ」

「! はい、またあとで!」


そうして2人と別れたスズは、一時救護所へ向けて走り出した。



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